『突然の君の訪問』
「お前歌上手いんだな。」
金曜日の放課後、誰も来ないはずの音楽室。
突然開いた扉から君が姿を現した。
投げかけられた言葉に全く反応できずにいると、なんの迷いもなく君はこちら側にやってくる。
息も出来ずにいる僕の横をすっと通り過ぎ、古びた大きなピアノの側に立つ。
白く長い指が鍵盤に下ろされる。
確かめるように軽やかに動く指先は、窓から差し込む黄金色の光に照らされ、魔法がかかっているかのようだった。
目の前の光景に呆然としていると、君が僕に向かって話しかけているようだった。
「つづき、歌ってよ。」
人気者の君が今この瞬間は僕だけを見ている。
クラスのみんなに向けるみたいな微笑みは、いつもと同じようであったが琥珀色に光る瞳だけは初めて見たものだった。
ドンドンと心臓を内側から叩く音がする。
おまえはまだお呼びじゃない。
8/28/2023, 1:31:30 PM