ぽたり、彼の頬に涙がつたう。これ以上彼を傷つけてはならない。
そんな事は露知らず、次々と彼を傷をつけていく。ぼろぼろ、ぼろぼろ。彼は更に涙をこぼす。止めようとも止められず、次第に量は増えるばかり。
「恵みの雨だ!」
燃え盛る大地に降り注ぐ大量の雨。それはもはや豪雨。雷が鳴り始め、きらきらと空は稲妻を走らせる。
神の哀しみだとは誰も分かるはずもなく、争いは悪化する一方だ。人々が争えば争うほど、空は更に泣き喚いた。
『空が泣く』
スマホに囚われるとはこういう事なんだろう。返信はまだかと画面に張り付いてそわそわ。
ゲームをしてみてもyoutubeを見てもそわそわは無くならず、君以外の通知音を切ってひたすらに待ち続ける。
分かってる。きっと自分以外にも友達以上恋人未満の友達がいる事、きっと自分は1番じゃない事も。
それでも今日の夜は通話してくれるって言ったから、今日の夜だけは自分との時間。
バイト中なんてきっと嘘なんだろう。それでもいいから、なんでもいいから、早く、
“もう少し遅れそうごめんね”
……あぁそうだよね。期待するだけ無駄だ。そっとスマホを消音にして閉じた。
『君からのLINE』
泣き叫ぶ人々と、ヘリコプターから銃を構えている人々。銃口の先は俺ただ1人。1人、なんて数え方も最早間違っているのかもしれない。
「ここまでだぞ!魔王!!」
かっこよく決めゼリフやら呪文やらを唱える勇者。レベルアップさせてやる時間を設けてやったのはどっちだよ。仲間も何人か離脱させないと絵面が同じで面白くないだろ。
俺もそっち側になってみたいよ。勝ち組め。
「この命果てようとも、勇者の名にかけて必ずお前を打ち倒す!」
どれだけ頑張ってもこの世界線では負けるんだ。少しくらい大袈裟にやられてやるか。
「私の命が燃え尽きるまで抗って見せろ!」
どう?ちょっとはかっこよく決めれたかな。それじゃ、カッコイイカッコイイ勇者様にやられてきますか。
『命が燃え尽きるまで』
今日が始まる数分前。静かな街にコツコツと彼の足音だけが響く。
毎晩違う女を連れ帰ってきては借金を膨らませる親父に呆れて家を飛び出した彼は、今日も無事に朝が迎えられそうな事に感動していた。
「明日の飯代……はバイト先の先輩に縋るか」
自分の働いた金は全て親父の借金に消えていた事を知り、温情で周りの人から金をたかる事に成功した。明日は久々に美味い飯へありつけそうだ。
夜明け前、自販機の下に100円玉を見つけてにやにやしながら身を隠すように路地裏へ消えていった。
『夜明け前』
本気で好きだった。本当に。
嘘は無い。嘘がつける程余裕なんてなかった。
騙される方が悪い。……言い返す言葉もない。
…………。
「私の事嫌い?」
「嫌いなわけじゃない」
「じゃあ好き?」
「好きだよ、嘘じゃない」
「じゃあ何でもう1人いるの」
「それは、……ごめん」
「……くそが」
涙すらも出なかった。呆れと怒りの後に虚無感と寂しさに襲われる。あんな奴に出会わなければ良かった。恋なんて、本気になった方が負けなんだ。
『本気の恋』