白桃

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9/1/2023, 1:40:32 PM

『開けないLINE』

告白をした。
隣に住んでる幼馴染に。
本当は伝えるつもりなんて無かった。
墓場まで持っていこうと思ってた。
あいつは僕と違って、将来が明るい人間だ。
勉強もスポーツもできて、社交性だってあるし、整った顔だし、優しいし、スタイルもいい。
素敵な恋人と出会って、結婚して、幸せな家庭を築くんだと。
僕はただずっと友人でいようと思ったのに。

「夏休みはデートあるから、あんまり遊べないかもな。」

ちゃんと聞こえてた、分かってた。
今も恋人がいることも知ってる。
じゃあしょうがないね。って言葉が頭にちゃんとあったのに、
口から出てきたのは、

「僕、優が好きだよ。」

という全く想定外の言葉だった。
理解した頃には自分の部屋に戻っていて、エアコンのついていない部屋でだらだらと汗をかきながら、ぐるぐると部屋を歩き回った。
スマホの通知音が鳴る。
1度だけ鳴るその音は巡る思考を止めるには十分だった。

[新着メッセージがあります]

こんなの開けるわけがない。



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登場する名前は架空のものです。

9/1/2023, 7:11:47 AM

『不完全な僕』

歳の割に大人だよね。

よく言われる言葉。何を言っているんだろう。
自分は周りが思っているより大人じゃないと思う。
僕だって感情的になるし、わがままだって言う。
朝は起きたくないし、仕事も家事もしたくない。
学生時代から変わらないまだまだ未完成なやつだ。
「君って大人の皮被るの上手いよね。」
笑いながら言う彼だけが、僕のことを知っている。

8/30/2023, 3:06:43 PM

『香水』

「なんか、良い匂いする。」
突然、僕に顔を近づけてくる君。
「何か付けてきてるだろ。なんだ?嗅いだことあるな。」
何か付けてるって。お洒落に特別興味が無い僕が匂いに気を使うはずが無い。
気のせいじゃないか。そう言おうとした瞬間、濃くて甘いのに優しくて熟した果実のような香りが微かにした。
なんだろうと不意に頭を触ってみると、小さなオレンジ色の粒がぽろぽろと落ちてきた。
拾い上げてみると小さな花で、先程の香りがする。
これじゃないか。
何の花だろうと思っていると君がまた近くに寄ってくる。
「あ、それか。金木犀。それくっついてたんだな。」
キンモクセイ。惑星みたいな名前だと思った。
良い匂いだ。秋の匂いだ。と君が僕の手から花の香りを嗅ぐ。
そういえば、君の吐く息が白くなり始めた。柔らかそうな鼻と頬が赤くなってきている。
日がだいぶ傾いて、オレンジ色の空に段々と青紫色が塗りたされている。
「寒い寒い。肉まん買って帰ろう。」
君が手を握ってくる。ぽろぽろと小さな星が落ちていく。
君の温もりを感じながら、これからの秋はこの香りで今日の君を思い出すんだろうなと思った。


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あんまり関係ないけどずっとあっためてたので、
香り関連ってことで…|-・。`)コソリ

8/28/2023, 1:31:30 PM

『突然の君の訪問』


「お前歌上手いんだな。」

金曜日の放課後、誰も来ないはずの音楽室。
突然開いた扉から君が姿を現した。
投げかけられた言葉に全く反応できずにいると、なんの迷いもなく君はこちら側にやってくる。
息も出来ずにいる僕の横をすっと通り過ぎ、古びた大きなピアノの側に立つ。
白く長い指が鍵盤に下ろされる。
確かめるように軽やかに動く指先は、窓から差し込む黄金色の光に照らされ、魔法がかかっているかのようだった。
目の前の光景に呆然としていると、君が僕に向かって話しかけているようだった。

「つづき、歌ってよ。」

人気者の君が今この瞬間は僕だけを見ている。
クラスのみんなに向けるみたいな微笑みは、いつもと同じようであったが琥珀色に光る瞳だけは初めて見たものだった。

ドンドンと心臓を内側から叩く音がする。
おまえはまだお呼びじゃない。

8/27/2023, 1:25:34 PM

『雨に佇む』

雨の日の公園。
雨に濡れた木々がより青々と深く色づく。
雨なのに噴水出るんだなあ。
大きな池には雨なのか、噴水の飛沫なのか分からない無数の波紋ができては消えている。
イヤフォンをスマートフォンにつなぐ。
再生ボタンを押す手が止まる。
あぁ、これでいいな。
イヤフォンを耳に差したまま、手元の機械からはなんの音も聞こえない。車が走っていく音。絶え間なく出続ける噴水の音。雨の降る音。ジョギングしてる人の足音。犬の息遣い。
田舎も音だらけだな。なにが静かだよ。
訳もなく怒る。
あーあ、本屋行って帰ろう。
駐車場に戻って、車のエンジンをかける。
好きな音楽をかけて公園を後にする。
別にわけがなかった訳ない。
聴きたくない音を聞こえないフリしただけ。
確実に感じた寂しさに、その思いをむけた人に。

なんであいつなんだよ。

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