羽化

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3/8/2026, 8:55:40 AM

月夜

ベランダで涼しい夜風に当たる。
そこまで高くも低くもないマンションからの景色。
遠くの夜景、スーパーの看板がきらきらと光って見えた。
飛行機だってちかちか点滅しながら飛んでいる。
でも空は昼間とは違い、吸い込まれそうな黒。
そこにはぽつぽつと、ちいさな白い星が浮いていて。
……三つ。兄弟みたいに、綺麗に並んだ星がある。オリオン座ぐらいは私にだってわかった。
私は一日の終わりに、こうやってベランダから夜空を眺めるのが好きだった。
輝く夜景、飛行機、星……
それを、月光を浴びながら眺め……

……………月光?
あれ、月、つきは…どこいったんだ。

私は毎晩同じ時間にベランダに出る。
昨日までは真上にあったんだ、なのに見当たらない。
季節で位置が変わることは知っている。
でも…こんな風に消えるわけがない。一体いつから?
気になる。気になってしまう。
 いつもなら部屋に戻ったらすぐ布団に入る…
が、今日は寝間着でそのまま外へ飛び出した。
もしかしたら、建物に隠れて見えなかったかもしれない。そう考えて……

マンションの外に出た。
やはり、雲ひとつない。綺麗な星ばかり。
でも月はなかった。
段々と怖くなってきて駆け出して…近所の眺めがいいところを探した。
でも、公園からも、空き地からも、土手からも、どこからも見つからない。見当たらない。

夜道を走り、段々と息が切れてくる頃。蛾が張り付いた街灯に足元を照らされている、1人の人間を見た。
その人も、空を見ている。まさかと思い、話しかけようとする… けど、いやいや流石に不審者か…!?
と理性で止め、そっと通り過ぎようとした。すると…

「…あの、すみません…月……ありません、よね」

その人は、私に話しかけてきた。
「え、えぇ…」
「貴方も…さっき探していませんでしたか?
 どうして気づいたんですか?」
逆光で顔が見えない。けれど、どこか淡く光っているような気がした。
「私は…ベランダで夜景を眺めるのが趣味で。
 月がないって気づいてから、どうしても気になってしまって…はは、困りましたよ」
そう説明すると、彼女は大きくこくりと頷いた。
「ステキな趣味ですね!
 …月がない夜空って、どうです?」
と、空を見上げながら聞いてきた。
街灯の明かりが、彼女の横顔をぼんやり照らしている。
どう、ですか…か……難しい事を聞くな……
「月って、人にとって…大切なんでしょうか?」
「え?」
そう問われて、少し驚いてしまう。
「大事、というか……なんでしょうね」
私も空を見上げる。
「…やっぱり夜空には月がないと物足りないですよ。 
星だって、街灯だって私達を照らしますけど… 月光に照らされるのが、いちばん好きなので」
彼女は黙って聞いていた。
「そうですか… 良かった。」

「ところで、貴方は…」
ふと視線を戻すと、その人はもういなかった。

代わりに、空には月が満ちていた。

私をやさしい月光が照らす。 
そんな月夜だった。

3/7/2026, 8:47:39 AM


スペース取っときます(;;)
思いついたときに書く用……

3/6/2026, 9:10:52 AM

たまには


「ねえ、たまにはさ…
…毎日がんばってるんだから、どっか行かない?」

貴方は笑う。
それが、貴方の口癖だった。

「…だから、大丈夫だってば。」
そう私は、呆れた顔でそちらへと振り向く。
貴方はいつもそうだった。
私より苦労しているくせに、私より賢いくせに、毎日毎日へらへら笑っては私の心配をする。
私以外にも友達がたくさんいるくせに、私の元にばっかり来る。
そんな、まるで天使のような貴方が……

好きだった。どうしようもなく。

……私のそんな想いも知らず、貴方はいつも、私を外へと連れ出した。
二人きりで行った海も、
学校を抜け出して行った遊園地も、
どれも夢みたいで。
かけがえのない想い出で。


「…ねえ。たまにはさ…
 …現実のわたしにも、会ってあげたら?」


嫌だ。 嫌だ嫌だいやだ!
夢から醒めたら、私のことなんてすぐ忘れるくせに。

それでも、貴方はただ笑う。
目を見開く私なんて気にもせず、ただ、寂しそうに。

3/5/2026, 7:48:17 AM

大好きな君に




142通目のラブレターを書いた。
宛先は、もちろん君。

大好きな君へ。
「君の笑顔が、いつだって頭から離れない……」
書き綴ったのは、正統派な愛の言葉!
142通目のラブレターを、僕は君の机に入れた。
…次の日、返事はなかった。


大好きな君へ。君は、この星空より美しい…
「夜空を見上げる度、君もきっと…同じ空を見ている気がして…」
書き綴ったのは、くすぐったくなるロマンチックな言葉!
143通目のラブレターを、僕は君の靴箱に入れた。
…次の日、やっぱり返事はなかった。


素敵にさわやかな言葉で書いてみても、
可愛らしくポエムで書いてみても、
情熱的に俳句で書いてみても、
何回書いても返事はない。
君への愛は、こんなに、こんなに積もっているのに!
…でもね、僕は書き続けるよ。
何年でも。いつまででも。
ずっと、ずうっと。


花瓶と、細い花が置かれた 君の机。
その中を僕の手紙だけが満たしていった。

3/3/2026, 3:56:55 PM

「親愛なる妹へ。
 結論から言うと、私は未来からやってきたんだ。」


そんな書き出しから始まった、小さな手紙。
……3年前に死んだ姉からの、最後の言葉だった。

「いやあ、いつ言おうか迷ったんだけどさ。こんな形になっちゃってごめんね」

あっけらかんとした文章、やけに達筆な字。
それは間違いなく姉のものだ。
…毎日毎日、学校も家業も、上手くいっていたように見えたのに。
ある日突然、自室で……

「まぁ、私がいなくなっても…あんまり深く考えないでほしいんだ。何も、考えなしに死んだんじゃないし。」

姉は、私よりすごく頭が良かった。
運動や体力こそあんまりだったものの、周りや本人は、その賢さをすごく誇りに持っていた。
…姉は、頼りにされていた。期待されていた。
一家の跡継ぎとしても、四姉妹の長女としても、期待の若手としても。
姉は、私より綺麗で。
姉は、
姉は、
姉は。

どうして…


そんな考えばかりがぐるぐる働いては、遺体を見つけて以降、姉の自室へはこの3年間一度も入れていなかった。
葬式はとっくに終わった。母も父も、二人の妹も、姉の部屋の荷物整理に来ていた。
でも、机だけは。
それだけは、姉と一番仲の良かった私が見るべきだって…

「実はこの手紙はねぇ、お前にしか書いてないんだ。 次女の、お前にね。 あっ、もし他の人が読んでたらどうしよ……恥ずいな…」
「……とりあえずね。お前にだけは、伝えておこうと思ったんだよ」

……姉さんが死んだ理由が、わかる?
三年間。ずっと空白だったあの時間を。
知りたくもない、と思ったことだってある。でも。
でも……知りたい。原因があるなら、わたしは…

「…ただ、この世界の未来はね…やさしくなかった。それだけなんだ。 
…って言ったら、語弊があるけど…もし気になるなら、見に来てほしい。」

少し、へにょりとした字で書いてあった。

「実はさ、私の研究室に、すべて置いてあるんだ。
 パスワードキー、ここに書いとくよ。」

姉さんを見つけてね、とだけ添えて、キーと共に私の持っている手紙は終わっていた。
……やることは、ひとつ。



バスで一時間。
生前、ことある事に通っていた研究室……
いつも姉が作っていた、よくわからない機械の匂いすら懐かしい。
ふと顔を上げると、見覚えのない扉があった。
鉄で出来た、頑丈で…重たそうで……
…数字を打ち込める場所がある。
0303ーー私の誕生日を入力すると、扉は開いた。

「お見事! 流石、我が自慢の妹よ。」

…という書き出しからはじまる。
地下室。同じ日付のカレンダーが三枚。机に、『三回目』と刻まれている。
そんな中、また手紙は落ちていた。
……この部屋は、なんなのだろうか。

「ご褒美に、教えてあげる。姉さんの死んだ理由。」
「目の前に、ポッドがあるでしょう?」

手紙の通り、顔を上げると…3mほどある、管が沢山ついた白いポッドがあった。内側は曇っていて、中は見えない。かすかに、水の揺れる音がした。
初めて見るはずなのに、何故かその音が……酷く懐かしい。
これが、……なんだっていうの?


「実は……姉さんね、未来から来ただけじゃなくてさ。ここ数年をループしてるの。 
わたしが死ぬと、世界ごとリセットされる。…はず、なんだけど……
ふふ。そんなの、信じられないかな?
何があったかなんて、そんなには言えないんだけど…
でもね、中々酷いんだ。この先の未来は。
…で、死んだ理由……簡潔に言うとね。

姉さん、失敗しちゃった。
これで3回目。

ごめんね。次は絶対、成功させる。
大切な妹を……わたしが救ってみせるからさ。」


ループなんて、子供騙しだと思った。
でも…あの賢い姉の言うことだ。もし、本当だったら?
……いま、私が生きているのは… 姉に置いていかれた、ループとやらにあぶれてしまった、
「三回目の失敗」の残骸で。

未確定な、このあとを。
貴方が「やさしくない」と表現したこの世界に、起こるであろう悲劇を、わたしは…


ポッドの表面に映った私の顔が、
少しだけ、姉に似ていて…… 思わず、曇りを拭う。 



……姉が死んで3年。
ポッドの中には、まるで死んだばかりのような……

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