ゆかぽんたす

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日付が変わって0時0分ジャスト。
たった数秒前では出来なかったことが今は可能になった。おめでとう自分。ようこそ20代。
とは言っても私は酒も煙草にもさして興味はない。そもそもハタチを迎えることを待ち侘びていたわけでもなかった。昔は今と逆で、早く大人になりたいだなんて思ってたけど。高校卒業したあたりからもう充分大人扱いだし、年齢のせいで出来ないことなんてあまりなかった。だからこれ以上歳を重ねてもなあ。はっきり言って、この先歳をとっても、責任が付き纏う人生になるだけじゃん?
友人にそんな自分的解釈を話したら“あんたらしいわ”と言われた。彼女曰く、おおよそのことに対して私はいつもドライらしい。現実的って言ってよ。
そんな友人からのメッセージが早速届いた。
“20歳おめでとう〜……って、どうせ喜んでないだろうけど”。
そんな言葉と一緒にスタバのドリンクチケットまで送ってくれた。私も“ありがとう”をすぐさま返信する。
「明日、ヒマならどっか食べ行こーよ、っと」
彼女にご飯のお誘い文を打ち込んでる時、また別のメッセージを受信した。トーク一覧画面に戻る。嘘かと思った。
「え……」
夢でも見間違いでもなければ。そこに表れた名前はひとつ上のバイト先の先輩だった。連絡先を交換したのは確か半年くらい前。それから1度だってメッセージの交換なんてしたことはなかった。それなのに、なんで。
“店長から聞きました。今日誕生日なんだってね。おめでとう。もし、どこかで予定があったらご飯でもどうかな?美味しいお酒とお肉の店知ってます。ハタチの記念に良かったら”
「な、ななななな……」
思わず、寝転がっていたベッドから飛び起きる。勢いがよすぎたせいで足をすぐそばのチェストにぶつけた。めちゃくちゃ痛い、ということは夢ではない。
「うそ、うそ……」
何度も何度も送られてきたメッセージを読み返す。そんな、でも、なんで?わけが分からず自分の部屋の中で右往左往していると、さっきの友人から“オッケー”というゆるいスタンプが返ってきた。
「待って、ちょっといったん保留……!」
自分から誘っておいて彼女とのご飯を断るなんて酷いやつだとは自覚がある。でも、だって誘われちゃったんだもん。あ、だけど別に明日じゃないのか。そうだよね、そんなすぐに行くわけないもんね。
「美味しいお肉とお酒、かあ」
ハタチにならなきゃ味わえないもの。ひょっとして先輩は、私がハタチになるのを待っててくれたってこと?いやまさか。たまたま食べに行きたい店が美味しいお酒のあるところなんだろう。いやでも待って、文にはハタチの記念にってある。じゃあやっぱしそういうことなんだろうか。ていうかそもそも、なんで私をご飯に誘ってくれるの?
「……とりあえず、寝よう」
分からないことが多すぎるから、今日は遅いし考えるのやめよう。はたして寝れるだろうか。分からないけれど再びベッドの上に倒れ込む。時刻は0時13分。20歳になることは、やっぱり素晴らしいことなのかもしれない。……って、友人に言ったら調子のいいヤツって呆れられそうだな。

1/11/2024, 9:33:38 AM