「0から9までの数字には風水的に意味があるんだよ」
思えば君には素質があった。小学生の頃から占いも風水もオカルトも、全てのブームは君が起こしていたから。
だから目の前の君が情報商材を売ろうとしてきたことに納得しているし、今更何も思わない。
でもそんなものに騙されると思っているなら、君のことを金輪際許さない。他に友達が居ないから、なんて理由で持ちかけた話ならもっと許さない。
君はずっと行け好かない奴だけど、そんな落ちぶれた奴じゃなかった。だから、まあ、何ていうか、そんな商材や打算抜きでなら、また会おうよ。
今度会う時はまた0から話そう。
数字の意味とかじゃなくて、君の話。
お題 ― 「0からの」
棺桶にいると、他者の涙か祈りを浴びる事しかできない。なので、蘇ってみることにした。
蘇ってみて感じたことは、人生よりゾンビ生の方が100倍は楽しいということだ。
ショッピングモールに立てこもる人間を追いかけたり、腐りゆく脚に防腐剤をかけてみたり、人としての生では得られない青春がゾンビにもあった。最高だ。
ゾンビ映画には、「人として死なせてやれ」とか言うセリフがあることが大半だ。
だが死に何があるというのだろうか?形を失っていくだけだ、死なんてものは。眠って目覚めないだけだ、死なんてものは。そこにあるだけだ、死なんてものは。
ああ、同情するよ人間には。こんなにも楽しい日々を知らずに生きているだなんて。死ぬ前より生きている今を知らないだなんて、なんて可哀想なんだ。
お題 ―「同情」
純血のエルフが書いた魔法書には需要がある。「雑種のエルフより魔力の質が高い」という迷信をいまだに信じている顧客が多いからだ。
自分が魔法書の執筆業を始めて何百年経っただろうか。正確には覚えていない。「こういう特殊な技術と根気が要る仕事は長命種がするもの」という風潮もあるようだ。
だから、「弟子にしてください!家事でも買い出しでも何でもやります」なんて言いながら家を訪ねてきた少女には驚かされた。
「何十年前の話ですか、もう」
「長命種からすると昨日のようなものなんだ」
「もっと長生きしてやりますよ」
「はは、楽しみにしてるよ」
「絶対師匠を超えてみせますから」
「無理だね、絶対に」
「来世も弟子入りしますから」
「迷惑」
この年になってまだ変化が楽しいだなんて、浮かれすぎているのだろうか。
すべてが枯れてゆくのを眺める事しか出来ない自分に、いい加減飽き飽きしていたというのに。
お題 ― 「枯葉」
薫お嬢様は紅茶がお気に入りらしい。最近は「ルフナティーが良いのよ」と言っている。
そんなこだわりを持っているのに、お嬢様は私に紅茶を淹れさせるのだ。それも頑なに。
私はプロではない。お嬢様が満足のいくような仕上がりには到底及んでいないだろう。それが毎日申し訳なくて仕方が無い。
「お嬢様、その……私でよろしいのですか」
「何が?」
「私が紅茶を淹れるのは、良いのですか」
「どういう意味、やりたくないって事かしら」
「いえ、私は元々家事や育児、その他雑用を想定して作られた型なので」
「それで?」
「その……不慣れです。お嬢様に満足していただけるか分かりません」
お嬢様は分かりやすくため息をつき、何かをつぶやいた。ああ、怒らせてしまっただろうか。こういう時のお嬢様は、御両親に似てとても怖い。
「貴方はね、確かに私の子守をするために買われたアンドロイドよ。でもね、もうそんなの必要ないの」
「家事をやらせようと思ったらそれに特化した型にさせればいいの。分かる?」
もはや私は劣化版で時代遅れな型番だ。もう私が必要とされるような時代ではないのだ。分かっていたはずなのに、お嬢様が淡々と指摘することでそれが事実になってしまう。
「だから……これは個人的な趣味よ」
「趣味?」
「……『紅茶がお気に入り』だと思ってるでしょ」
「違うんですか?」
「はあ……私のお気に入りは貴方よ。別にお菓子だってショッピングだって、何でもいいわ。貴方がそこにいるなら、それで良いわ」
お題 ―「お気に入り」
「誰よりも、誰よりも美しいものを見つけたんだ、見た目だけじゃない、生き様も泥臭いことを嫌がらない精神性も、すごく美しい。もちろんつぶらな瞳もかわいらしいと思っているよ。ああ、なんて美しいんだろう、水も滴る……まあ滴ってはないけど。なんだっていいさ、比べるのもおこがましいんだから」
佐藤が水槽のメダカに夢中になってから半年が経った。最初の頃はクラスメイトも気味悪がったり茶化したりしていたが、今はもはや誰も関わらない。
佐藤が繰り返す「誰よりも」という言葉は魚基準なのか人基準なのか、泥臭いとは比喩ではなくそのままの意味なのか、疑問は尽きないが、幸せそうで何よりだ。
お題 ―「誰よりも」