ゆかぽんたす

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1/12/2024, 9:30:09 AM

仕事でミスをした。今までもミスは経験したけど、今回のはちょっと重要なもの。別に、ミスはミスなのだから大小関係ないのだけど、今日は結構メンタルにきた。
しょうがないよ、と俺の肩を叩いて一緒に謝ってくれた先輩に申し訳ない。上司に酷い言葉を浴びせられたことより、先輩にまで頭を下げさせてしまったことのほうが俺の中では大きかった。あの人はいつもにこにこしてるから、正直どう思ってるのか分からない。上がる時にもう一度謝ろうとした俺より先に、「今日はよく休んでね」と言ってきた。どんだけ人が良いんだと思った。
先輩の優しさを思い出しながら自宅までの帰り道を歩く。いつもより寒さが身にしみて感じてしまうのは気のせいじゃない。うまく切り替えられない自分に苛立ちを感じていたその時、ポケットのスマホが震えた。メッセージの送り主は、先輩だった。
“お疲れ様。明日は切り替えて一緒にがんばろう。あんなハゲ親父なんて気にするな٩(๑`^´๑)۶”
そんなメッセージを瞳に映した時、俺は思わず笑ってしまった。俺以上に、俺のミスを気にかけてくれてることが嬉しくもあり申し訳なくも感じた。
「……世話焼きな人だな」
1人でニヤつきながら俺は返事を打つ。少しだけ寒さが和らいだ気がした。明日は絶対に、役に立ってみせるから。

(……after 1/10)

1/11/2024, 9:33:38 AM

日付が変わって0時0分ジャスト。
たった数秒前では出来なかったことが今は可能になった。おめでとう自分。ようこそ20代。
とは言っても私は酒も煙草にもさして興味はない。そもそもハタチを迎えることを待ち侘びていたわけでもなかった。昔は今と逆で、早く大人になりたいだなんて思ってたけど。高校卒業したあたりからもう充分大人扱いだし、年齢のせいで出来ないことなんてあまりなかった。だからこれ以上歳を重ねてもなあ。はっきり言って、この先歳をとっても、責任が付き纏う人生になるだけじゃん?
友人にそんな自分的解釈を話したら“あんたらしいわ”と言われた。彼女曰く、おおよそのことに対して私はいつもドライらしい。現実的って言ってよ。
そんな友人からのメッセージが早速届いた。
“20歳おめでとう〜……って、どうせ喜んでないだろうけど”。
そんな言葉と一緒にスタバのドリンクチケットまで送ってくれた。私も“ありがとう”をすぐさま返信する。
「明日、ヒマならどっか食べ行こーよ、っと」
彼女にご飯のお誘い文を打ち込んでる時、また別のメッセージを受信した。トーク一覧画面に戻る。嘘かと思った。
「え……」
夢でも見間違いでもなければ。そこに表れた名前はひとつ上のバイト先の先輩だった。連絡先を交換したのは確か半年くらい前。それから1度だってメッセージの交換なんてしたことはなかった。それなのに、なんで。
“店長から聞きました。今日誕生日なんだってね。おめでとう。もし、どこかで予定があったらご飯でもどうかな?美味しいお酒とお肉の店知ってます。ハタチの記念に良かったら”
「な、ななななな……」
思わず、寝転がっていたベッドから飛び起きる。勢いがよすぎたせいで足をすぐそばのチェストにぶつけた。めちゃくちゃ痛い、ということは夢ではない。
「うそ、うそ……」
何度も何度も送られてきたメッセージを読み返す。そんな、でも、なんで?わけが分からず自分の部屋の中で右往左往していると、さっきの友人から“オッケー”というゆるいスタンプが返ってきた。
「待って、ちょっといったん保留……!」
自分から誘っておいて彼女とのご飯を断るなんて酷いやつだとは自覚がある。でも、だって誘われちゃったんだもん。あ、だけど別に明日じゃないのか。そうだよね、そんなすぐに行くわけないもんね。
「美味しいお肉とお酒、かあ」
ハタチにならなきゃ味わえないもの。ひょっとして先輩は、私がハタチになるのを待っててくれたってこと?いやまさか。たまたま食べに行きたい店が美味しいお酒のあるところなんだろう。いやでも待って、文にはハタチの記念にってある。じゃあやっぱしそういうことなんだろうか。ていうかそもそも、なんで私をご飯に誘ってくれるの?
「……とりあえず、寝よう」
分からないことが多すぎるから、今日は遅いし考えるのやめよう。はたして寝れるだろうか。分からないけれど再びベッドの上に倒れ込む。時刻は0時13分。20歳になることは、やっぱり素晴らしいことなのかもしれない。……って、友人に言ったら調子のいいヤツって呆れられそうだな。

1/10/2024, 9:10:30 AM

改札を出て、いつものようにコンビニに寄り食べたくもないコンビニ弁当とお茶を買う。店から出てはぁ、と息を吐くと白いかげろうが立ちのぼった。寒さのせいで空気がしんとしている。空は塗りつぶされたように黒い。怖いくらいに真っ暗で、見ていると吸い込まれそうな気分にさせられる。
不意に、今日1日の出来事が頭をよぎった。同じチームで仕事をしてる3つ下の後輩がミスをした。物理的には彼の失態だけど、後輩に指示をした私のミスという扱いにもなる。真っ青になった彼の肩を叩きながら上司のもとへ謝りに行った。そこまでは良かった。でもその上司が彼にかけた言葉が許せなかった。
“きみ、向いてないんじゃないの?”
正直、入社して1年も経っていない子に向かってそんなことを吐き捨てるお前のほうがどうかしてると思った。何が人材育成だ。何が風通しの良い職場だ。私が新人だった時の直属の上司は“若いうちにどんどん失敗しておけ”、と笑って言ってくれたのだが、今の上司はそんな気配など毛頭ない。はっきり言って、あの人とはこの先2度と仕事をしたくないぐらい嫌いだ。
だが、ミスはミスだから当たり前だが悪いのはこちらである。後輩の彼に私の配慮が足りなかったのも原因の1つであるだろう。項垂れて退社する彼に私は声をかけた。誰にでもあることだよ。次、巻き返せばいいんだから。いつか笑って話せる日がくるよ。どの言葉も、私が先輩に言われたことのあるものだった。その昔、私も盛大なミスをした。それはもう、顧客を巻き込む一大事に発展するんじゃないかってくらいの規模だった。だからぶっちゃけ、今回の彼のミスは私から大したことないのだけど。真面目な彼は今も引きずっているんだろうな。無口で無表情な彼だけど、きっと自分を責めてるだろう。それを考えると明日どう声をかけていいのか悩ましい。
私は買ったペットボトルのお茶で暖を取りながら、もう片方の手でスマホを操作した。彼のトーク画面を表示する。お人好しなのは先輩譲りだ。自分でもよく自覚している。
“お疲れ様。明日は切り替えて一緒にがんばろう。あんなハゲ親父なんて気にするな٩(๑`^´๑)۶”
あんまりしつこいと嫌がられるから。これくらいにしておこう。無口なあの子は見てくれるかな、と、思っていた矢先に既読表示がついた。
“先輩が俺の先輩で良かったです”
「……かわいいとこあんじゃん」
大して会話もしたがらない少々生意気な彼が、こんな優しいメッセージを返してくれるなんて意外だった。自然と口元が緩んでしまう。きっとこれなら、大丈夫。任せてよね、先輩は明日もしっかりあなたの指導をしますよ。そう思いながら、スマホからもう一度暗い夜空に目を向ける。真っ黒な空の中に白い三日月が浮いているのが見えた。さっきは全然見つけられなかったのに、今はすごく目立って見える。たったそれだけのことなのに、なんだか得をした気分になった。明日も自分らしく、前向きに。ひっそり言い聞かせながら私は帰路を歩いた。

1/9/2024, 9:59:37 AM

週末の都内のカフェにて彼のことを待つ。待ちながら、先週届いた彼からのメールを見つめていた。

話があるから時間を作ってほしい。

デートも食事も、誘うのはいつも私から。だから突然、向こうからこんなメールが届いてすごく驚いた。話って何だろうか。この硬い言い方に違和感を覚えると同時に嫌な予感がする。そしてこういう時の予感は悲しくも当たってしまう。私の抱いてる“予感”とはつまり、彼に別れを切り出されるんじゃないか。
最近あまり会えなかったし互いに仕事が忙しかった。平気で連絡を無視したりされたりしたこの数週間だった。私はともかく、彼は1人でいても何ら問題なくやっていける人だから。こうやってだらだら続くよりもきっちりお別れをしましょう。それを告げるために時間を作ってほしいと言ってきたんだろう。
「悪い。遅れた」
「あ、ううん全然大丈夫――」
聞き慣れた声がしたら姿を確認する前に答え、その流れで顔を上げたのだが。
そこにはまさしく彼がいた。正真正銘私の彼氏が。薔薇の花束を抱えて立っていた。
「……どしたの」
「お前にやるために買ってきた」
ん、と少しぶっきらぼうに渡される。素直に受け取ると美しい赤や黄色やピンクの薔薇がぎっしり集まり1つに束ねられている。こんなに沢山あるのに同じ色が1つとてない。こういう買い方する人初めて見た。
「ありがと、あの、すごい色とりどりだね」
「……お前が好きな色が分からなかったから全色入れてもらったんだよ」
「あ。そうなんだ」
私の前の席に座ると彼は深い溜め息を吐いた。顔が少しだけ不機嫌な色を出している。私はわけが分からなかった。花束をくれた理由も、彼が不機嫌な理由も。
「俺はお前の好きな色すらちゃんと知らなかった」
「え」
「けど、お前にはいつも感謝してる。だから、1週間遅れちまったけど許せよ。誕生日おめでとう」
「……覚えててくれたんだ」
「当たり前だろうが」
今この瞬間。私は世界一愛されてる自信がある。こういうぶっきらぼうな所も、好きな色が分からなかったくらいでいじけてるところも私の愛してる彼だから。
私の嫌な予感は見当違いだった。今日だけは、私も素直に伝えようと思う。恥ずかしがって俯いてる彼が顔を上げたら伝えよう。ありがとうと、愛してるを。

1/8/2024, 8:35:08 AM

明日、降るかな?
天気予報では“確率は50%”って言ってた。
降るかもしれないし降らないかもだね。
こーゆう時って、てるてる坊主逆さまに吊るしとけばいいんだっけ?
そうだよ?だって降ってほしいもん。
綺麗じゃん、あたり一面真っ白で。
この時期だけだしロマンチックだし。
きみはそうでもないの?雪、嫌い?
……あぁ、たしかに。
それで電車停まっちゃったら、明日会えなくなっちゃうね。
それはやだな。
やっぱ撤回する。降ってほしくないや。
雪は綺麗だけど、そのせいで会えなくなっちゃうなら降らないでほしい。
いや、絶対降らないで。
今からてるてる坊主作っとく。
ちゃんとしたやつ。
いっぱい窓に吊るしとくから。
きみも、今日はちゃんと暖かくして寝てね。
これで明日、熱が出たからデートはキャンセルだなんて許さないからね。
楽しみだなあ、明日。
こんな長電話してる場合じゃないや。
おやすみ、また明日。

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