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11/25/2024, 12:29:14 AM

何年前だったか、彼にマフラーを編んであげた。編みものなんか初めてで、ところどころ目が飛んだりボサボサになったりしていた。まあ、自分としては一本の糸が布になったというだけでかなり満足だった。正直なところ、彼の反応はあまり覚えていない。たぶんビミョーだったんだろう。
だから今年のセーターは私の手づくりではない。のだが、誰と間違えたのか彼は
「ありがとう!編みもの上手だもんね」
と大喜びしていた。あとでスマホでも見てやろうかしら。

11/22/2024, 4:10:02 AM

十一月になると、つい数日前まで囃し立てられていたカボチャやお化けはすっかり消えてしまう。代わりにモミの木とキラキラしたリボンが街中を支配していた。
「きれいだねえ」
五歳になる息子は街路樹に巻きつけられたライトをみてそう言った。私は買い物袋が重くてそれどころではなかったのだけれど、
「うん」
とだけ返しておいた。
「ママ、僕のところにもサンタさん来るのかなあ」
「そうね、ちゃんとお手紙を書かなきゃね」
ふと思いついて言ったことだったが、息子はサンタへの手紙にやる気まんまんという感じだった。家に着くとさっそくおばあちゃんにもらった便せんを持ってきてなにやら書き出していた。
私は晩ごはんの準備に気を取られて、何を書いたのかよく見なかったが、いっちょ前に封筒まで用意した息子は私のところまできてすこし悲しそうな顔で
「ここになんて書けばサンタさんのところまで届くのかなあ、どうすればいいの?ママ」
と言ってきたのがどうしようもなくかわいらしかったので、思わずぎゅっと抱きしめた。
「ママがサンタさんに届けてあげるね。お友だちなんだ」

11/21/2024, 9:20:34 AM

昔、どんぐりを拾っては集めていた。つやつやしていようが、ボロボロに汚れていようが、虫がはい出してきてもお構い無しだったから、母親はさぞ苦労しただろう。
もらったバスケットに積まれていくどんぐりを眺めていると、達成感みたいなものがあらわれてきて、まあ気分が良かった。
そしてこの世のどんぐりを全て集め終わったんじゃなかろうかという頃、隣に住んでいた気のおかしなおばちゃんがどんぐりたちを燃やした。今から思えば気のおかしいのは自分の方だったのかもしれない。
ともかく、そこで自分は世の儚さを悟ったのである。あと、どんぐりはそんなに価値があるものじゃないということも。

11/20/2024, 9:52:24 AM

家族で囲む食卓は素敵なものだと思う。そこにそえられるキャンドルも。

11/19/2024, 5:37:55 AM

星を眺めるために、ちょっと頑張って良い望遠鏡を買ってみた。この人生、空など見上げる暇さえ無かった。けれど、ある日ネットで見かけた、星の軌跡をうつした写真がどうにも俺の心を掴んで離さない。美しく輝く彼らを間近で見ることができたなら、どんなに素敵だろう。
そう思って始めた天体観測は、意外にも困難をきわめた。調整が上手くいかないというのはもちろんだが、天気が悪かったり、仕事で疲れていると望遠鏡の前に座ることさえ出来ない日もあった。それでも、少しくらいぼやけていても、星たちは美しかった。

あるとき俺は仕事でヘタをうった。文字通り命からがら追手から逃げて、逃げて、力尽きて、冷たいコンクリートに体を投げ出した。夜空はよく晴れていて、星がよく見えた。俺が毎日、懸命に眺めようとした星たちは、望遠鏡などなくてもその姿をいつも見せようとしていたのであった。
走馬灯にはクソったれの人生のかけらと、たくさんの星が散りばめられていた。

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