羽化

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3/22/2026, 9:38:36 AM

二人ぼっち


雨音が響く校舎。
ここには、貴方とわたし。
…たった二人だけ。

「…雨、止まないね」
ただ窓の外を眺める貴方の横顔が、とても綺麗で。

3/21/2026, 9:58:58 AM

夢が醒める前に




夢と現実の境目とは、なんだろうか。
どこからが夢で、どこまでが現実なんだろうか。

ひとは、しあわせな夢を見る。
睡眠というのは死に一番近いとされていた。
…永遠の眠りとはよく言ったものだ。

幸せな夢。ゆめ。ユメ。
脳がツギハギな記憶を見せているのか?
自分に都合のいい物語を紡いでいるのか?
材料は、記憶、想い。それとも。




私には、大切な友達がいた。
…あの子は、私には何も言わず、学校から…飛び降りてしまったけれど。 それでもきっと、友達だった。


…あの子の、将来の夢。
進路希望調査には、「土」と書いてあった。
将来成りたいものが、土か。…バカバカしい。願わなくとも、いずれそうなるだろうに。

温室のような暖かさの教室。
同じ制服の二十九名。
柔らかで眩しい光。
木目が並ぶ床。
乱雑に散らばった紙。

それらを踏みしめて、窓側の席から立つ。
…誰一人、私の方を見ない。私のことを気にしない。
みんな揃って教卓を見つめている。

椅子を机に戻しつつ、私も視線を前に戻した。
…黒板には、無数に行方不明者の張り紙があった。
いま、床に散らばっている紙も同じだ。
ゆっくりと、目を凝らす。
張り紙の中で笑っていたのは、あの子の顔だった。

ああ、夢か。

気づいた頃には、もう窓の外へと飛び出していた。
全く。不愉快な夢だ。
…私は明晰夢を見る方法だって、夢から逃げる方法だって熟知していた。独特な浮遊感に包まれる… 
これで、起きられるはずだ。
地面が近づいてくる。
地面が近づいてくる。

…ああ、目が醒める前に、あの子に謝らなきゃな。
私は君に…なんにも出来やしなかったからさ。





夢と現実の境目とは、なんだろうか。
どこからが夢で、どこまでが現実なんだろうか。

地面にぶつかる直前、そんなことを考えた。

3/19/2026, 3:19:10 PM

胸が高鳴る


こんなこと、初めてだ。
ああ、わたし。わたし!
今が人生でいちばん、どきどきしている。

胸が高鳴る。
目の前には、大好きなあなた。
真っ赤な床を一歩づつ、踏みしめて、近づく。

あなたはもう、脈がない。
わたしはこんなにも、どきどきしてるというのに。


…もう、起きてよ。悪かったってば!
…でもっ、あんなこと言ったあなたも悪いんだよっ。

放課後。誰もいない体育倉庫。すてきな夕暮れ。
「わたしと…っ、つきあって、ください!」
斜め45度。上目遣い。完璧!
心臓がうるさい。ばくばく、どきどき。
きっと、これからあなたとの…すてきな、すてきな…!

「……ごめん。」



…ああ、そういえば、胸の鼓動がうるさくってさ。
なんて言ったか、聞こえなかったなあ。

あなたに、最初で最後のハグをする。
あなたは、冷たい。


(これがほんとの、脈ナシってやつかな)


足を引き摺りながら、そんなことを考えた。
…脈がなかろうと、わたしの愛は変わらない。


この胸の鼓動だって、止まらないんだから!

3/19/2026, 9:48:15 AM

不条理



…この街は、変なルールがあった。

午前四時にオリーブオイルを塗ったグミを食べるな。
ガードレールの下を歩くな。
町外れの工場から出る煙を四分以上見るな。

いつもと変わらない通学路。 
道にある掲示板や電柱には、決まっていつも変なルールが書いてある。
学校からのプリント。スーパーのチラシもそうだ。
いつからそうなのか、どうしてそうなのか、
誰も知らない。…いや、誰も気にしていないのだ。
ぼくだけを除いて。

通学には、ハッカクジラを使うべし。
標識を四回撫でるな。
紅茶の鳴き声を聞くな。

みんなそのバカげたルールを守っているらしい。
…ぼくには、クジラなんて見えないが。

馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。ここ最近、そのルールのせいでマジメに生きる気力も湧かない。
前の席のヤツは、やけにとんがったボウシを被っている。…お陰で黒板が見えない。
どの先生も、ルールを破ったヤツがいないかいつも必死だ。 父さんも母さんもそう。 警察も、テレビの知らない人間共だってみんな、みんなそうだ。


……ルールを破ったら、どうなるんだ?


醤油差しの魚を逃がすな。
四丁目のカーブミラーを見るな。
時計の針を四本に増やすな。


気づいているのはぼくだけなんだ。
そう。ぼく、だけ…………

早朝、午前五時。
オリーブオイルと、グミを…………

3/16/2026, 1:30:24 PM

怖がり


怖い。 怖い。
暗いところ。迷子。知らない人。魚の小骨。
怖い、怖い、怖くって仕方がない。

……小学校に入学したばかりの頃だった。
階段の裏で泣きじゃくる私に、差し出された小さな手。


『あはは、キミは怖がりだなあ』


『…友達は?』
「…まだ、いない、の…」
『そっか… じゃあさ、ワタシと友達になってよ。
 キミが怖がりを卒業できるまで、見ててあげる。』

…それから、あなたはいつもわたしの手を引いた。

発表会だって、お祭りだってそう。
給食の魚を食べる時も、あなたは骨を取ってくれた。
いつでも一緒に、私の一歩先で……

絶対に見捨てずにいてくれる。
絶対に助けてくれる。
絶対に手を引いてくれる。
まるで、わたしだけのヒーローだ!

『…キミさー、怖がり治んないし…ワタシがいないとダメなんじゃない?』

卒業式の日、あなたがそんなことを聞いた。冗談ぽく笑ってはいたけど、わたし…私は、こくりと頷く。
「…うん」
『…あははー、ほんと?
 じゃあ、これからもずっと一緒に居てあげる』
そう差し出された手を、そっと握って繋いだ。
離れないように。見放されないように。

繋いでいた。はずだったのに。


中学に上がると、あなたには新しい友達がたくさん出来はじめた。 私には、あなたしかいなかったのに。
…そのうち私を、あなたは助けてくれなくなった。

恋人だの友達だの、いつも人間に囲まれている。
わたしの。
私だけのヒーローだったのに。


『何それ。 …ワタシいなくても生きなよ』

きっと話したら分かってくれると思った。
だからあなたを呼び出した、のに…揉めちゃって。

「でも、あなたが…ずっと一緒にって」
『それ小学生の時の話でしょ!?』
「で、でも…っ」
『…震えてるじゃん。いつもみたいにさ、ひとりで隅っこに蹲ってんのが似合ってるよ。 一生卒業できない、怖がりなんだから』

あなたはそう吐き、階段を降りようと踏み出した。
そう。卒業しなきゃいけないな。



怖い。
怖い、はずだったのに。

……血も。

階段の下で倒れているあなたも。
不思議と怖くなかった。 
震えも治まっていた。

私は、昔みたいに…そっと、あなたの手を握る。
「…………ねぇ」
…返事はない。
「……わたし」



「……怖がり、卒業できたみたい……」



暗い場所も、迷子も、知らない人も、魚の小骨も、
もう怖くなくなっていた。

…あのときみたいに。
あなたが階段の裏から、私の手を引いて、外へと連れ出したみたいに。

次はわたしが連れていこうね。
わたしは階段の裏まで、あなたの手を引いて……

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