ゆかぽんたす

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週末の都内のカフェにて彼のことを待つ。待ちながら、先週届いた彼からのメールを見つめていた。

話があるから時間を作ってほしい。

デートも食事も、誘うのはいつも私から。だから突然、向こうからこんなメールが届いてすごく驚いた。話って何だろうか。この硬い言い方に違和感を覚えると同時に嫌な予感がする。そしてこういう時の予感は悲しくも当たってしまう。私の抱いてる“予感”とはつまり、彼に別れを切り出されるんじゃないか。
最近あまり会えなかったし互いに仕事が忙しかった。平気で連絡を無視したりされたりしたこの数週間だった。私はともかく、彼は1人でいても何ら問題なくやっていける人だから。こうやってだらだら続くよりもきっちりお別れをしましょう。それを告げるために時間を作ってほしいと言ってきたんだろう。
「悪い。遅れた」
「あ、ううん全然大丈夫――」
聞き慣れた声がしたら姿を確認する前に答え、その流れで顔を上げたのだが。
そこにはまさしく彼がいた。正真正銘私の彼氏が。薔薇の花束を抱えて立っていた。
「……どしたの」
「お前にやるために買ってきた」
ん、と少しぶっきらぼうに渡される。素直に受け取ると美しい赤や黄色やピンクの薔薇がぎっしり集まり1つに束ねられている。こんなに沢山あるのに同じ色が1つとてない。こういう買い方する人初めて見た。
「ありがと、あの、すごい色とりどりだね」
「……お前が好きな色が分からなかったから全色入れてもらったんだよ」
「あ。そうなんだ」
私の前の席に座ると彼は深い溜め息を吐いた。顔が少しだけ不機嫌な色を出している。私はわけが分からなかった。花束をくれた理由も、彼が不機嫌な理由も。
「俺はお前の好きな色すらちゃんと知らなかった」
「え」
「けど、お前にはいつも感謝してる。だから、1週間遅れちまったけど許せよ。誕生日おめでとう」
「……覚えててくれたんだ」
「当たり前だろうが」
今この瞬間。私は世界一愛されてる自信がある。こういうぶっきらぼうな所も、好きな色が分からなかったくらいでいじけてるところも私の愛してる彼だから。
私の嫌な予感は見当違いだった。今日だけは、私も素直に伝えようと思う。恥ずかしがって俯いてる彼が顔を上げたら伝えよう。ありがとうと、愛してるを。

1/9/2024, 9:59:37 AM