「人はなぜ1人で寝る?質問?」
「いや、全人類が1人で寝るわけじゃない。小さな子供は親と一緒に寝る。」
「じゃあなぜ、君は1人で寝る?質問?」
「寂しいことを聞くね」
「?わからない?」
「皮肉に聞こえたってことさ」
「皮肉。本当と反対のこと言う」
「そう。ちゃんと覚えてるな」
「なぜ1人で寝る?誰も見守らない?質問?」
「もう僕は、子供じゃないからな。見守るような親もそばにはいないし」
「寂しい?質問?」
「はは、そうだな」
「?」
「寂しい時も、あるよ」
「...」
「そういう時は、1人でベッドルームでダンスをするのさ」
「ダンス?質問?」
「イエス。ジャズダーンス」
「ならもう踊らなくて大丈夫」
「え」
「もう1人じゃない」
「...」
「そばにいる」
「...わお。もしかして慰めてる?」
「イエス、イエス、イエス」
「...」
「寂しくない?質問?」
「...ああ、ちっともね」
「良い、良い、良い」
「ハグしてもいいかい?マイフレンド」
「いつまで?質問?」
「いつまででも」
「了解。マイフレンド」
君のために、生きるよ。
「善悪は誰が決めるのでしょうか」
「それは、あなた、もしくはわたしですね」
「個人が決めるものだと?」
「ひとつの意見ですよ」
「世間一般的に善悪が決まっているものもありますよね。それもどちらかを決めるのは個人ですか?」
「世間一般は個人の集まりですよ」
「あ、確かにそうですね」
「そうです」
「時々思うんです」
「はい」
「この世から悪いことが全て無くなればいいのに、と」
「それは、難しいですね」
「えぇ、理想論だということはわかっています」
「いえ、そうではなく」
「?」
「この世から悪いことが全てなくなってしまえば、何が善いことなのかもわからなくなってしまいますよ」
「ああ、なるほど」
「なんでも極端なのは考えものですね」
「まぁ確かに」
「それに」
「それに?」
「嫌な仕事を終えた後のビールは最高ですから」
「それは善悪とは関係ないのでは?」
「ねぇ、君はいつから本当のことを言わなくなったの?」
「そんな昔のこと覚えていないよ」
「それも嘘?」
「さて、どうかな」
「みんなあなたのことを嘘つきっていうの」
「僕からすれば、そんなこと言ってる奴らこそが嘘つきだと思うがね」
「どうして?」
「どうしてだと思う?」
「そんなのわからない」
「わからないんじゃない、考えてないだけさ」
「そんなこと!」
「そんなことない?」
「...ある、かも」
「うんうん」
「考えないことは、嘘つきと一緒?」
「さて、どうかな」
「教えてよ」
「そんな義理はないね」
「ケチ」
「それは本当」
「あなたはいつまで嘘をつくの?」
「んー、星が願いを叶えてくれるまで、かな」
「え?」
「小さい頃に星に願ったのさ。この世の全てを教えてくださいって」
「...」
「そしたらいつしか本当のことが言えなくなった。全てを知るまでは、僕は本当のことが言えないのさ」
「それも、嘘、だよね?」
「さて、どうかな」
「ときどき、ぼーっとする時間を、生活の中で作っているのです」
「ぼーっとする時間ですか。何も考えず、何もしない時、ということでしょうか」
「本来はそういう意味かもしれません。しかし人間なので、何も考えないというのは難しいですね」
「では、あなたはその時に何を考えているのです?」
「明日への光、でしょうか」
「え?」
「生きる希望、というか、私の生活を照らしてくれるような、そんな光のことです。私はそれについて考え、ぼーっとしているのだと思います」
「なるほど。では、あなたにとっての明日への光とはなんなのでしょうか?」
「今は美味いコーヒーですね」
【どこへ行こう】
行き場所に迷う様、または考えている状態。
***
「会社爆発しろ」と本気で思った。
そんな残業帰り。
4月ということもあり、新入社員の研修に日々追われていた私は、あまりの忙しさで精神がまいっていた。
本気で会社爆発しろ、と思うくらい。
社会に対して希望を抱いている新卒の子たちの前では笑顔を顔面に貼り付け、会社の企業理念について熱く語り聞かせる。
正直クソ喰らえだ。
自分の仕事に誇りを感じているのは確かだ。
やりがいだってある。
ただ時折、もう1人の自分が心の中で囁くのだ。
「お前は嘘つきだ」と。
そんなのわかってる。
仕事に情熱を燃やす気持ちと同時に、自分がいくら頑張っても世界なんて少しも変わらないという現実のことも理解している。ちっぽけな人間に、なにかを動かす力がないのなんて。そんなの、
「わかってるよ」
***
重い体を引きずって、やっと一人暮らしの我が家に辿り着いた。
さっさとシャワーで身体を清め、髪を乾かし、パジャマ姿でソファに腰をかける。
ふぅ、とため息が6畳1kの部屋に響いたような気がする。
私は目の前のローテーブルに積まれた「それら」を見る。
本。
ミステリ、ホラー、ファンタジー、ライトノベルなどなど様々なジャンルの小説が塔のように積み重なっている。
私はその本の塔を崩し、全ての表紙が見えるようにテーブルの上に並べる。
指を遊ばせながら、考える。
「今日は、どこに行こう」と。
自然と笑顔になる。
世界はままならない。1人の人間が変えることはできないかもしれない。でも「まだ」変えられていないだけだ。
未来のことなんて、わからないじゃないか。
だってこの本たちは、私という人間を「変えてくれる」。
どんな世界にだって「連れて行ってくれる」。
迷った末に、私は今年の本屋大賞を受賞した小説を手に取って、ドキドキとした気持ちで表紙を捲る。
この瞬間が、たまらなく大好きだ。
私はこれから旅に出る。
数時間の、どこに行くかもわからない旅に。
「いってきます」
私たちは、どこにだって行ける。