【どこへ行こう】
行き場所に迷う様、または考えている状態。
***
「会社爆発しろ」と本気で思った。
そんな残業帰り。
4月ということもあり、新入社員の研修に日々追われていた私は、あまりの忙しさで精神がまいっていた。
本気で会社爆発しろ、と思うくらい。
社会に対して希望を抱いている新卒の子たちの前では笑顔を顔面に貼り付け、会社の企業理念について熱く語り聞かせる。
正直クソ喰らえだ。
自分の仕事に誇りを感じているのは確かだ。
やりがいだってある。
ただ時折、もう1人の自分が心の中で囁くのだ。
「お前は嘘つきだ」と。
そんなのわかってる。
仕事に情熱を燃やす気持ちと同時に、自分がいくら頑張っても世界なんて少しも変わらないという現実のことも理解している。ちっぽけな人間に、なにかを動かす力がないのなんて。そんなの、
「わかってるよ」
***
重い体を引きずって、やっと一人暮らしの我が家に辿り着いた。
さっさとシャワーで身体を清め、髪を乾かし、パジャマ姿でソファに腰をかける。
ふぅ、とため息が6畳1kの部屋に響いたような気がする。
私は目の前のローテーブルに積まれた「それら」を見る。
本。
ミステリ、ホラー、ファンタジー、ライトノベルなどなど様々なジャンルの小説が塔のように積み重なっている。
私はその本の塔を崩し、全ての表紙が見えるようにテーブルの上に並べる。
指を遊ばせながら、考える。
「今日は、どこに行こう」と。
自然と笑顔になる。
世界はままならない。1人の人間が変えることはできないかもしれない。でも「まだ」変えられていないだけだ。
未来のことなんて、わからないじゃないか。
だってこの本たちは、私という人間を「変えてくれる」。
どんな世界にだって「連れて行ってくれる」。
迷った末に、私は今年の本屋大賞を受賞した小説を手に取って、ドキドキとした気持ちで表紙を捲る。
この瞬間が、たまらなく大好きだ。
私はこれから旅に出る。
数時間の、どこに行くかもわからない旅に。
「いってきます」
私たちは、どこにだって行ける。
4/23/2025, 11:33:15 PM