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4/1/2026, 5:04:02 PM


交信を開始。
長い宇宙遊泳を終え降り立ったのは地球という星だった。
まずは擬態。河川の近くに落ちていた紙媒体を解析。

―「cancan」:「モデル」4個体のデータを抽出
身体を生成⋯完了.原体からの移行を開始

おそらく「ファッション雑誌」とされているものからヒトのデータを抽出し、身体を再生成することとした。

地球人とコネクトを取ること、そして我々の移住に関する交渉を行う。そのためには対話と文化理解が優先される。



早速「対話」の実践を図った。
対象―「生後238ヶ月程:ヒト属」.目的⋯対話の実践

「あなたの名前は何ですか?」
「え、何、誰ですか」
「?」
「何なんですか……観光の人?」
「カンコウ?」
「道聞くでもないし……こわっ」

→失敗。どうやら「道を聞く」のが正解だったようだ。



対象―「生後224ヶ月程:ヒト属」.目的⋯対話の実践(2)

「この道は何ですか?」
「え、ウケる。知らねーけど」
「そうですか、道を聞きたかったのですが」
「迷ってんの?てかスマホは?」
「スマホ……よく分かりません」
「siriかよ、ウケる」

→失敗。「スマホ」.「ウケる」を学習。



対象―「生後383ヶ月程:ヒト属」.目的⋯対話の実践(3)

「道を聞きたいのですが」
「ああ……どこに行きたいんですか?」
「移住や権利について話せるヒトがいる所です」
「…………どういう事ですか?大使館とか?」
「タイシカン、ああ、そんな所があるんですね」
「困ってるなら警察署でも良いんじゃないですか」
「理解しました」

→成功?「警察署」の場所を教えられた。



対象―「生後461ヶ月程:ヒト属」.目的⋯自己開示と交渉

「宇宙人です、先程地球に降り立ちました」
「へえ、最近頭打ったり倒れたりした?」
「いいえ、道を尋ねてここに来ました」
「あ、外国人?観光とか?」
「先程からよく分からない事を聞きますね」
「ちょっと身分証見せてくれる?」
「階級証で良いですか」
「……なにこれ、おもちゃ?冷やかし?」
「上の欄に書いてあるのが階級で、その下が個体識別番」
「あのさあ、エイプリルフールは午前までだよ」

→失敗。「エイプリルフール」.「身分証」を学習。



地球人とコネクトは取れたものの、未だ円滑とはいえず。
引き続き調査と交渉を行う。以上で交信を終了。



お題 ―「エイプリルフール」

3/30/2026, 6:35:32 PM



「そ!そ!なーんで西コミューン出身のヤツってばあんな言い方しか出来んのだろう!」

ルヒはジョッキを片手に怒りを振りまいている。それを窘めるヤーカンと、ケラケラ笑い同調するヒューガ。そしてそれらをぼんやり眺める自分。

いつもの光景だ。だが幸せな事でもある。

小規模なギルドがダンジョンに挑むのは推奨されていない。大規模ギルド(または上位のギルド)にはポーションとお助け魔術師が付いてくるが、小規模ギルドはそうではないのだ。

そのせいか最近は小規模ギルドも少なくなっている。支援も無く、大手のギルドが都市に縄張りを張っている状況を鑑みれば、それはごく自然なことだろう。

だから、このギルドが何年も続いている事もメンバーが欠けていないことも、日常でありながらこの上なく幸せな事だ。

「あ、ちょっとお手洗い」

「言ってら」「どうせルヒはチビだよ…何が悪い……」

ルヒの複雑な情緒を横目に立ち上がり、トイレを探す。

この酒場はオークが多い。炭鉱が近いらしいとは聞いたが、オークが群れている様子を見たことが無い自分は少し驚いてしまった。

「ヒト族がこんな場末の酒場に来るなんてな……」
「しかも小人もエルフも連れて…」
「ギルドねぇ……」

単一種族が根を張っている街にありがちなのが、ヒト族に対する過激な偏見だ。こうやってひそひそ言われるたびに実感する。

ヒト族がオークやドワーフを農奴に据えたのは遠い昔の話だが、怒りは民話として受け継がれてゆくものだ。

そして、種族が入り混じるコミュニティにヒト族が居ると、支配的なヒト族とそれに隷属させられる他種族、という構図に見られるのもその民話が由来だ。

仕方がない話で、偏見に抗おうとするとかえって拗れる。
ビールを渡される時に怯えたような目をされる事も、トイレへの通路を通るだけで過剰に避けられる事も仕方がないことだ。

なんならルヒの方が不憫だ。小人は体格で軽視されがちだし。ヤーカンも名家のエルフとして何か思う事はあっただろうし。ヒューガは……換毛期の愚痴しか聞いた事がないが、何かはあるだろう。

「おい遅いぞ、ルヒが潰れた」

「君、トイレ長いよ。潰れるのわかってただろう」

「酔っぱらいの相手させて逃げようってやつか」

「違うって、こんな酒弱いなんて思ってないよ」

何気ないフリでやり過ごせばいい。
弱小ギルドと呼ばれても、支配的なヒト族として見られても、明日も皆でジョッキを交わせればそれでいい。



お題 ―「何気ないふり」

3/29/2026, 5:04:23 PM


地面を踏む音が湿っていて、そこで雨が降っていることに気がついた。
だが天気に構っていられるほど暇ではない。


市長の汚職を追い始めて何年経っただろうか。もうすべてが限界だ。帳簿や通信履歴を洗い、履歴が度々消されてもめげずに張り付き続けた。


もう持ち合わせの証拠でどうにかするしかないだろう。問い詰めても故意である事を証明できなかった。仕方ない、仕方ないんだ。


「待て!おい!」


失敗は鍵を閉め忘れた事と、追っ手に追われてすぐ逃げた事だ。そして、人が居ない夜中に活動していた事。


「撃つぞ!本気だからな……!」


もはや豪雨と形容されるべき雨音と稲光が、すべてを覆い隠していた。今更神に助けを乞う事は無いが、乞うた所で届かないだろう。そういう日だった。



パンッ



「はいカットー!」

「ありがとうございました〜」


今日は良い調子だった。監督にも褒められた。
この1週間の内で一番良い日と言ってもいい。それに、今日は大好きな雨の日だ。リズムの良い雨。

ああ、金曜日か、駅前のケーキ屋はやってるんだろうか。
ショートケーキでも買って帰ろう。DVD何枚か借りて映画パーティーとでも洒落込もうかな。



お題 ―「ハッピーエンド」

2/23/2026, 6:16:33 PM

友人の佐藤は惚れっぽい。

自分は高校からの付き合いだが、それでもわかるほど惚れっぽい人間だ。しかも割と対象が広い。
人・メダカ・バス停・花……などなど、人だろうが物だろうが関係なく、数ヶ月はその対象に夢中になってしまうようだ。

そして、また佐藤は何度目かの「運命の相手」に出会ってしまったそうだ。今日はそれ(その人?)を紹介してくれるらしい。メールで住所が届き、それをマップアプリに入力してみると……。

そこは廃病院だった。数十年前に医療ミスとその訴訟によって揉めていたらしい。どういうつもりなのだろうか?
廃病院でしか会えない人?(物?)って何なんだろう。
気が進まないが、もう腹をくくって会うしかない。

「ほら、挨拶してくれよ」

と、佐藤が指を差した先には何もいない。廃病院は薄暗く、不良が割ったであろうガラスの破片や誰も居ない受付カウンターがあるばかりだ。本当にどうしてしまったんだろうか。

「地縛霊の沙耶子さんだよ。享年は34歳だってさ、まあちょっと位年上でも良いだろ?これから年齢は縮まるばかりだしさ」

まさか、人とも物とも言えない奴に夢中だとは思わなかった。いやどちらかといえば人か。まあ……メダカに夢中だった事を考えれば、これは平均の人間寄りだ。

うん、放っておこう。幸せならそれでいいんだ。



お題 ―「love you」

2/22/2026, 6:47:04 PM

人魚の声帯は剥がれ、肉は削がれ、鱗はネックレスとして売られるようになった。「外の世界が見たい」と言い浅瀬へ出た家族の行方は、今も分からないままだ。

我々は歌を歌う。それは弔うためでも祈るためでも無く、呼吸や寝返りや瞬きのように、ただ意識せず繰り返すものだ。自己の連続性の証明であり、表現や楽しみではない。

我々は不老不死ではない。全てはヒトによる迷信なので、我々の肉を食べたところでどうなる訳でもない。

我々は尾鰭を持つ。だがそこに美しさや特異性を見出さない。尾鰭の柄や色合いで個を区別しないからだ。深く暗い海において、自己と他との間に境界を引く必要はない。

我々はヒトの王子を求めていないし、沈没しそうな船からヒトを救い出したりはしない。起こる全てに干渉しない。

ヒトは我々にとって太陽のようなものだ。
我々がイカロスだとするのなら。



お題 ―「太陽のような」

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