ゆかぽんたす

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2/21/2024, 9:42:17 AM

「気の毒に。同情するよ」
そんなふうに言うくせに、アイツは昔からオレの悪口をみんなに流していた。何倍も誇張した悪い噂がクラス中に広められてしまったお陰でオレの居場所は無くなった。それが理由のすべてではないけれど、今日付けでオレは別の学校に転校する。
そして、教室の自分の荷物をまとめていたらさっきの言葉を言われた。吐き捨てるような言い方はちっとも同情しているようになんて感じられなかった。
「お前がいなくなると寂しくなるよ」
よくもこんな、思ってもないことを笑顔で言えるもんだな。コイツに尊敬するところなんてひとつも見当たらないが、演技力だけは人並み外れたレベルだなと少しだけ感心した。
「新しい学校ではうまくやれそうかい?寂しくなったらいつでも連絡してくれ」
ニヤニヤしながらそんなことを言うから、思わず聞いていて噴き出しそうになった。ちなみにさっきからしつこく話しかけられているけど、オレは一切相手をしてなかった。心の中では反応しているけど顔は無表情のままだ。コイツの存在を視界にすら入れてない。じゃあオレのほうが演技力は上なのかな?だがそうしたらもう、コイツは何の分野でもオレには勝てない。こんなにオレを真正面から敵対視してるっていうのに。そもそもオレは相手にすらしていないから、勝敗もクソもないわけだが。
それにしても荷物が思ったより多いな。さすがにこれ抱えながら帰るのはしんどいかもしれない。母さんに連絡して迎えに来てもらおうかな。
「っ、おい!いつまで無視してる気だ!いい加減オレの話を聞けよ!」
いきなり胸ぐらをつかまれた。顔を怒りで真っ赤に染めたソイツがオレに掴みかかってきた。相手にされなくて業を煮やしたらしい。
「おい、なんとか言えよ」
「ナントカ」
「あぁ?」
「ナントカ言えって言うから」
「てんめぇ……」
握り拳を振りかざすのを確認して、すかさずオレはヤツの足をかけ転倒させた。正当防衛だから文句言われる筋合いはない……って言っても、この低レベルはどうせ納得しないんだろうな。
「いきなり何しやがる!」
思った通り、尻もちをついたままでオレに喚き散らしてきた。惨めだなあ、と冷めた気持ちで見下ろした後、オレは荷物を抱えて教室を出た。後ろから待てこらとか聞こえてくるけどこれも無視した。
新しい学校はどんな感じだろうな。転校理由はクラスからのイジメにしたけど、実際のところは違った。もう、こんな低レベルな連中が集まった所にいるのはウンザリだ。それこそが、オレが転校を希望した理由だった。寄って集ってひとりの人間のあら探しをしてコソコソ笑ってる奴ら。こっちが相手にしなきゃ、さっきの馬鹿みたいにムキになってかかってくる。なんなんだか。
にしてもさっきのアイツのセリフ。同情するだなんて、言葉の意味を知りもしないで使うから決定的馬鹿だなと思った。憐れみも思いやりも持ってない人間が二度と口に出すなと思う。ただオレを見下したかっただけだろう。でもオレは最初から相手にしなかったから。それが叶わなくて結果、さっきみたいに暴力に頼ろうとする。低能すぎて呆れが止まらないよ。
そんなヤツは相手になんかしないで、オレは自分に相応しいところへ行くよ。さようなら、愚かなクラスメイト。いつまでもガキごっこしてるお前らに心から“同情”するよ。最高級の、憐れみを。


2/19/2024, 2:07:24 PM

ひどい振られ方をされた。
“俺の好みじゃないんだよね”。あんな言い方ってある?それ以外にも結構辛辣な言葉を言われた。あんな人をずっと好きだった自分が恥ずかしくなった。帰り道をとぼとぼ歩きながら1人で泣いた。幸いにも、学校の誰とも会わなかった。下を向いて何とか家の近くまでやってきて、途中にある公園に寄った。ベンチに座ってまた俯いていると地面に染みができた。雨じゃなくて、私の涙だ。
暫くは引きずりそうだな。他人事みたいに考える。そうでなきゃ、やってられない。ひどい振られ方をされたんだから、いつまでもうじうじ根に持ってなくたっていいのに。私の性格上とことん悩んで思い詰めてしまうから、そう簡単には切り替えられない。はぁ、と、何度目か分からないため息を吐いた。足元の染みが増えてゆく。それ以外に、地面には枯葉が落ちていることにも気づく。きっとこの頭上の桜の木の葉っぱが紅葉して落ちたものだろう。私の涙なんか、栄養ないから吸収したって無駄だよ。周りに誰もいないから、そんな変な独り言を喋っている。今の私の心も、この枯葉みたいな色してるんだろうな。茶色と灰色が組み合わさった、汚れた色。足元の葉を1枚拾って暫く眺める。ふぅ、とまた出たため息と一緒に手を広げる。ヨレヨレの枯葉が寒い北風に攫われていった。私の弱い心も、こんなふうに攫っていってくれたら――。

2/19/2024, 7:28:56 AM

気になっていたあの人を食事に誘いました。彼は私が予約したその店の料理をとても喜んでくれました。美味しかったからまたここに来たいな、と言ったので、じゃあ是非また、と私は返事をしようとしました。でも次の彼の言葉を聞いて、そんな返事はできませんでした。
「うちの妻と娘にも食べさせてあげたいな」
視界が一気に暗くなってゆくのを感じました。私は彼のことがずっと好きだったけど、彼のことを少しも知らなかった。家族がいたなんて。そんな事実をこんなところで知って酷いめまいを覚えました。
その後はどうやって帰ったのかもよく覚えていませんが、気がついたら自宅の最寄り駅でした。コンビニに寄って、ありったけのアルコールを買い込みました。バイトの大学生が少し引いていました。帰り道、コンビニ袋をぶら下げながら歩いていると踵に痛みを感じました。慣れない7センチヒールを履いたせいですっかり靴擦れをしていました。
今日は、これまでの人生の中で5本指に入るくらい嫌な1日だった。失恋をしたせいで半ば自暴自棄になっていました。早く忘れるために、いっぱいお酒を飲んで熱いシャワーを浴びて寝たい。残り2時間あまりで今日が終わる。今日なんかもう要らない。明日が早く来ればいい。そう思えば思うほど、今日が何という日なのかを思い知らされるのです。
スマホを取り出しフォルダを開きました。2004年の今日、私は当時の恋人を亡くしました。あれから10年経って、ようやく新たな恋に踏み出せると思ったのに。ちょっと良いかなと思った人はまさかの既婚者で、もう私に恋愛は向いてないのかなと思ってしまいました。あの人の命日は決まって嫌な思い出ばかり起こる。今日が人生の中で5本指に入るほど嫌だったと言ったけど、残りの4本いずれも何年か前の今日の出来事でした。1番は、言わずもがなあの人を亡くしたことです。本気で愛していました。私達、結婚するんだと思っていました。なのに貴方は逝ってしまった。突然死だったから悲しみに浸る暇もなかった。あの日から、私の中で何かがおかしくなった気がします。毎年この時期は何をやってもうまくいかない。もしかして貴方が空の上から操作しているのでしょうか。俺のことを忘れるなよ、とでも言いたいのでしょうか。
アパートにつき、ビールたちを冷蔵庫にしまってからリビング脇の小さな棚に飾られている写真を眺めました。私と貴方が肩を組んで幸せそうに笑っている写真。できることならあの頃に戻りたい。願っても叶わない思いを抱えながら、私は今日にさよならするのです。でも、貴方との思い出とはまだ暫くはさよならできそうにない。

2/17/2024, 12:50:38 PM

ちょっと早起き頑張って、掃除と洗濯ちゃちゃっと終わらせて。その後好きなハーブティーを飲みつつメイクを始める。こないだ自分にご褒美で買ったアイシャドウを使う時はテンション上がる。別に誰かと会う用事なんてないのにスカート履いてみちゃったり。アクセサリーだってもちろん付ける。
家からそう遠くないカフェは、お昼より少し早めに行けばお一人様専用のカウンター席に座れることが多い。いつものランチセットを頼んで、たまーにデザートで看板メニューのとろけるプリンもつけちゃう。飲み物は食後にしてもらって、大好きな作家さんの新刊を読む。気付けばあっという間に2時間過ぎてるなんてことも。

お気に入りの時間。お気に入りの場所。お気に入りの格好。お気に入りの過ごし方。お気に入りの食べ物。総て私の精神安定剤として必要不可欠なもの。自分のお気に入りを知るってすごい幸せな気持ちで満たされる。誰かと共有したいと思うものもあれば、1人だけでじっくり楽しんでいたいものもある。

今日もまた、新しいお気に入り見つけた。帰り道の公園の花壇にチューリップの芽が出てるのを見つけた。お気に入りの散歩コースにしよう。これから咲くまで成長してゆくのを見るのが楽しみだ。

2/17/2024, 6:50:54 AM

終業時刻はとっくにすぎているのに厨房にはまだ灯りがついていた。消し忘れなんかじゃない。また、先輩は1人残って黙々と練習しているのだ。
邪魔しないように帰ろうとしたけど、無言で出ていくのも悪いかな、と思ったのでそっと扉を開ける。中には入らず顔だけひょこっと出した
「お疲れさまです。お先に失礼します」
「あぁ、お疲れさま。気をつけてね」
ちょっとだけ厨房に顔を突っ込んだだけなのに、バターのいい薫りが鼻をくすぐってきた。
先輩はパティシエを目指している。まだまだ全然見習いで、学ぶことが山のようなのよ、と謙遜しているけれど、先輩の作るお菓子は他のどことも比べ物にならないほど美味しいと私は思う。来年にはフランスの有名菓子店に弟子入りするために渡仏するのだそうだ。暫くの間会えなくなることも寂しいし、先輩の作るお菓子を簡単に口にできなくなるのも寂しい。でも、
「もっともっと技術を磨いて美味しいお菓子を沢山作って、いつか自分の店をかまえるのが夢なの」
瞳を輝かせて言った先輩を見たら、寂しいなんて言えなかった。誰よりも努力家で誰よりも自分自身にストイックな先輩だが、私には常に眩しく映っていた。そんな彼女が作りあげるスイーツたちが、私は今もこれからもずっと大好き。
「佐倉さん、待って」
裏口から出る寸前に先輩から声をかけられた。抱えていた白い箱を私に向かって差し出してきた。
「これ、試作で作ってみたの。良かったら」
「いいんですか?」
「感想聞かせてね」
じゃあ気をつけてね、と言い先輩は店内に戻ってゆく。もうすぐ夜も更けるなかなかの時間になるというのに、一体何時まで残ってるんだろう。努力と根気の塊のような人からこんな可愛らしいお菓子が次々と作られる。そっと箱の中身を確認してみた。鮮やかな赤色が目を引くグロゼイユのケーキ。自然と頬が緩んでしまう。やっぱり、先輩の作るケーキは人をしあわせな気持ちにさせる力を持つ。
誰よりも努力を重ね、挫折を知り、涙をのんだ経験をしているからこそこんな芸術的なお菓子が作れるんだなぁ、と今さらながらに思った。
帰ったら、有り難く美味しくいただこう。

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