食欲、睡眠欲、性欲。
全てを満たした後に呑むワインは格別に美味しい。
順番で言えば、性欲、睡眠欲、食欲の順番なのだけれど、もはや今それは関係ない。
更に言えば、自身のタワーマンション100階からの夜景を見ながら呑むワインは増して美味しい。
これでもタワーマンションに住む為にだいぶと仕事に苦労してきたタイプなので、人々の働きを星に見立てて眺めてやる。
今日は赤が美味しい。
少しこの赤ワインにハマりすぎている。俺の血管にはこの赤ワインが流れていそうなほどにはハマっている。
あぁ、ついに無くなってしまった。
明日には自社ワイナリーに顔を出して貰ってくる予定だけれども、今日は少し感傷的だ。
まだ飲み足りない。
……、そうだ。
俺にはワインが流れているじゃないか。
気付くと辺りはワイン色で溢れていた。
意味も無く手首を舐めてみる。
あぁ、もう頑張りたくないなぁ。
夜景へと吸い込まれた。
#夜景
少しショック表現あり
ハッと気がつくと、俺はどこまでも続く花畑で寝転がっていた。
上半身を起こし、周りを見てもただ花畑が広がっているのみで、誰かがいる様子も無い。
取り敢えずタバコでも吸おうかとポッケを手探りで探すが、見あたらない。
そもそもポッケがないようだ。
不審に思って自身の格好を見ると、どうやらどこかの入院着を着ているようだった。
これまでの記憶を思い起こしてみるけれど入院をした記憶おろか、全ての記憶が思い出せないままだった。
宛もなくさ迷っていたが、どうやらここは夢の世界らしい、どこまでも花畑が続くのみ。
自信になにか変化がないか見回してみるけれど、なにも……あれ。
首元がとても痛い。何かに切られたような痛み。
思わず手を当てると、ぬらりとした感触が手に伝わる。
反射的に手のひらを覗けば、真っ赤に色がついた血液。
「っひ、」
これは自分のものなのだろうか。
すごく怖くなり、呼吸も怪しくなってしまった。
苦しい、首からはとめどなく血液が溢れ続ける。首元もナイフで切られたような痛みが続く。
跪いて口元を覆うけれど、何も変わりやしない。
視界が霞んできた。
足元に咲乱れる白いアネモネに、俺の血液が溢れ続け、赤く染っていく。
あぁ、思い出した。
俺は恋人に殺されたんだ。
アネモネの花言葉には、「見捨てられた」「恋の苦しみ」「見放された」などがある。
普段からのクズな生活から嫌気が差した恋人が、カッとなって、そう、首元、を。
もう力も出ない。前に倒れ込み、全身の力を抜く。
目の前には、沢山のアネモネと、1本の黒百合。
後悔しても、遅かったんだ。
黒百合の花言葉「復讐」「呪い」
#花畑
少しショック表現あり
注意
外に出る準備を終え、部屋を出る。
ふと空を見上げると、先程まで綿菓子の様に白くふわふわな雲が散らばった蒼い空はなくなり、今や墨をぶちまけたように曇り空が広がっている。
これは時期に雨が降るだろう。
それまでにあいつの部屋に着き、あいつの為の芸術を完成させなければならない。
車を使って付近まで向かい、そこから徒歩でその部屋へ向かった。
途中で曇り模様に負けず営業している花屋があった為、あいつに買っていってやれば喜ぶだろうかと、適当に花束を見繕ってもらう。
……なるほど、あんたはそこにその色を置くんだな。
職業病とも言えるソレを頭の中で考えながら、花束の完成を待つ。
出来上がったソレを受け取れば、気分はさながらプロポーズ。
なぁんて。今から会いに行くのは同性で、向こうは俺の事を親友だと思っている。
俺は……まぁ、吝かでは無いが、そんな感情もないやつと付き合えと言われても、それはこちらがしんどいのだ。
花屋を出てから5分と経たずに着いたその部屋は、俺は初めて立入る場所で。
ドアノックでドアを叩き、アイツが出て来るのをまつ。
『…久しぶりだな、元気にしてたか?』
「あぁ、お前こそ。やつれてるように見えるが。」
なんて事ない話を繰り広げながらリビングへ迎え入れられる。
リビングには真っ白で大きなキャンパスが一つ、それと沢山の絵の具。
『ところで、その花束はなんだ?まさか俺になんて、言わないよな?』
「まぁまぁ、こんな天気だってのに、頑張って営業してる花屋があったんだ。俺からじゃなくて、奥さんから貰ったって思って飾ってくれよ。」
勝手に絵の具を取りだし、直ぐに筆を手に取る。
気付くと、あいつは寝ていた。
目の前のソファに足を組んで、静かに。
あぁ、そうだ。これで完成するのだ、俺の芸術が。
パレットナイフを逆手に持ち、目の前に振り上げる。
ぐじゅり。
パレットナイフは本来切るものでは無い為、相当な力が必要だったけれど。
なんで、とか、いたい、とか、色んな事を苦しそうに囁くお前を見て、俺は初めてこんな高揚感を感じたよ。
今までで1番の力を振り絞り、心臓を一突きした。
それ以来お前はパタリと動かなくなった。
お前の血を使ってキャンパスに芸術を広げ、最後にお前をここに横たわらせる。
はは、はははは、は、完成した。いま、俺は芸術の完成を見たのだ。
諦めないものが、勝つのだ。
気付かぬ内に表情は 笑顔になっていた。
窓を見上げれば、空が泣いていた。
#空が泣く
『今、貴方に容疑が掛けられているわ。明日には警察がそっちに行くらしいの。
欺くには隣にあるであろう男を部屋から出さないと。』
君からのLINEで我に返った。
俺は被害者の身内であるとは言え、完全に関係の無い男だったはずなのに。
警察は鼻が利くらしい。
今隣に居るこの男はどうしようか。
この部屋は愛する君と俺との愛の巣だったはずなのに。
痕跡から血液からなにから綺麗さっぱり無くさないと。
手始めに切断だと切れ味の悪い鋸を手に取った時、通知音がした。
『ごめんなさいあなた。
私、警察と組むことにしたわ。今アパートの前にいるの。
きっと牢屋から出られることは無いけれど、地獄ではあたしを恨まないで?』
最後に見た君からのLINEは 私が愛した女に最も相応しく、最も憎たらしいものだった。
#君からのLINE
なんとなくショック表現あり?
この男は、直ぐに抵抗を辞め 俺に行為を辞めるよう説得を始めた。
この女児は、訳も分からず泣き叫んでいた。
この女は、女を使って俺の機嫌を取ろうとしたが直ぐに暴言を吐き出した。
このカップルは、最初こそ男が守ろうとしたが次第に男は女を差し出すようになった。
この男は、同性愛者のようで 初めこそ俺の顔が好みだと褒め称えていたが段々怖くなったらしく パートナーと連絡を取りたいと懇願していた。
この老婆は、おじいさんを置いてはいけないといいながら震えていた。
みんなみんな、抵抗した。
心では諦めていても身体が拒否をし 最後まで、命が燃え尽きるまで抗った。
あぁ、ニンゲンって面白い。
愉快愉快。
#命が燃え尽きるまで