羽化

Open App

「親愛なる妹へ。
 結論から言うと、私は未来からやってきたんだ。」


そんな書き出しから始まった、小さな手紙。
……3年前に死んだ姉からの、最後の言葉だった。

「いやあ、いつ言おうか迷ったんだけどさ。こんな形になっちゃってごめんね」

あっけらかんとした文章、やけに達筆な字。
それは間違いなく姉のものだ。
…毎日毎日、学校も家業も、上手くいっていたように見えたのに。
ある日突然、自室で……

「まぁ、私がいなくなっても…あんまり深く考えないでほしいんだ。何も、考えなしに死んだんじゃないし。」

姉は、私よりすごく頭が良かった。
運動や体力こそあんまりだったものの、周りや本人は、その賢さをすごく誇りに持っていた。
…姉は、頼りにされていた。期待されていた。
一家の跡継ぎとしても、四姉妹の長女としても、期待の若手としても。
姉は、私より綺麗で。
姉は、
姉は、
姉は。

どうして…


そんな考えばかりがぐるぐる働いては、遺体を見つけて以降、姉の自室へはこの3年間一度も入れていなかった。
葬式はとっくに終わった。母も父も、二人の妹も、姉の部屋の荷物整理に来ていた。
でも、机だけは。
それだけは、姉と一番仲の良かった私が見るべきだって…

「実はこの手紙はねぇ、お前にしか書いてないんだ。 次女の、お前にね。 あっ、もし他の人が読んでたらどうしよ……恥ずいな…」
「……とりあえずね。お前にだけは、伝えておこうと思ったんだよ」

……姉さんが死んだ理由が、わかる?
三年間。ずっと空白だったあの時間を。
知りたくもない、と思ったことだってある。でも。
でも……知りたい。原因があるなら、わたしは…

「…ただ、この世界の未来はね…やさしくなかった。それだけなんだ。 
…って言ったら、語弊があるけど…もし気になるなら、見に来てほしい。」

少し、へにょりとした字で書いてあった。

「実はさ、私の研究室に、すべて置いてあるんだ。
 パスワードキー、ここに書いとくよ。」

姉さんを見つけてね、とだけ添えて、キーと共に私の持っている手紙は終わっていた。
……やることは、ひとつ。



バスで一時間。
生前、ことある事に通っていた研究室……
いつも姉が作っていた、よくわからない機械の匂いすら懐かしい。
ふと顔を上げると、見覚えのない扉があった。
鉄で出来た、頑丈で…重たそうで……
…数字を打ち込める場所がある。
0303ーー私の誕生日を入力すると、扉は開いた。

「お見事! 流石、我が自慢の妹よ。」

…という書き出しからはじまる。
地下室。同じ日付のカレンダーが三枚。机に、『三回目』と刻まれている。
そんな中、また手紙は落ちていた。
……この部屋は、なんなのだろうか。

「ご褒美に、教えてあげる。姉さんの死んだ理由。」
「目の前に、ポッドがあるでしょう?」

手紙の通り、顔を上げると…3mほどある、管が沢山ついた白いポッドがあった。内側は曇っていて、中は見えない。かすかに、水の揺れる音がした。
初めて見るはずなのに、何故かその音が……酷く懐かしい。
これが、……なんだっていうの?


「実は……姉さんね、未来から来ただけじゃなくてさ。ここ数年をループしてるの。 
わたしが死ぬと、世界ごとリセットされる。…はず、なんだけど……
ふふ。そんなの、信じられないかな?
何があったかなんて、そんなには言えないんだけど…
でもね、中々酷いんだ。この先の未来は。
…で、死んだ理由……簡潔に言うとね。

姉さん、失敗しちゃった。
これで3回目。

ごめんね。次は絶対、成功させる。
大切な妹を……わたしが救ってみせるからさ。」


ループなんて、子供騙しだと思った。
でも…あの賢い姉の言うことだ。もし、本当だったら?
……いま、私が生きているのは… 姉に置いていかれた、ループとやらにあぶれてしまった、
「三回目の失敗」の残骸で。

未確定な、このあとを。
貴方が「やさしくない」と表現したこの世界に、起こるであろう悲劇を、わたしは…


ポッドの表面に映った私の顔が、
少しだけ、姉に似ていて…… 思わず、曇りを拭う。 



……姉が死んで3年。
ポッドの中には、まるで死んだばかりのような……

3/3/2026, 3:56:55 PM