こぼれたアイスクリーム
甘くて冷たい液体が手首を伝う。
君からのオーダーが入る。
好きだった。
そんな事言うなよ。
過去形にして蓋を被せるなよ。
俺はまだ好きだ。
そんな思いも儚く溶ける。
まるで零れたアイスクリーム。
ストロベリーよりも甘い。
なのに後味は抹茶より苦い。
そしてラズベリーより酸っぱい。
楽しかったのは自分だけ?
気持ちも行動も空中ブランコ空回り。
頭もカラースプレーで霞む。
ラムネのように思考が弾ける。
バニラよりもクリアなのに。
チョコレートよりも執拗い気持ち。
分かりきった最後だけどさ。
まだ君からのお代は足りてない。
本当は諦めきれてないんだろう。
瞳が揺れてるから。
下唇に朱が滲むくらいの抑制。
何がそうさせているのか。
シークレットだから分からない。
いつか答え合わせをしよう。
それまでまだ味わっていいかな。
君という名の冷たい甘味を。
始めより温くて。
最後は淡く僕の手から零れる。
そう分かっているからこそ楽しいんだ。
やさしさなんて
偽善的な声かけが胸を刃物のように突き刺す。
まだ頑張れるよね。
頑張れ。
君ならできるよね。
大丈夫でしょ。
頼りにしてるよ。
優しいね。
強いね。
そんなもの私は求めてない。
私が欲しいものは寄り添ってくれる温度だけ。
何も言わずにそこにいて音を感じさせてくれたらいい。
期待してるからなんて言わないでよ。
それは優しさじゃなくて暴力だよ。
あなたは独りじゃないなんて、機械的に言わないでよ。
本気で私を想うならただ静かにそこにいて。
そしてお話を聞いて欲しいの。
よく頑張ったね。
もう大丈夫だよ。
きっととても疲れたんだよね。
お疲れ様。
同情なんていらないの。
私も同じって言わないでよ。
それが一番痛いから。
私だけの痛みのアイデンティティを奪わないでよ。
私もその時にねなんてやめてよ。
下手に同情しないで。
辛いのは私もって言ってるようなものじゃん。
偽物の慰めなんて要らないの。
それが優しさだとしても受け取りたくないの。
一方通行な自己満足を押し付けないでよ。
そう思って喉奥に貼りついた言葉は私の口内で舌に絡み
目の前にいるあなたの為に優しさで流し込んだ。
優しさなんて、結局は自己犠牲なんだよ。
風を感じて
純黒の髪の毛が光に揺れる
空に藍が咲き誇る
土を踏めば目に見えない幸せが音を立てずに消えていく
目には微かな熱を孕む
口元には妖しい程に美しい朱が落ちている
浴衣に身を包み明るく笑う君は花火よりも美しく
この瞬間1番輝いていた。
季節は変わる
平和と涼しさを運んで何時もと変わらぬ風が吹く
君は今頃遠い街
誰かと幸せになっている
私を置いていかないで
其れは風に呑まれてどこかへ消えた
夢じゃない
夜景に墨が吹きかけられた様に一気に意識が落ちる。
直後黒に金粉が降りかかる様に光が入る。
雪国の人なら分かるだろう。銀景色に斜陽が煌めき地面が黄金色に輝くあの瞬間の様だ。
目を開ける。が何故か目が熱い。
蒸しタオルで温めているくらい。
そして重い。
何故だろう。
確か昨日は振られてヤケになって酒を煽って……
そこからがない。
頭蓋骨が軋むようにギシギシ痛くて、曖昧。
俺のあの一瞬は夢だったのか。
携帯電話を開けばそこに映る愛おしい、否、恨みたくなるほど可愛い笑顔をこちらに向けるお前が映ってて、とても胸が痛い。
これが、失恋の痛みか。
なんとも形容しがたい、辛く深く、心臓に縄でも巻いているようなそんな心地だ。
ぽっと出のちょっと顔がいいやつにお前が取られて、
あ、あれお前の言ってたやつ?違うよ〜ただの友達。
なんで言われて、問い詰めたら……振られて。
何でだよ。俺何かしたかよ。
あれは夢だったのかよ。
俺だけ必死で馬鹿みたいだったな。
でも俺お前のこと好きなわけじゃなかったし。
じゃあ、何でこんなに苦しいんだ。
今まで当たり前にいた体温は冷めて、毎朝電話の15分が空白恋愛に注ぎ込まれて暇な時間の分俺を苦しめた。
そうなると嫌でも強がってた仮面が剥がれるわけで自分自身と真面目に向き合える。
だからつくづく思う。
あの時間は確かに今考えれば無駄だった。
だけどそこに意味を成していた。
そこに確かな相互関係と愛情があった。
それだけは夢じゃない。
信じていい事だったんだな。
俺は今日またお前に会いに行く。
新しいやつと結ばれた記念に華でも手向けてやろうと思ってな。
愛情という優しく深く痛い刃物で俺もお前も死ねばいい。
じゃあ、さようならをしようか。
世界で一番憎くて屑で愛らしくて可憐なお前と、この目の前の幸せにしか目を向けられないただの青い鳥籠に。
あぁ、俺、泣いてたんだな。
心の羅針盤
前後左右不覚で、ただ気泡のように揺れている。
ただ生という円環の海に投げ出されて。
ここにいつ来たか、そんなのもう忘れた。
何回生まれて何回死んだのだろう。
ずっと探していたものは、何か。
そんなの分からない。
だけど探す為に円環にいるんだろう。
だけど、やっぱり分からない。
だからその為に羅針盤があるのだ。
心のコンパス。
未来と過去の合流地点を示す便利な道具。
自分を見失わないように。
何時も未来を紅が指す。
過去を銀で彩る。
例え航海図が何も分からない純白で彩られていたとしても自分という可能性で彩ってあげよう。
規制の枠から飛び出して全てを受け入れよう。
自分のそのままを愛そう。
正解なんて分からない。
だけど自分の望むことをやるために。
失っても道がいつか自然に出来るように。
この円環から抜けて自分のやりたかった事が出来る。
そんないつかの世界を夢見て今日もまた生まれる。
今度は何になるのかな