ゆかぽんたす

Open App
7/31/2023, 2:25:11 AM

今日の放課後時間ある?話したいことあるんだけど。

そんなメールが送られてきた。相手は家が近所の幼馴染。家が近いけど、お互い部活の朝練があって顔を合わせるのはごくごくたまに。中学生の頃はもっといっぱい会ってたけど、なかなか今は難しい。それでも、同じ高校に進学できただけでも感謝しなくては。
何を隠そう、僕は彼女が好きだ。かれこれもう、7年くらい片思いをしている。高校生活も残り1年をきってしまった。そろそろ行動に移さないと。今度こそ彼女は遠いところへ行ってしまうかもしれない。

そんな、仄かな心の焦りを抱いている時に彼女からのメールを受信した。僕は約束通り放課後自分の教室で彼女を待つ。10分位経ってから、息を切らした彼女が教室へ飛び込んできた。
「ごめん!待った?」
「いや、全然」
こうして向き合って話すのが何週間かぶり。それだけでこっちは緊張をしてしまうというのに。彼女は僕の向かい側の椅子に座った。距離がとても近い。
「ねぇ、お兄ちゃん元気?」
「え?別に普通だけど」
僕には5つ年の離れた兄がいる。もう社会人になり東京で働いている兄は、幼いころは僕と彼女とよく一緒に遊んでくれた。とても面倒見が良い兄だ。彼女も慕って、今でもお兄ちゃんと呼んでいる。
「兄さんがどうかしたの?」
「その、あの」
なんだか彼女は口をもごもごさせている。目配せまでして、僕を見つめる目が、心なしか色っぽい。思わずごくり、と唾を飲み込んだ。
「この夏、帰ってきたりするのかなあ、って」
「え?あぁ、うん。夏休み取ったら帰省すると思うよ」
「ほんと?そしたらさ、私にも教えてほしいの」
「別に……いいけど?」
「ありがとう」
僕の返事に彼女はホッとした表情を見せた。なんだか、やな予感がする。
「もう、当たって砕けてやろーって思ってさ」
立ち上がると彼女はその場で伸びをした。
「告白しようと思うの。お兄ちゃんに」
はにかんだ顔で、彼女はそう言った。すごく可愛いと思った。瞳が澄んでいて綺麗だと思った。僕に向けられた笑顔であり瞳であるのに、僕によく似た兄を思い浮かべて笑っている。笑いそうになった。無論、勘違いした僕自身に。
彼女はじゃあ行くね、と言うとさっさと帰ってしまった。一緒に帰ろうとも言われない僕は、最初から眼中にないんだ。
「あはは」
ようやく笑いが出てきた。
乾いた虚しい笑い声が、誰も居ない教室で響いた。

7/30/2023, 6:47:59 AM

大丈夫。
何とかなる。
貴方には他でもない私がいる。
それだけじゃ不満?
どこまでだってついてくよ。
たとえそれが茨の道でも。
信じた先に嵐が来ようとも。
貴方が正しいと選べばそれが正しい。
だから決断を恐れないで。
私がついてることを忘れないで。
恐れるのも悲しむのも人間だもの。避けられない。
でも足を止めたらそこで終わる。
限界を決めるにはまだ早いよ。
自分の力は誰かと比較するもんじゃない。

だから行くよ、準備はいい?

“The first and best victory is to conquer self.”

7/29/2023, 5:42:23 AM

リョウくんとケンカした。となりの席の男の子。いつも勝手にわたしのペンケースからペンを抜き取ったり、教科書に変な絵を落書きしてくる。今日も勝手にわたしのペンを使おうとしている。やめてよ、と言っても聞いてくれたことはない。でも、何も言わないでいても変わらないのでせいいっぱい声をはり上げてやめてよ、と言った。リョウくんは「うるせーな」と言っただけでにやにやしている。毎日毎日こんなふうにいじわるされて、もうガマンできなかった。だからリョウくんに向かって思いきり消しゴムを投げた。リョウくんはもう笑うのをやめてびっくりした顔を見せた。その後、何も言わずに盗もうとしたわたしのペンを机の上においてきた。
その日からもう、リョウくんはわたしにいじわるしてくることはなかった。

昨日で学校は終わり。今日から夏休み。友達といっしょに自由研究をやろうね、と約束した。だから、学校は休みでも今日も明日も明後日も会うことになっている。でもリョウくんとは会わない。友達じゃないから。なのに、家を出たすぐのところにリョウくんが寄りかかっていた。わたしと目が合うとこっちにやって来る。
「ん」
にぎった手をわたしに向かってつき出してきた。なんだろう。よく分かんなくてぼーっとしてたら、手を出せ、と言われた。わたしの手のひらに何かが乗せられた。それは消しゴムだった。
「……なに、これ」
「おまえがこないだオレに投げてきた時にわれただろ。新しいの、買ってきた」
リョウくんはこまったような顔をしていた。こんな顔を見たことがなかった。いつもわたしには、ふざけていじわるな笑いばっかりしてくるのに。
「ありがとう」
もらっていいみたいなので、その消しゴムを受けとった。われちゃった時はたしかに凹んだけど、そこまでショックではなかった。それよりも、リョウくんがこのために家の前まで来てくれたことにびっくりしている。
「あのさ、」
まだ、何かわたしに用事があるみたいで。さっきから口をもごもごさせている。今日のリョウくんはなんか、変だ。いつものえらそうなふんいきが全然見えない。
「今日の夕方お祭りあるの、知ってるか」
「お祭り?知らない」
「それに、行こうぜ」
「え?」
何を言われてるんだかすぐに分からなかった。もう1回言って。そう言おうとしたのにリョウくんはぷいっと向こうを向いている。耳しか見えなくて、その耳は赤くなっていた。お祭りに、行こうって。わたしに言ったんだよね、今。
「いいよ」
答えたら、リョウくんはもう一度こっちを見た。やっぱり耳だけじゃなくて顔ごとゆでダコみたいに真っ赤だった。
「消しゴムなげてごめんね」
わたしがあやまると、リョウくんは別に、と言って、そしてまた顔を向こうに向けてしまった。でも別におこってないことは分かってる。じゃなきゃわたしをお祭りになんてさそってこない。
楽しみだな、お祭り。リョウくんと行くお祭り、楽しみ。

7/27/2023, 1:24:45 PM

今日も、空には月と星が瞬いている。それ以外の灯りはあまりない。もう殆どの店が閉まった時間帯。少しだけ薄気味悪い帰路を重い足取りで歩く。
連日の残業続きで心も体も疲労がピークだった。この生活に慣れる日は来るのだろうか。今夜もどうせ、帰って残された力を振り絞ってシャワーを浴びたらすぐベッドにダイブだろう。やることがあってもとてもじゃないけどその気力が起きない。せめてお風呂に浸かれたら。その為にはお風呂を沸かしといてもらえたら。そんなこと、一人暮らしの身には無理な話だけど。
地味にきついアパートの階段を登って、ようやく自分の部屋の扉の前に辿り着く。血の気が引いた。自分の家の中に灯りがついてる。消し忘れたなんて、今までになかった。恐る恐るドアノブに手を掛けると、なんと開いていた。
「……うそ」
さっきまで抜け殻状態だった体が急に強張っていく。全身の血の巡り方が一気に変化した。どくどく鳴る心臓を抑えられないまま、私は扉を開けた。
「あ、おかえり」
膝から崩れ落ちた。どっと吹き出た汗がまだ止まらない。何回か深呼吸をした後、不法侵入者もとい、自分の恋人を睨みつけた。
「遅かったね、お疲れ様。あんまりお腹空いてないと思って簡単なものだけ作っといたよ」
へらりと笑って彼は冷蔵庫からラップのかかった皿を取り出す。
「でも先お風呂入る?沸いてるよ。……って、どうしたの」
「びっ……くり、した」
「ん?」
「もう!来るなら連絡ちょうだいよ!」
「あはは。ごめんごめん」
彼は笑いながら座り込んだままの私に手を差し出してきたので、素直に掴んで立ち上がる。
「なんで急に来たの」
「え?来ちゃ迷惑だった?」
「そんなことはないけど。びっくりするじゃん。こんなこと、今までなかったから」
合鍵は渡していたけど、こんなふうに突然彼が来ることなんてなかった。前例が無かったから故に、こんなに驚いたのだ。
「ごめんね、驚かせて。でも、そろそろお前が潰れちゃう頃かなって」
だから救出に来ました、と言って私の頭に手を置く。その優しさが次第に染みてきて、うっかり泣きそうになった。
「……どうして分かったの?私がしんどいって」
「んー?神様がね、お前がヤバいから助けに行けって言ってきたんだ。だから来たよ、愛しの彼氏さんが」
「なに、それ」
なんてくだらない冗談なんだ。でもそれさえも、今の私には嬉しくて愛しくて。途端に全身の力が抜けて彼の胸に倒れ込んだ。

神様ありがとう。彼の前に舞い降りてくれて。

7/27/2023, 7:40:00 AM

え?その選択が誰かの為になる?
じゃあさ、その“誰か”って、誰よ?
仮に、そうすることでその誰かさんが救われたとして。
お前はどーなんの?何を得るの?
顔も名前も知らない誰かを救えたっていう功績?
まさか、自分の正義感に酔っちゃってるんじゃないだろうね?

まぁお前の選択は間違っちゃいないよ、お前が決めたことだから。正しいも間違いも、自分で選んだことなら第三者が評価する筋合いはないさ。
だからお前の理想通り、その選択を遂行したとして未だ見ぬ“誰か”が救われる。ソイツは幸せになる。ここまではお前も今描けてるんだろう?

けどな。
それで全てが丸くおさまるだなんて、そんな虫の良い話なんか無いことに気付け。誰かの願いが叶えば悲しむ誰かがいる。全員が幸せになるなんて無理だ。
即ち、お前がその選択をとって、“誰か”を救えたとしても、その裏側では嘆くヤツだっているんだよ。
それが誰だか分かってるか?お前がどれだけ必要とされてるか、自覚はあるのか?

泣くのを堪えるのがこんなにもしんどいことを初めて知ったよ。
いいか。1度しか言わないぞ。

俺の前から居なくならないでくれ。
良く分からない“誰か”より、俺を救ってくれないか。

Next