ゆかぽんたす

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1/7/2024, 8:28:01 AM

岬の灯台のそばで、1人座って海を見ていた。この街の中でここが1番高い場所。景色が良いからあたしはここが大好き。街も見渡せるし広い海も見える。あの地平線の彼方には何があるんだろう。あたしの知らないものがきっと、数え切れないほどあるに違いない。

“僕らの仲間にならないか?”。彼にそう言われてからまる一週間が経った。あたしをパーティに誘った御一行はまだこの街に滞在しているらしい。どうやら本気であたしを口説き落としたいようだ。この一週間の間だけで3度はお断りをしたっていうのになかなかしぶとい連中だなと思う。でもまぁそれだけ本気だっていうことでもあるのだけど。
正直、興味がゼロというわけではない。この海を渡った先に何があるのか。知りたい好奇心は人一倍ある。でも、それと同時に恐怖だってある。あたしは他人を信用できない。団体行動が嫌い。一緒に行こうって言われたって、そいつらにいつ見限られるか分からない。好奇心よりも警戒心のほうが遥かに勝っている。
「君がこの場に繋ぎ止めておかれてる理由って、何?」
不意に声がして。振り向くとあたしを誘った勇者の彼が立っていた。にこにこしながら普通にあたしの隣に腰を下ろす。
「冒険が怖いから。故郷を離れたくないから。体力に自身が無いから。どれも違うよね」
「……まあ」
「僕らと出会った時から君の瞳はずっと希望に満ちた色をしているよ。広い世界に興味があるって物語っている。だから僕らは君を誘ったんだよ」
あたし達の座っている場所には小さな白い花がちらほら咲いていて、勇者はそれにそっと手を伸ばした。
「もちろん、それだけじゃない。君の魔力はすごく強くて頼りになる。この先君がいてくれたら僕らは大いに助かるはずだ。だから僕らは君と一緒に旅を続けたい」
「……買いかぶりすぎだよ」
ちょっとした擦り傷切り傷くらいしかまともに治せないのに。あたしを勧誘するためにわざと誇張している彼が何だか必死に見えてきて、思わず笑った。
「あともう1つあるよ。キミを誘った理由」
「なに?」
「笑うと意外とかわいい」
「何よそれ」
褒めるんならちゃんと褒めなさいよね。全くお世辞が上手いんだが下手なんだか分かったもんじゃない。けど少しは気分が良くなったかも。ほんの少しだけど。
しょせん、あたしより250も下のガキには言えることが限られてるってことか。あたしよりずっと澄んだ瞳をしてる人間。こんなガキに騙されるような心配も無さそうだし。
「いいよ。行ってあげる」
「え?」
「あんたらについてってあげる。こーゆうのは勢いで決めなきゃだからね」
「ほんと!?」
まだ齢17ばかりの勇者は勢いよく立ち上がると、海に向かって叫んだ。うおー、とか、やったー、とかそんな、大して意味のない言葉を。そんなに必死だったの?あたしなんかのために。変な勇者くん。
「今日からよろしく」
彼はあたしに向かって手を差し出してきた。その顔は満面の笑みを浮かべている。そうっと、その手を握るとなかなか強い力で握り返された。びっくりしたけど痛くはない。
「……よろしく」
小さく呟いてあたしもそっと握り返した。ほんの少しだけ、他人のこと、信じてもいいかなって思えた。

1/6/2024, 7:10:30 AM

今日は風もなく比較的過ごしやすい。気温もわりと高めなのだろう。道の反対側の塀の上で猫が日向ぼっこしている。穏やかな日だなあ。こんな日は、何故か無性に洗濯をしたくなる。洋服からタオルから寝具から、乾きにくいものを避けつつ目に入るものを洗濯機に放り込んでお気に入りの柔軟剤を入れた。洗濯が終わるまで数十分、さて何をしようか。とりあえず、お湯を沸かしてハーブティーでも淹れよう。昨日の残りのラスクを摘みながら読書といこうか。すごく贅沢な時間の使い方だ。陽の光を窓から浴びていると自然とまどろんでくる。



ああ。

こんな穏やかな状態のまま君に会いにゆけたらいいのに。雲の少ない澄んだ空が今、君の居る場所。いい天気だね、冬なのを忘れるくらい暖かくて心地が良いよ。
去年までは2人だったのに、今年の冬は1人だった。寂しいのはずっと変わらないよ、そりゃそうさ。君のいない世界なんて滅んでしまえ、って、ついこないだまで考えてたくらいだから。
こうして1人になって、君の有り難さを激しく痛感して、僕の無力さを嘆いて、怒りは自分だけでなく第三者に向けられて、目に映るもの全てを憎んで呪って、そりゃあもう僕は荒れに荒れたんだ。そんな、負の感情を盛大に出しきって暴れまくってそれでも残ったものは何も無かったよ。しいて言うなら、失った人は戻らないんだっていう事実だけか。

色々あって、僕は1人でもこうして生きてるけど。もう、怒るの疲れちゃったからやめてみた。そしたら不思議と身体は軽くなった。今日みたいに空の青さに気付けるほどに回復した。もちろん全快にはなってないけど、最近はようやく身の回りにも目を向けられるようになってきたよ。だいぶ苦労したけどね。きっとここまでの経緯を君もこの空の上から見ていてくれたんだろうか。僕らしくなかっただろう?ダサくて醜くてどうしようもない奴だっただろう?きっと心配しただろう。君は優しい人だから。ごめんね、もう大丈夫。いや、大丈夫ではないけれど、少なくともあの最悪な時からは抜けられた。
だから君もこれからは穏やかにそっちで過ごしてほしい。いずれ僕も会いにゆくから。その時は笑顔で出迎え頼むよ。

願わくば、また君と再会する日はこんな冬晴れの日がいいな。

1/5/2024, 9:41:13 AM

健康なこと
ご飯が美味しいと感じられること
あったかいお風呂に入れること
お気に入りのボディクリームを使うこと
自分の時間があること
縦列駐車がうまくいったこと
食べ放題に行くこと
ひとり旅をすること
お気に入りの洋服が着れること
背伸びしてちょっと大人っぽい靴を買ったこと
自分を気にかけてくれる人がいること
社会のなかで認められること
本を読んだり映画やドラマを見て涙すること
手作りの何かを貰うこと
学べる環境があること
帰る場所があるということ
夢や目標や野望ができること
大切な存在があるということ
誰かに愛されること
手を繋ぐこと
“ありがとう”を貰うこと
好きな人と言いたいことが被ったこと
夜空を見て綺麗だと感じられること
好きな人に好きと言えること
ラブソングが心にしみたこと
自分のことを大事にできること


幸せの物差しは人それぞれ違う
他人からはそんなことで?って言われることでも、その人にとっては幸せなのかもしれない
小さいことに幸せを見いだせるほうが、幸せは長続きすると思う


とりあえず、世界中の人全てに共通している幸せなことは、

“生きていること”


どうか貴方の暮らしが早く平穏なものに戻りますように

1/4/2024, 9:32:31 AM

浅い眠りの中、何かが震えているのが分かった。それが枕元の携帯であることにもすぐ理解する。のろのろ手を伸ばして目に優しくない明るさの液晶を見つめる。なんで、こんな時間に。一瞬で目が覚めた。こんな真夜中にかけてくるなんてよっぽどの用事でしかない。
「もしも――」
『あ、出た出た!良かったー』
「……は」
『早く!窓の外見て!』
早く早くとしか言わないから仕方なく起き上がって窓のそばへゆく。一体何が見えると言うのだ。カーテンを開けて外を確認する、が、
「……何があるって言うんだ」
『え?ほら、だんだん昇ってきたよ!見て見て、きれーっ』
声が物凄く弾んでいるのでどうやら非常事態ではないらしい。けれど一向に相手の伝えたいことが伝わらない。そもそも外を見てと言われてもお前と同じ景色が見えるわけないだろうが。ここはお前の居る日本じゃない。
昇る。きれい。それらの単語とこの時間にかけてきた理由でようやく理解した。相変わらず、電話の向こうではハイテンションな声が聞こえてくる。
「……日の出を知らせようとしたんだろうがこっちはまだ深夜だ。日の出までまだ3時間以上ある」
『え』
すっかり時差というものを忘れていたらしい。はしゃぎ声がぴたりと止まった。
『そ、そっか。ごめん、おじゃましました。お休みなさい』
「待てよ」
『え?』
「日の出まではまだ時間があるが、こっちも日付を跨いだのは確かだ。何か言うことあるだろ?」
『あ、うん。明けましておめでとうございます』
落ち着きを取り戻した声で新年の挨拶を告げる彼女。本当は、もし今目の前にいるならば迷わず俺に抱きついてくるのだろう。想像するに容易いことを思い浮かべていると勝手に口元が緩む。
「今年は去年よりもそっちに帰れるようにする」
『ほんとう!?』
わーい、と今年初の嬉しそうな声が聞こえる。いつかな、早く会いたいな。彼女の喜ぶ声が耳の中へ浸透してくる。でかい声なのにとても心地よかった。
まだまだ闇の空を見上げながら思った。俺だって会いたいのは同じだ、と。

1/3/2024, 5:14:40 AM

今年の抱負。

健康に、楽しく美味しく美しくいたいな。
1日1回は笑う。
あと、人に流されないようにする。

それと、あんまりイライラしないこと。
たとえダンナが、元日早々に結婚指輪失くして見つからなくって「きっとその内出てくるよ」って他人事みたいな言い方してきても殴りかからないようにする。

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