愛言葉
身近に潜む怪異を、呼び出すための合言葉がある。「おいでください、おいでください」
でも、これだけじゃあ来てくれない。深夜3時に自分の部屋の窓の外に向かって合言葉を言うのだ。
窓を開けると、冬に近づきすっかり冷えた空気が鼻先をくすぐる。期待に胸を膨らませながら、合言葉を、「おいでください、おいでください」
両手をきゅっと握って念じる。どうか来て──!
「……やっぱりなにも─ってきゃ!?」
途端に薄く開けた窓から風が吹いて、部屋の中をすべてかき回してしまった。
「なっなに?もしかしてホントに…」
肩にぽんと冷たい手が乗った。
「きゃあああああああっ!」
咄嗟に後ろを向く、と着物を来た美少年が立ってい
た。
「ハハッびっくりしすぎでしょ」
そして大丈夫、大丈夫っと私を抱きしめた。
「えぇ!」
急な展開に目が回る。私怪異さんに抱きしめられてる!?
「僕の名前は夕凪。よろしくね」
彼は耳元でそっと呟くように名乗った。
「君が僕を呼んだ理由。ちゃぁんと知ってるよっ」
10/27/2024, 3:41:20 AM