羽化

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4/8/2026, 9:44:33 AM

沈む夕日


夕暮れが世界を真っ赤に染める。
空も、標識も、電線もゆらゆら揺れて、視界がやけに禍々しい。
カラスが同じ方向に二、三羽飛んでいた。葬式でもあるのかなあ、とか考えながら、足元の小石を蹴っ飛ばす。
からからと側溝の穴に吸い込まれていくソレをぼうっと見ていたら、突然鈍い痛みが走った。

……電柱に頭をぶつけてしまったらしい。
見られていないか気になって、なんとなく周りを見渡す。人はおろか、車すら走っていない。
……まだ痛い。視界がぐにゃぐにゃした。干からびたミミズがとぐろを巻いている。
ぶつけた所を押さえ、また俯きながら歩きだす。見慣れた世界は段々暗くなっていく。アスファルトには、消えかかった止まれの文字。十字路だ。

……帰り道って、どこだっけ?

4/4/2026, 11:56:20 AM

それでいい


引き出しを開けると、あなたに貰った物が出てくる。
画面をスクロールすると、あなたが流れてくる。
アルバムを見ると、あなたの写真で埋め尽くされる。
気がつけばここ数年で、あなたの存在というものは、ぼくに深く、深く、ふかく根を張っていった。
それは、あまりに想定外のことだった。

ぼくとあなたの関係は、相性が良いワケではない。
…かといってビジネスライクかといえばそうでもないし、家族として、友達として、恋愛的に好き…といった、よくある愛をかたどったモノでもないのだ。
お互い、他に大事なものがある。他に想う人がいる。
いざって時はたぶん、ぼくらは……

……でも、あなたが居なくなったその時、ぼくは引き出しの中をどうすればいいんだろう。
アルバムも、写真も、どう片付ければいいのか……

ああ、考えてもしょうがないけれど、ただただそんな事で思考を巡らせ続けちゃったりするんだ。
もしかしたら、これも一つの愛なのかもしれない。
この気持ちをなんていうのか、なんて知らないけど。

今はまだ、それでいい。

3/22/2026, 9:38:36 AM

二人ぼっち


雨音が響く校舎。
ここには、貴方とわたし。
…たった二人だけ。

「…雨、止まないね」
ただ窓の外を眺める貴方の横顔が、とても綺麗で。

3/21/2026, 9:58:58 AM

夢が醒める前に




夢と現実の境目とは、なんだろうか。
どこからが夢で、どこまでが現実なんだろうか。

ひとは、しあわせな夢を見る。
睡眠というのは死に一番近いとされていた。
…永遠の眠りとはよく言ったものだ。

幸せな夢。ゆめ。ユメ。
脳がツギハギな記憶を見せているのか?
自分に都合のいい物語を紡いでいるのか?
材料は、記憶、想い。それとも。




私には、大切な友達がいた。
…あの子は、私には何も言わず、学校から…飛び降りてしまったけれど。 それでもきっと、友達だった。


…あの子の、将来の夢。
進路希望調査には、「土」と書いてあった。
将来成りたいものが、土か。…バカバカしい。願わなくとも、いずれそうなるだろうに。

温室のような暖かさの教室。
同じ制服の二十九名。
柔らかで眩しい光。
木目が並ぶ床。
乱雑に散らばった紙。

それらを踏みしめて、窓側の席から立つ。
…誰一人、私の方を見ない。私のことを気にしない。
みんな揃って教卓を見つめている。

椅子を机に戻しつつ、私も視線を前に戻した。
…黒板には、無数に行方不明者の張り紙があった。
いま、床に散らばっている紙も同じだ。
ゆっくりと、目を凝らす。
張り紙の中で笑っていたのは、あの子の顔だった。

ああ、夢か。

気づいた頃には、もう窓の外へと飛び出していた。
全く。不愉快な夢だ。
…私は明晰夢を見る方法だって、夢から逃げる方法だって熟知していた。独特な浮遊感に包まれる… 
これで、起きられるはずだ。
地面が近づいてくる。
地面が近づいてくる。

…ああ、目が醒める前に、あの子に謝らなきゃな。
私は君に…なんにも出来やしなかったからさ。





夢と現実の境目とは、なんだろうか。
どこからが夢で、どこまでが現実なんだろうか。

地面にぶつかる直前、そんなことを考えた。

3/19/2026, 3:19:10 PM

胸が高鳴る


こんなこと、初めてだ。
ああ、わたし。わたし!
今が人生でいちばん、どきどきしている。

胸が高鳴る。
目の前には、大好きなあなた。
真っ赤な床を一歩づつ、踏みしめて、近づく。

あなたはもう、脈がない。
わたしはこんなにも、どきどきしてるというのに。


…もう、起きてよ。悪かったってば!
…でもっ、あんなこと言ったあなたも悪いんだよっ。

放課後。誰もいない体育倉庫。すてきな夕暮れ。
「わたしと…っ、つきあって、ください!」
斜め45度。上目遣い。完璧!
心臓がうるさい。ばくばく、どきどき。
きっと、これからあなたとの…すてきな、すてきな…!

「……ごめん。」



…ああ、そういえば、胸の鼓動がうるさくってさ。
なんて言ったか、聞こえなかったなあ。

あなたに、最初で最後のハグをする。
あなたは、冷たい。


(これがほんとの、脈ナシってやつかな)


足を引き摺りながら、そんなことを考えた。
…脈がなかろうと、わたしの愛は変わらない。


この胸の鼓動だって、止まらないんだから!

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