「向かい合わせ」
「今回のアルゴスの行動は、どうみる?」
「一応、まとめてみました。」
「流石、アカデミー主席卒業だな」
「また、からかわないで下さいよ。それより、見てください。時間は昨晩のセレーネ時間で、って何やってんですか!」
「いいから、続けて」
そう言いながら先輩は、オレのデスクの前に向かい合わせになる位置まで自分の椅子を持ってきて座った。
「いいですか、あの時、へーリオスの活動がかなり活発になっていて、あのまま活動が激しくなってたらガイアへの影響が出てしまうところでした。」
「それは、また自転に影響が出るとこだったってことか、ってそれだけか?」
「それだけって!もしそうなってたら1年後のガイアへの常駐監視員配属がまた延期になるとこだったんですよ!」
「そういば君、志願してたんだったな」
「そうです!」
「ワタシにあたるなよ」
「すいません、つい…」
「何にせよ大事には至らなかったんだ、後はミテラ様とお偉方が解析してくれるさ」
「先輩は、いつも呑気ですね」
「そう見せてるんだよ」
ホントこの人は知り合った頃から謎だらけの人だよ、この間の『レディア』って人の事もはぐらかされたまんまだもんな…
そういえば博士とも親しそうだったよな
今度聞いてみるか…
「おい、なにブツクサ言ってる?もうそろそろ時間だぞ、引き継ぎちゃんとやっとけよ」
「え!先輩、椅子は?」
「あと、よろしくな」
「ちょ、ちょっと!」
引き止める間もなく出て行ってしまった。
今にみてろ、絶対、あの人の謎を暴いて見せるぞ!
ピピピッ
「おはようございまーす」
ヤバ!
「やるせない気持ち」
「どうだったんだ?適正検査の結果は」
「ふふっ せっかちね、まだよ」
「まだって、もうとっくに結果は出てるはずたろ!」
「またぁ そんな怖い顔…!!」「ふふふっ…」
「ふざけてないで、ちゃんと答えろよ」
「ふふっ、大丈夫ょあなたを…」
あぁいつもこうやって振り向きながら笑っていたな…
「なんだよ、」何が言いたかった?何を言おうとした?
「行くな!」
「やめてくれ!連れていくな!」
「離せ!カノジョを離せ!」
「連れていかないでくれ!頼む!」
「!!!!!」
「先輩!先輩!」「ドウジン室長!」
「…..」
「大丈夫ですか?かなりうなされてましたよ」
ナオヤに起こされ我に帰る。
「…アルゴス達は?」
「徐々に元の配置に戻りつつあります。」
「そうか」頭が重い、暫くこの夢は見なかったんだがな…カノジョに久々に対峙したせいか…
いつもこの夢を見た後はやるせない気持ちが何度も押し寄せる。
「ところで、『レディア』って誰ですか?」
「海へ」
「ところで何があった?」と頭の中で問う
「ウミへ」
「海?」
「ソウ、ウミへ、アノコタチヲウミヘ」声は聴こえないがワタシには言葉と感情が流れ込んでくる。
「ハヤク、ウミへ」
何か起ころうとしている事は、数年ぶりにワタシを呼び付けた時点でわかってはいた。
その時耳に直に声が飛び込んでくる。
「先輩!聞こえますか!」ナオヤが突然会話を遮る。
「どうした。」声に出して問う
「アルゴスが北と南の海域へ集中しだしました!」
「あぁ、」
「あぁって!早く戻って下さい!オレこんな事始めてで!」
「大丈夫だ、もうミテラ様は承知されてる」
「承知されてるって、先輩何処にいるんですか?なんでそんなことわかるんですか?とにかく早く戻ってくださいよ!」
声に出さずに解ったと答えたがナオヤには聞こえるはずもなく催促の言葉が煩く聞こえ続ける。
彼女に向き直り敢えて声に出して言う
「では失礼します。ミテラ様」一礼して足早に立去る。
背後では祈りのような感情がワタシの背中を押す。
アノコタチヲウミヘ
「裏返し」
ほんの数時間前、キミからの呼びかけがあった。
キミと対峙するのは何年ぶりだろうか
もうキミに触れることも、声を聴くことも叶わない。
キミからはワタシの頭の中に直接周波数を合わせて入ってくる。
「モウスグヨ」
「あぁ やっとだな」
「ナガカッタ?」
「いや、キミがそこに移ってからもワタシの中には常にキミを感じていたからそうでもなかったよ」
「ツヨガリナヒト、アイカワラズネ」
「キミこそ、全て解ってるくせに言わせるなよ」思わず声に出してしまった。
「ソコガヒテノカワイイトコロ」
「はぁ…ヒトでひとくくりか…」妙に寂しいという感情がこみ上げてくる。
まぁ、口にしてしまうと心の裏返しになってしまうのかもしれないなと思考の中で呟いてみたものの、これも詠まれてるんだろうなと気付く
キミが少し笑った気がした。
「鳥のように」
ピピピッ、背後でドアの施錠が解除される音がした。
この後の交代要員の先輩が入って来る。
「どうだ?アルゴスの様子は」
「変わりはないです。いつものように穏やかなものです。」
「そうか」
ここ数年は、毎回同じような会話が交わされるだけだった。
あちらの観測が始まってもうどのくらい経つのだったろうか、それはこちらにとっては、オレが生まれる前からの常識である。
アルゴスというのは、空から観測する言わば観測カメラのようなものだ
鳥のように自由に空を移動して観測をする。
但し、ただの観測カメラではなく、あちらの空に数億もの数を配置し、1機1機が独立したヒトの脳のようなコンピューターが内蔵されたカメラだ。よって、動植物の生息状況、地形や海の中の生態系まで僅かな変化も見逃さないようにされている。
全てのデータは、ミテラに集約、保存され解析される。
あと1年程で、あちらの常駐監視員が配属される事になっている。
勿論、オレは夢を叶える為に志願している。
だが、この事はカノジョにはまだ秘密にしてある。