空模様☁️
「そういえば、あれはどうなった?」
背中あわせに佇むカレに聞いてみた。
「ん?…アレって?…あぁ…」
上の空のカレはそのまま黙り込む
風が心地いいからまぁいっか、とアタシもそれ以上は深く聞かなかった。
それにしても、本当にこっちまで来ちゃうとはな…
1年前のカレのただの妄想話だと思っていた呟きが現実になるとは…
「オレの夢なんだよなぁ 本物の空の下で雲の影が大地に映ってさぁ、まるで空の模様を描いているみたいに見えるのをこの目で観てみたいんだよなぁ」
「何言ってんの、自分の顔鏡で見てみなさいよ。いくら夜勤明けでもそんな間抜け面でバカ言わないでよ」
「ヤダよ。オレ、鏡ってなんか怖いんだよ」とんちんかんな返事が返ってくる。
「はいはい。そんな事よりもうすぐ雨降る時間なんだから中入ってないと濡れるわよ」
カレは聞こえてないふりをしてテラスからまだ外を眺めている。
「ほら見なよ、あの子なんて嬉しそうにレインシューズ履いちゃってさ、でも何もこの時間帯に雨降らせなくてもいいのに」
何か言ってるけど無視。
アタシはひとりバタバタと朝の身支度を整える。
「あれ?今日出る日なんだ」
「そうよ。ちゃんと寝てよ。あ、その前にちゃんと食べてね」
「うん…」(夜勤明けの寝る前はあまり食物は入れたくないんだけどなぁ)
「ねぇ、聞いてる?」
やれやれ、雲行きが怪しくなってきたんでこの辺にしとくか
部屋に戻りながらカノジョに言った。
「大丈夫だよ。ありがとな」
『鏡』
『おはよう 疲れた顔してんね また変な夢でもみた?』
『ほら早く、ぼーと見つめてないで顔洗って、時間なくなるよ』
『そうそう、今日もちゃんと化けて、笑顔笑顔』
『大丈夫ょ、鼻毛出てないから』
『それより、時間、時間』
『お、ちゃんとよそ行きの顔になったね』
「おかぁさん、今日雨やからレインシューズ出しといて」
『いつまでも甘えてんじゃないわよ、それくらい自分ですれば?自由に動けるんだから』
『ちょっと、いつまで髪いじってんのよ、時間時間、遅刻するよ』
「いってきまーす」
「いってらっしゃい、気をつけや」
「ホンマ、幾つになったら自分のことちゃんとするんやろ」
『ほんとだね。でもそこがあの子の可愛いとこじゃん』
『それよりほら、おかぁさんも早く支度しなきゃ、パートに遅れるよ、そういうとこが親子だね』
「よし!」
『うんうん、まだまだ捨てたもんじゃないよ、キレイだよ』
「いってきまーす」
『いってらっしゃい』
『いいな、何処にでも行けて…』
『毎日繰り返しててつらくない?もし辛くなったら合わせ鏡にして一番奥のワタシに願ってごらん、いつでも変わってあげるから』
「いつまでも捨てられないもの」
小学4年生の頃、正座をさせられ父親に頭ごなしにしかれ、その後ろで全く庇おうともせずワタシを睨みつける母親。幼子心に、「あぁ、こいつらには何を言っても理解されなくて、世間体が一番大事なんだな」と思い、この親をあてにせず生きて行かなければと、決して自分はこんな親にはならないと心に誓った日の感情。
現在、もうすぐ孫が生まれようとしている年齢になっても、その日の事は鮮明に覚えている。
実際、その日からワタシは文字通り自立した気がする。反面教師で我が子にはそうならいないように接して来たつもりだが、果たしてどうだったのだろう。
「カエルの子はカエル」だったのだろうか
両親は、間もなく米寿を迎える。
「憎まれっ子世に憚る」とはよく言ったものだ。
この感情を持ち続けている限り、ワタシは一生、反抗期のままなのかもしれない。