ゆかぽんたす

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気になっていたあの人を食事に誘いました。彼は私が予約したその店の料理をとても喜んでくれました。美味しかったからまたここに来たいな、と言ったので、じゃあ是非また、と私は返事をしようとしました。でも次の彼の言葉を聞いて、そんな返事はできませんでした。
「うちの妻と娘にも食べさせてあげたいな」
視界が一気に暗くなってゆくのを感じました。私は彼のことがずっと好きだったけど、彼のことを少しも知らなかった。家族がいたなんて。そんな事実をこんなところで知って酷いめまいを覚えました。
その後はどうやって帰ったのかもよく覚えていませんが、気がついたら自宅の最寄り駅でした。コンビニに寄って、ありったけのアルコールを買い込みました。バイトの大学生が少し引いていました。帰り道、コンビニ袋をぶら下げながら歩いていると踵に痛みを感じました。慣れない7センチヒールを履いたせいですっかり靴擦れをしていました。
今日は、これまでの人生の中で5本指に入るくらい嫌な1日だった。失恋をしたせいで半ば自暴自棄になっていました。早く忘れるために、いっぱいお酒を飲んで熱いシャワーを浴びて寝たい。残り2時間あまりで今日が終わる。今日なんかもう要らない。明日が早く来ればいい。そう思えば思うほど、今日が何という日なのかを思い知らされるのです。
スマホを取り出しフォルダを開きました。2004年の今日、私は当時の恋人を亡くしました。あれから10年経って、ようやく新たな恋に踏み出せると思ったのに。ちょっと良いかなと思った人はまさかの既婚者で、もう私に恋愛は向いてないのかなと思ってしまいました。あの人の命日は決まって嫌な思い出ばかり起こる。今日が人生の中で5本指に入るほど嫌だったと言ったけど、残りの4本いずれも何年か前の今日の出来事でした。1番は、言わずもがなあの人を亡くしたことです。本気で愛していました。私達、結婚するんだと思っていました。なのに貴方は逝ってしまった。突然死だったから悲しみに浸る暇もなかった。あの日から、私の中で何かがおかしくなった気がします。毎年この時期は何をやってもうまくいかない。もしかして貴方が空の上から操作しているのでしょうか。俺のことを忘れるなよ、とでも言いたいのでしょうか。
アパートにつき、ビールたちを冷蔵庫にしまってからリビング脇の小さな棚に飾られている写真を眺めました。私と貴方が肩を組んで幸せそうに笑っている写真。できることならあの頃に戻りたい。願っても叶わない思いを抱えながら、私は今日にさよならするのです。でも、貴方との思い出とはまだ暫くはさよならできそうにない。

2/19/2024, 7:28:56 AM