今日も仕事から帰宅して、ひと時の休息。刑事として過ごす日々は慌ただしいがやり甲斐に満ち溢れている。
いつもお世話になっている食堂のおばちゃんから貰ったカレンダーを壁に飾って、パラパラと12枚の写真を見てみる。
「…………ん?」
何故か、全ての写真にとても見覚えがある。4月の写真をじっと見つめてみる、と。
「……こ、れは……」
自分が捜査を担当した、自殺行為のあった場所。どれもこれも12月まで、全ての写真が自分の担当した事件の場所なのだ。
祝日でもなんでもないのに、丸がつけられている日付は事件のあった日そのもの。偶然にしては出来すぎている。
あまりにも気味が悪くてカレンダーから距離をとる。そういえばこのカレンダーを渡された時。
“たまには昔の失敗談も思い出しなねぇ”
その時は何も思っていなかった。いつものようにおばちゃんも笑っていた。しかしこの写真を見せられている事実が、自分のもしもの恐怖を煽る。
……自殺じゃ、なかった…………?
そんな訳ない、と頭をぶんぶん横に振る。気持ち悪くなって昔の記憶に蓋をした。
『カレンダー』
ぴろん、と通話が終わる。暗くなったスマホの画面に映る自分を見つめて喪失感に襲われた。
この時間はなんとも言えない虚無が待っているから嫌いだ。唐突に1人になる瞬間。
好きな配信者の生放送を見に行ったけれど今日は何だか気分が乗らなくてそっと閉じた。
バイト先でミスをした。
鼻が詰まってて辛かった。
寝不足で眠かった。
単純な嫌が積み重なって大嫌いになる。全て失いたい、なんてあまりにも贅沢な事を考えた。
『喪失感』
世界に一つだけの自分だけのスキル。そう聞くといかにも特別で強そうな言葉に聞こえる。
属性攻撃の威力が上がるだとか。
5分間移動スピードが上昇だとか。
他人との交渉が成功しやすいだとか。
条件を満たすとHPが増えるだとか。
勇者として呼ばれた者達に与えられる一つだけのスキルは、誰もが主人公になれる様なスキルばかりで。
俺が異世界で手に入れた自分だけのスキル。
……10歩歩くと木の棒が1本手に入るって、何これこのゴミくそスキルは。
これで魔王討伐できる訳ないだろ。いや魔王討伐させる気がないだろ。これもうスキル側からお前には無理って言われてるやん。
てことで俺氏、今日から異世界で最強建築士目指します。
『世界に一つだけ』
真っ赤に染まった自分の掌と、目の前に転がる誰かの死骸。悲しくも苦しくもないのに、何故か自分の目から涙が溢れ出る。
死骸の首元に手を添えれば、勝手に力が入って首を絞めた。本来の感触とは違い、そのままぐしゃりと首がもげる。
顔が見えない。
靄がかり、認識できない。
どうしてか、自分の手はもげた首から上を、自分の口に運んでいく。
あぁ、この感覚。期待から胸が高鳴り、口いっぱいに唾液が分泌されていく。
今日も、命に感謝して。
いただきます。
『胸の鼓動』
禍々しい雰囲気の要塞の中、青空まで吹き抜ける訓練場で今日も今日とて兵士達の訓練が行われていた。
「これ、今日勝った方デザート奢りな」
「今日はデザートやな、おっけ」
一際輝くバッジを胸元に付けた2人はそれぞれの得意武器を手に取ると一定の距離を開ける。訓練場に鳴り響く笛の音と共に2人の姿が一瞬で見えなくなった。
「……ふ、ちょっと遅ない?𓏸𓏸」
「喋っとる余裕なんてない癖にな……っ!」
煽りながらもお互い攻撃を交わし交わされ、金属音がけたたましくなり続ける。一般兵から見れば戦場と言うよりは、まるでお互いの動きを把握しているのではないかという程美しく踊っているように見えた。
数分後、決着がついたのか2人の動きが固まる。
「よっしゃ今日は俺の勝ちやな!」
「くっそ……今週は𓏸𓏸の勝ち越しか」
「来週も俺が勝つで」
「んや、譲られへんわ」
2人はにっ、と笑い合うと晩飯の話に花を咲かせながら嵐のように去っていった。
『踊るように』