つつも

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2/18/2024, 9:16:31 AM

【お気に入り】

不思議な夢を見た。
河原で1人佇んでいると、遠くから女の子がやって来た。
「お兄ちゃん。わたし、困ってるの。助けて欲しい」
この状況を気にも止めなかった俺は快く了承した。
女の子はありがとうと言って俺の袖を引っ張る。彼女に連れられていくと、そこには小さな石が積まれていた。
「これをもっと高くしたいの」
俺は彼女と石を積み上げる。膝丈くらいまで高く積み上げると、女の子は飛んで喜び、お礼と言って小さな黒い人形を差し出してきた。
「お気に入りなの。お兄ちゃんに持っていて欲しい」

そこで、目が覚めた。
変な夢だと思いつつも、大学へ行くため支度し玄関を開ける。そこで足が止まった。
玄関先に小さな人形が落ちている。
拾い上げてみると、どことなく夢で見た女の子に似ている気がした。直感的に、これは夢のあの子がくれたものだと気がついた。
少し気味の悪さを覚えつつも、何故か俺はその人形をポケットに入れていた。
その通学途中、俺は信号無視の車に跳ねられた。

目が覚めたのは病院の中だった。奇跡的に軽い打撲で済んだらしい。
医者の話をぼんやりと聞きながら、右の太ももがじんわりと熱くなっているのを感じた。
軽く触ってみると、熱くなっていたのはあの人形だった。

あの女の子が守ってくれたのか?
なんにせよ、俺は彼女がお気に入りだと言った人形を今でも大切に持っている。

2/17/2024, 9:30:35 AM

【誰よりも】

「またテスト100点じゃん!」
先程の授業で返された用紙を見て友達が目を輝かせて話しかけてくる。
僕は恥ずかしくなり、少し目を逸らして笑った。

「いつも満点だよね。いっぱい頑張ってるんだね。ボクも頑張らないとなぁ」
「いつもじゃないよ。この前は間違えたとこあるし」
僕がそう返すと、友達はそれでも十分すごいと語気強めに言った。
「君のお母さんたちも喜ぶんじゃない?」
その言葉に僕は少し戸惑う。というのも、僕の両親は完璧主義なところがある。

僕が前回の答案用紙を持って帰った時に少し不機嫌になったのだ。今回の点数をみれば確かに褒めてくれるかもしれない。
だけど次の一言には決まって、
「次も100点取れるよね」
と言うに違いない。

僕は友達を見る。彼は曇りのない瞳で僕を見ていた。
僕は誰よりも努力して満点を取る。彼は誰よりも純粋に他人を応援して寄り添ってくれる。
そんな彼を見てると、僕は少しだけ劣等感が募り羨ましく思うのだ。

2/15/2024, 12:13:35 PM

【10年後の私から届いた手紙】

学校から帰ってくると、机の上に手紙が置いてあった。郵便受けに入っていたのを、お父さんが見つけて置いたようだ。
封筒には私の名前だけ。差出人は書かれておらず、シンプルな便箋だった。
誰かも分からないうえ、この時代に手紙?と思いつつも、中身が気になった私は封を開けた。
半ば、昔にあったという不幸の手紙だったらどうしようと思いながら。

最初に目に飛びこんで来たのは、「10年前の私へ」という文字だった。

「10年前の私へ
この手紙が届いた頃、あなたは10歳の誕生日を迎えたよね。
お母さんが居なくなっちゃってさみしいだろうけど、慣れたかな?
お父さんを支えてあげててえらい!
たくさん遊んで、勉強も頑張ってえらいよ!
大丈夫。今はさみしくても、辛いことがあっても、10年後あなたはたくさんの幸せにかこまれてるからね。10年後の私はとても幸せだよ」

そんな内容の手紙。私は、何となくこの手紙を書いたのは病気で亡くなったお母さんだと思った。
未来から手紙なんて届くわけない。住所も、切手だって無いんだもの。
それでも、お父さんは10年後から手紙が届くなんて不思議だなぁ、なんてとぼけていたので、私もそれに合わせた。

そして、まさにその10年後。
私は運命の人と出会い、今は結婚を前提に付き合っている。
手紙は今も大事にとっており、私の宝物だ。

2/14/2024, 1:03:19 PM

【バレンタイン】

2月14日。
この日になると女子が揃って落ち着かない。かくいう私も、先生に見つからないように好きな男子にチョコをプレゼントする機会を伺っていた。

放課後、チョコを渡し終えた女子は落ち着きを取り戻し、かえって男子が落ち着きを無くす。
好きな人に堂々とプレゼントができるというこのイベントが楽しみだ。

友達に渡すチョコを手作り。あの子に渡すチョコは、他とは違う特別デザイン。そんなことを考えながら、当日を待ち侘びる。
先生に見つかるかもしれないというハラハラ感も、いつもの日常と違う刺激になる。

渡したあとの返事は貰えるのかな?
そんなことを考えながら過ごしたその日の夜は、少し興奮して眠れなくなる。

2/13/2024, 10:26:11 PM

【待ってて】

前に何気なく彼女が欲しいと言っていた、可愛らしい小ぶりのアクセサリー。
今は綺麗にラッピングされて僕の手元にある。待っていてね、もうすぐ来る記念日に渡したいから。
彼女の喜ぶ顔が思い浮かぶ。

…なんて、待っていてとか、これを用意している彼女は知らない。待ち遠しいのは、僕のほう。
早く彼女の笑顔がみたいな。

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