天啓が来る、なんて不思議な話絶対に無いと思っていた。
「……誰ですか」
「だぁかーら!!神様って言ってるじゃん!」
残業から帰宅中の見慣れた道、目の前には肌の白い子供。本当に見た目が子供なのだ。突然現れて、世界を救えと言われて、自称神様を言い張っている。
「警察……」
「待って待って!ほんとだから!」
「じゃあ神様っぽい事して」
「んむぅ……分かった、いくよ?」
そう言って自称神様はなにか唱え出す。すると手に持っていたスマホがひとりでに浮き上がり、くるくる回転し始めた。
「ほらほら!見て!!凄くない?!」
「……何か……しょうもな……」
「んにゃ?!しょーもない?!?!」
「…………はぁ……神様と言うか、人間じゃ無いのは分かった」
「うむ」
「で、俺に何して欲しいわけ」
「世界を救ってください!」
「……さよなら」
「まってまってまてぇえい!!違う違う!そのー、この世界じゃなくて、あっち!!」
「あっち?」
「向こう側の世界!……えっとぉ……異世界!ってやつ!!」
必死に引き止められ、駄々を捏ねられる。人通りが少ないとは言え、深夜の道であまり騒がれては困る。
「で、それ行ったら俺はどうなるの」
「ちゃんと救ってくれたら、一生こっちで遊んで暮らせるだけお金あげる」
「詐欺」
「じゃあじゃあ!先払いする!!」
「先払いって……随分と現実的な……」
「人間はケチな奴が多いからね。お金関連はちゃんとしないと」
「はぁ……」
「振込を確認した瞬間に向こうに連れていく。それでいい?来てくれる?」
「…………分かった。だからあんま騒ぐな」
「ありがとう!」
「騒ぐなバカ」
「うっす……」
神様は手を掴んで目的地へと引っ張っていく。ふとこちらを見て、こう言った。
「これからよろしくね、勇者様!」
『神様が舞い降りてきて、こう言った。』
「貴方が選ばれました。おめでとうございます」
世界中の健康な人間から一人、臓器提供しなければいけない者がランダムに選ばれる。
「何で俺が!」
「どうして私なの……」
「早く帰らせてよ!」
ここに連れてこられた者は皆、思い思いに泣き叫んだり絶望したり様々だ。
「誰かの為になるならいいよ」
中には淡々と受け入れる人間もいる。これが運命だと言うように、なんの抵抗もなく。
「誰かの為、などと建前ではないのですか?」
ふと疑問に思った審査官は、そう聞き返した。光を宿していない瞳が審査官をじっと見つめる。
「私はちゃんと思ってるよ。偽善がほとんどだろうけどね」
淡々と、淡々と。長い黒髪を揺らして、少女は首吊り台に手をかけた。
『誰かのためになるならば』
籠の中の鳥を見つめる。鼈甲色の瞳でじっと見つめ返されて、先に視線を逸らした。
……何をせずともご飯が出てきて、鑑賞されて愛でられる。きっと籠の中は快適なんだろう。いや、快適かどうかすら分からないか。あれが普通で、あれ以上下の世界を知らないのだから。
「𓏸𓏸、早く勉強しなさい」
「はい、お母様」
僕の家庭は異常らしい。皆から自由を知らなすぎるなんて言われるけれど、ご飯は出てくるし服も買ってもらえて寝る場所もきちんと存在する。
……鳥かごの中って楽なんだよ。何をせずともやる事を与えてもらえて、干渉されて愛でられる。ここから逃げたいとも思わないし逃げようとも思わない。
鏡の中の自分を見つめる。光を宿していない瞳に見つめ返されて、本当の自分から目を逸らした。
『鳥かご』
「ありがとね𓏸𓏸!」
「んーんこちらこそぉ」
活気のある女性が伸ばした手をふわふわしたゆるい雰囲気の女性が握り返す。
「また連れてってよ!」
「いいよぉ」
「今日はありがとね!じゃあまた!!」
「ばいばーい」
手を振って活気のある女性を見送る。後ろ姿が見えなくなっていき、完全に後ろ姿が見えなくなるとゆるい雰囲気の女性は深くため息を吐いた。
「……だる」
そう一言。先程までの雰囲気はなく、ピリピリとした空気を纏っている。
単純な話。友情は、いつか壊れるものなだけである。
『友情』
道端に咲いている花を見つめる。何気無しに走っていった子供達が花を踏み潰していった。
「あ……」
小さく声が漏れる。踏まれた花は萎れて俯いたまま戻らない。萎れた野花にゆっくり手を添える。
……添えていた指先から段々と透明になって花に触れられなくなる。
「もうお迎えか……。早いな」
やりたい事、沢山あったのに。まぁでも道を外れた車に轢かれて即死。痛みを感じる間もなく死ねただけマシかな。
次ここに花が咲く頃には自分もまた
また、
……。
「……まだ、生きていたかった」
『花咲いて』