「あの惑星の名前なんだっけ」
「……地球」
「地球かぁ…意外と長かったね」
「……たしかに」
「そういや君は地球から転生してきたんでしょ。どんなとこだったの」
「……空がきれい」
「他」
「……変な人もいるけど、優しい人もいっぱいいる。唯一無二の惑星だと思うよ」
「ふーん…ま、普段無口なあんたがそんだけ喋るって事は凄い所なんでしょうね」
「…行ってみる?最後に」
「………ちょっと気になるわね」
2人は人間を模した姿に変わると、手を繋ぎワープポータルを開いた。
「じゃ、行きましょうか」
「……世界の終わりに、男女の見た目して手繋いでるなんて、地球ではロマンチックなんですよ」
「そうなの?やっぱり不思議な所ね」
男性の姿を模した神が、もう1人の神にぐっと顔を近づけて囁く。
「世界の終わりまで君といたい………とか、言うんですよ」
「…………へんな惑星ね。早く行きましょ」
女性の姿を模した神の頬が少し赤くなっているのには見て見ぬふりをした。
『世界の終わりに君と』
「俺悪くない。俺はちゃんと言われたノルマした」
「……はぁ…」
退屈そうに銃を磨きながら、男性のマフィアはそう言った。思わず女性のマフィアからため息が溢れ出る。この男、依頼人からのノルマは完璧にこなす。例えどんなノルマだとしても。
「アタシらも商売なのよ、あそこはよく使ってくれるし報酬も高いからちょっと位サービスってもんを覚えなさい」
「何で?ノルマはこなしてる」
「はぁ…」
こちらを見る事もせず淡々と言い放つ男に思わず頭を抱えた。確かに言ってしまえばノルマさえクリアすればそれで良いのだ。しかし今回の依頼主は10年来の付き合いで報酬も高値で…
「俺が」
「何よ」
「俺がいつもノルマしかクリアしない理由、分かる?」
「いいえ?」
「……𓏸𓏸は優しすぎる。この世界で依存は命取りだよ。だから俺でバランス取ってる。俺の不評がきたとしても、𓏸𓏸が居るからここには依頼が来る。…要は、𓏸𓏸が多少手抜いてもバレないって事」
「そんな…っ!手なんて抜かないわよ」
グッと男の顔が近くなって、おでこにこつんと彼のおでこが当てられる。そのままおでこが離れていったと思ったら、男の手が女頬を包み込んだ。
「…今日、熱あるのに仕事行こうとしてたでしょ。俺が代わりに仕事してくるから、ゆっくり休んでて」
「この位なら大丈夫よ、アタシ、」
「……病み上がりでもどーせ𓏸𓏸は仕事行きたがる。今日は俺が手抜いて仕事してくる。病み上がりでちょっとミスっても俺のせいにしていいから」
そう言うと男は隠し扉から外の世界へ出て行った。堂々と手を抜いて仕事をする宣言をされて苛立つのと、熱を見抜かれ心配してくれた事への感謝を天秤にかけた時。
「……最悪、…………だけど最高の相棒ね」
自分が彼に依存しているのには見て見ぬふりをした。
『最悪』
脳が痛い。視界がチラつく。体が思うように動かない。
手術台の上で、こちらを見ている化け物達。人間界では計り知れないような恐怖と異質。
でも、私はこいつらと契約したから。今日から私は生まれ変わる。
全て見た目が変わったとしても私は私。脳は私なんだから私。そう、それは私。
神様助けて、なんて言う人がいる。なら神様に助けてもらえばいい。私みたいに、助けてもらえばいい。
既に体は私じゃないけれど、ヤツらが創ったただの人間に似た部品だけど、脳みそだけは私だから。
私は、今日も私として街を歩く。
『誰にも言えない秘密』
真っ白な空間。壁も床も天井も、触れば存在するけれど、触らなかったら何処まで続いているのかすら分からないような、真っ白い部屋。
立って手を伸ばせば天井に手がつくし、床だって、地面に立っている感覚がある。両手を広げれば左右に手がついてしまう程の、狭い空間。
「 」
声を出したつもりだったが、音という概念が抜け落ちているかの様に自分の声が聞こえなかった。
暗転。
真っ黒な空間。影が存在して、立体的な空間がはっきりと分かる。黒いのに、何故か視界は良好。光がないはずなのに、世界が見える。
…少し、息苦しい。呼吸をすればするほど酸素が徐々に無くなっていく。何時間ここにいるのだろう。苦しくて、体温が分からなくなって、目の前がフェードアウトする。
……そういえば。
自分のいる真っ白い部屋の正体を思い出す。
生と死の狭間。三途の川なんておしゃれなもんじゃない。何も無い空間。
体が透け始めて、記憶が抜け落ちていく。
最期に、普通の部屋に居る自分を想像して少し微笑んだ。
『狭い部屋』
どれだけ仲良くなっても、LINEの回数が増えても、自分は所詮友達止まり。
分かってる。友達以上にはなれないこと。
全部分かってる。最初から。
不安定な時いつも心配してくれて、通話付き合ってくれて。でも、それは全員に向けている優しさ。
一緒にいて楽しいって言ってくれる間は、もーちょっとだけ友達として隣に居座っててもいいかな。
恋なんてしてない。だから失恋もしてない。だから心臓がきゅってなるのも、あいつの事が心配なだけ。
失恋、なんてしてないもん。
『失恋』