リジー

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大事にしたい
 夕方の神社。寂れたそこには秘かに神様が住んでいる。
「なにか面白いことはないだろウか」
 退屈な毎日の中に、何十年かぶりの参拝者がやってきた。忘れ去られた山の神社の中に。
 悲壮な顔をした少女は鮮やかなメイクや爪をしている。
これはイイ!遊びがいのある新しい人間だ。
「やあ、そこなお嬢さんこんなトコに何しに来たの?」
 努めて明るい声で話しかけた。けれどその人間の目は胡乱げ。少女は冷たい声音で僕に答えた。
「気にしないで。ただの気まぐれだから」
 せっかく遊ぼうと思ったのに、そんな反応では辛いじゃあないか。
「なぁに、悩み事?僕に言ってみなよ。手伝ってアゲル」
 少女は驚いたような表情をした。そして、初めて僕の瞳を見た。
「なンだい、僕に惚れちゃった?」
 少女は笑った。
「心配させてごめんね、この神社に思い入れがあるんだ。ただ大事にしたいだけなの」
 僕は首を傾げた。ここ何十年も人が来ていないのにどうして思い入れがあるのだろうか。
「君がココに来るのは初めてだと思うんだけど」
 少し恥ずかしそうに少女は目を伏せた。
「来たのは初めてなんだけど、おじいちゃんが撮ったこの神社の写真がずっと大好きで。……やっと来られたんだ」
 さっき悲しげな顔をしていたのは──?
「おじいちゃん、もういないの。でもなんかいる気がしてさぁ」
 僕は神様だから、この娘の祖父がいない事がわかってしまう。けど、少し嘘をつきたくなった。
「よかったね。君のおじいちゃんらしき人がずっと君を見守っているよ」
 僕がそう言ったらその子は目に大粒の涙を貯めて、僕を抱きしめた。「ありがとう」と小さく呟いて。

9/21/2024, 6:40:34 AM