「うっ」
私は布団の中でうめいた。
なんだか体が動かない…
仰向けのまま寝返りがうてない…
これはいわゆる金縛りというやつではないだろうか?
「うぅー」
うめきながらもなんとか上半身を持ち上げることが出来たので、やっとの思いで体を持ち上げる。
「…って、なんだぁ」
布団の上、私の股ぐらの位置にはクロちゃんが爆睡していた。
「クロちゃん、もうそこで寝られると動けないよ…」
にゃごー
安心しきったクロちゃんの安らかな瞳を眺めながら、私は代償に痛めた腰を擦るのだった。
ひんやりとした週始め。
私は職場から帰るとすぐに冷凍庫に凍らせておいたニンジンと玉ねぎを鍋に放り込んだ。
じゃがいもの皮をむいて鍋へ入れ、火にかける。
鶏肉もさばいてそれも放り込む。
何事かと二階から降りてきたクロちゃんが、興味津々で先ほどからずっと隣でこちらを見上げてくる。
「今日はカレーなんだ」
にゃごー
「ん?クロちゃんにはちょっと刺激強いから、あとでカリカリをあげるよ」
そして煮込むこと一時間。
ルーを投入すれば大好きなカレーの出来上がりだ。
「よし。では、いただきます」
久々のカレーライスは、子供の頃の懐かしい味がした。
「この子は甘えん坊な子なんですよ」
そう言ってお姉さんは、床で寝転んでいる猫の頭を撫でてあげる。
私はとある保護猫カフェに来ていた。
前々から考えていた、二匹目の保護猫の受け入れのためだ。
ペットショップより保護施設。
クロちゃんも保護猫カフェから迎え入れたので、今回も保護施設からの受け入れが真っ先に浮かんだ事だった。
しかし、迎え入れた子とクロちゃんが合うかどうかはまだ分からない。
なので、癒やしを求めつつも何度も通い、よく見極めようと思っていた。
「おうちの子が女の子の成猫さんだとしたら、小猫か男の子のほうが合うかもしれませんねぇ。女の子はプライドが高い子が多いから、バチバチになる可能性もあるかもしれません」
「なるほど」
スタッフのお姉さんの説明に、納得したように頷く。
やはり人間と同じで色んな性格の子がいるし、話を聞けたのは本当にありがたかった。
自分の知らない話をもっと聞きたいし、この保護猫カフェの子たちのことをもっと知りたい。
こうして通いつつ、クロちゃんと相性の良い子とうまく出会えれば言うことなしなのだが…
「うーん、やっぱりどの子もいい子で選びきれないなぁ」
これはしばらく保護猫カフェ通いが続きそうだ。
待ちに待った週末。
私はテーブルに置いてあるお弁当を前に、ごくりと喉を鳴らした。
デパートでやっていた北海道展で、とても美味しそうなお肉弁当を手に入れたのだ。
コップにお茶を注ぎ、蓋を開ける。
この瞬間を待っていたのだ。
「うわぁ、すごい」
中には柔らかそうなステーキ肉が米の上にぎっしりと敷き詰められている。
端には焼いたホタテまである。
「いただきます」
ステーキ肉を一切れ頬張れば、もう幸福感しかない。
「うわぁ、なんて柔らかいんだ。このホタテも美味しい。米も甘くて美味しいや」
いつもなら昼まで寝坊してゴロゴロと過ごす週末なのだが、そんな平穏な日常とはまた違った、少しだけ贅沢な時間を過ごすことができた。
「たまにはこんな贅沢もいいものだなぁ」
柔らかい肉を大切に噛み締めながら、ちょっと特別な週末が過ぎていった。
週末が目前に迫った朝。
あと一日行けば休みだと己に言い聞かせて、暖かな布団からやっとのことで這い出した。
洗濯機を回し、洗い終わった洗濯物をベランダへと出したとき、独特の鳴き声が耳に届いた。
グルッポー
「あぁビックリしたー」
愛と平和の象徴の鳩が思ったよりだいぶ近くで鳴くものだから、思わずドキッとしてしまった。
窓からはクロちゃんがそんな鳩を食い入るように見つめている。
「ここらへんは、鳩とカラスがほんと多いなぁ」
前住んでいた所とはまるで環境が違っていたが、自分としてはこののんびりした田舎の町のほうが肌に合っているのだろう。
「さて、あと一日頑張りますか」
洗濯物を干し終えた私は、うんと伸びをしながら来るべき週末にむけて動き出した。