リジー

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10/27/2024, 3:41:20 AM


愛言葉

 身近に潜む怪異を、呼び出すための合言葉がある。「おいでください、おいでください」
でも、これだけじゃあ来てくれない。深夜3時に自分の部屋の窓の外に向かって合言葉を言うのだ。
 窓を開けると、冬に近づきすっかり冷えた空気が鼻先をくすぐる。期待に胸を膨らませながら、合言葉を、「おいでください、おいでください」
両手をきゅっと握って念じる。どうか来て──!
「……やっぱりなにも─ってきゃ!?」
途端に薄く開けた窓から風が吹いて、部屋の中をすべてかき回してしまった。
「なっなに?もしかしてホントに…」
肩にぽんと冷たい手が乗った。
「きゃあああああああっ!」
咄嗟に後ろを向く、と着物を来た美少年が立ってい
た。
「ハハッびっくりしすぎでしょ」
そして大丈夫、大丈夫っと私を抱きしめた。
「えぇ!」
急な展開に目が回る。私怪異さんに抱きしめられてる!?
「僕の名前は夕凪。よろしくね」
彼は耳元でそっと呟くように名乗った。
「君が僕を呼んだ理由。ちゃぁんと知ってるよっ」

9/21/2024, 6:40:34 AM

大事にしたい
 夕方の神社。寂れたそこには秘かに神様が住んでいる。
「なにか面白いことはないだろウか」
 退屈な毎日の中に、何十年かぶりの参拝者がやってきた。忘れ去られた山の神社の中に。
 悲壮な顔をした少女は鮮やかなメイクや爪をしている。
これはイイ!遊びがいのある新しい人間だ。
「やあ、そこなお嬢さんこんなトコに何しに来たの?」
 努めて明るい声で話しかけた。けれどその人間の目は胡乱げ。少女は冷たい声音で僕に答えた。
「気にしないで。ただの気まぐれだから」
 せっかく遊ぼうと思ったのに、そんな反応では辛いじゃあないか。
「なぁに、悩み事?僕に言ってみなよ。手伝ってアゲル」
 少女は驚いたような表情をした。そして、初めて僕の瞳を見た。
「なンだい、僕に惚れちゃった?」
 少女は笑った。
「心配させてごめんね、この神社に思い入れがあるんだ。ただ大事にしたいだけなの」
 僕は首を傾げた。ここ何十年も人が来ていないのにどうして思い入れがあるのだろうか。
「君がココに来るのは初めてだと思うんだけど」
 少し恥ずかしそうに少女は目を伏せた。
「来たのは初めてなんだけど、おじいちゃんが撮ったこの神社の写真がずっと大好きで。……やっと来られたんだ」
 さっき悲しげな顔をしていたのは──?
「おじいちゃん、もういないの。でもなんかいる気がしてさぁ」
 僕は神様だから、この娘の祖父がいない事がわかってしまう。けど、少し嘘をつきたくなった。
「よかったね。君のおじいちゃんらしき人がずっと君を見守っているよ」
 僕がそう言ったらその子は目に大粒の涙を貯めて、僕を抱きしめた。「ありがとう」と小さく呟いて。

8/16/2024, 4:08:14 AM

夜の海

 さざ波が私の歩みを止めた。塾帰りの疲れた体が癒やしを求めて黒い海に誘き寄せられた。
 小さな星星などは見えないが、黄色味が強い三日月がうっそりと私に微笑んでいる。
 もっと近くで見ていたい。靴と靴下をさっと脱いで、天を見上げつつ、足指で生温い夏の海を楽しむ。
 潮風が髪を靡かせ、首筋が涼しくなった。映画の様だと思い、身も心も洒落た気分になって歌まで歌い、浅瀬で独り踊り続けた。

8/10/2024, 2:40:23 PM

終点 夏月駅

 とある夏の日の夜。──途方に暮れた男がいた。

「ここは、一体どこなんだ?」
 流れるような冷たい風が、パニックで熱くなった頭を撫でた。


7/29/2024, 5:21:12 AM

お祭り

 石造りの階段、さん、にい、いち──
鳥居の前でお辞儀をして、端を通り、手を口を清め。前坪の間がじくじく痛むのを堪えて、踏ん張りながら歩いた。
 目的地は神社の奥の公園。あそこは花火が、頭の天辺に落ちてきそうなくらい、迫力満点で近く見える。
「……まだ1時間もある」
 時計を見ると、花火大会まで時間に結構余裕があることがわかった。
 そう急いで来ても、なんの意味もない。
なんとなく恋愛小説のように想い人に会えるものと想っていただけだ。
「凪里くんに会いたかったなぁ」
 お盆まで二週間以上ある。凪里くんはまだまだ帰ってこれない。
 露店で売っていた、ソースでぬめるジャンクな焼きそばを乱暴に口に入れ、涙で味を濃くした。
 何度も落ちてくる袂に苛立ちを感じる。

「見て、夕焼けが、綺麗だね」

彼の言葉を思い出してみても、苛立ちは止まらない。

「日は落ちてても空、ずうっと真っ青なの」

思い出の再現をしてくれない。
風だって去年はこんな悲しげじゃなかった。
ハンディファンで乾いた涙は、拭っても、張り付いて離れてくれなかった。

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