はっさく

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7/16/2025, 2:47:54 PM


私は、学校の廊下を歩いている。

鬱陶しい蝉の声がいつもよりうるさく聞こえた。
この暑さのせいでより鬱陶しく聞こえるのだろう。

教室のドアの前を横切ると中で溢れたエアコンの冷気がぬるっと私の足を通り抜ける。

ジリジリとした、真昼の南中した太陽が窓から差し込む
私はそれを鬱陶しく思って、給食の分重くなった身体で
日差しを避ける。

窓の外は、いつもと違い静かだった。今日は暑すぎるから、中学生男子たちもふざける元気もないんだろう。
それにしても、暑すぎる。地球温暖化恐るべしだ。

私は学校の廊下を歩いている。

私は首をひねる。

そういえば私はどこへ向かっていたんだっけか。

クラスメイトと目的地は同じだ、近くにいるであろう
彼らに目的地を尋ねようと、振り返った。

だれもいない。

私はさっきから一度でも誰かとすれ違っただろうか。

蝉の声がどんどん大きくなってくる。

それに反して、人の声は一切聞こえてこない。

学校に人の声がしないというのは…

私はぎゅっと手を握りしめた。

私はきっと夢を見ているんだ。
そう、自分に言い聞かせる。

ミーン。ミーンミンミンミーン。
蝉の声が耳元で聞こえている気がする。

夢?これが?こんなにもリアルな感覚が?

窓から差し込んでくるジリジリとした日差しも、蝉の声も全てが夢?

そんなわけがない。

そんなわけがないんだ! きっと、誰かいる。

耐えきれなくなって走り出した。
無意識に自分の教室にたどり着いたみたいだった。

教室はエアコンで冷え込んでいて、肌寒かった。

誰かしらいるはずの教室には誰一人いなかった。

耳元の蝉の声は止まない。

机の上には、教科書やノート、シャーペンが乗っかっているのに、人の痕跡はあるのに、人だけが存在しない。

ミーン。ミンミンミンミーン。
自分の頭の中で反響しているような蝉の声。

私は恐怖に駆られて、うずくまり叫び声を上げた。

椅子のガタッという音で、顔を上げた。

数学教師の居眠りしている生徒に向けた落胆した表情が目に飛び込んできた。

やっぱり夢か。
私は、深く息を吐いて、先生に会釈をした。
先生は不服そうな顔をして授業に戻った。

チャイムがなって、授業が終わる。

次の授業はどうやら、理科室らしい。
急いで荷物をまとめ、友だちと一緒に理科室に向かう。

私は学校の廊下を歩いている。

鬱陶しい蝉の声がいつもよりうるさく聞こえた。
この暑さのせいでより鬱陶しく聞こえるのだろう。

『真昼の夢』

7/9/2025, 8:30:59 AM

「あの日の景色」

鼻をくすぐる潮の匂い。

水平線に隠れようとする紅色の太陽。

キラキラと反射する光。

波の音。

足の甲を撫でるまだ冷たい水。

砂浜に打ち上がっている小舟。

砂にまみれた空っぽの貝殻。

黒い羽根を広げて空を飛ぶカラス。

黄色いプラスチックのシャベル。

海が気に入って持ってちゃった砂のおしろ。

階段に座り込むカップル。

びしょびしょで重たいズボン。

氷のように冷たい足。

頬をつたう日焼け止め。

ぽつんと取り残された二つの靴。

並ぶ二つの影。

手渡されたびしょびしょのタオル。

片足で立って足を拭いているアイツ。

小突いた私。

バランスをくづすアイツ。

反撃してくるアイツ。

砂まみれの私たち。

この景色の 中に居たかった。

この景色と 共に生きる。







6/5/2025, 3:14:56 PM

水たまりに映る空

「いってきまーす!」
私はいつもと同じように弾け飛ぶように家のドアから出発した。
バッと勢いよく黄色の傘を開いて、準備バッチリだ!
そして、いつも通り大きく足を上げて行こう!
そう思って足を一歩踏み出した。

おかしいぞ、足も気分も上がらない。

背中の赤いランドセルが重いからだ。きっと。
私はそう思って無理やり笑顔を作って足を進めた。

学校が近づけば近づくほどに無理やり押し込めたイヤな感じが喉に迫り上がってくる。水たまりも曇り空を写していてイヤな感じだ。

昨日のあの子の言葉がまた、頭の中で聞こえる。
「正直、アイツってさー。うざくない?
 いちいちうちらのことチクってさー。
 なんで児童カイチョーなんかやってんの?」
私はその言葉が耳に飛び込んできた瞬間、氷の上に立っているようなすっごく冷たい感じがした。

私は急いで「行きたくない」という気持ちを飲み込んだ。

ふぅ、危ない危ない。

教室についてランドセルから荷物を出している途中、
遅刻ギリギリで飛び込んできたあの子が見えた。
急いで下を向いて、拳を握りしめる。

もう、ここまできたなら、最後まで学校にー。

そう思っていたのに。

アイツが仲良しグループと話して笑っている。
「あのこが…」
「え、それマジw」
もしかして私のことかな…?
どうしよ。怖い。今日はもうここに居たくない。

ずっと思ってたことが心の中ではっきりと像を結んだ。

「よし、帰ろう。」

私は手っ取り早く仮病を使って、とっとこ早退した。

1人で学校を出た時には雨がすっかり止んでいて、雲はどこかへ消えていた。
水たまりには、青空が映って綺麗だった。

私は水たまりに大きくジャンプをして飛び込んだ!





5/27/2025, 1:11:29 PM

これで最後

相棒の靴紐をぎゅっと締める

見慣れた赤いトラックを見据える

レーンに入る

On your mark

前を向く

Set

会場全体が静まり返る

パンッ

私は走り出した


これで最後

紅白の幕で彩られたいつもと違う体育館

せんせーの泣き声

隣から聞こえてくる泣き声

何度も聴いたあの子のピアノ

後ろから聞こえてくるアイツの歌声

体育館に歌が満ちてゆく


私たちはこれから何度これで最後を繰り返すんだろう?

5/24/2025, 5:38:25 PM



頭上の電線から小鳥の歌声が聞こえる。
高く跳ねた音から小鳥がごきげんなのが伝わってくる。
小鳥の仲間もさえずって、一つの合唱を奏でている。

名前も知らない鳥を見上げて私はため息をついた。
そして、翼と美しい声を持つ彼らを睨みつけた。
彼らに嫉妬してしまう私が1番嫌いだー。
私は唇を噛み締め、アスファルトを見つめた。

今日こそ上手くー。

「あぁ!もう全然ダメ!あんた、先走りすぎ!」
最後の文化祭まであと3日。じめっと暑い部室。いつまで経っても上手くならない一年生ボーカル。
全部先輩の怒号が飛ぶのに納得する理由だ。
私は目が潤んだのを先輩にバレないようにギュッと目に力を込める。

何度も何度も指摘され繰り返す。

喉がもうー。私は喉を押さえた。

先輩はそんな私をみて、ため息をついた。
「もういい、今日は終わり。早く帰れ。」
先輩が持っている鮮やかな青色のエレキギターが私の罪悪感を掻き立てた。

電車に揺られ、楽譜を眺める。ぐちゃぐちゃと書き込まれたポイントが何の意味もない気がした。
ぐしゃという音も気にせず、私は楽譜を無理にリュックに詰め込んだ。そして、私のまぶたが落ちていった。

いつもの駅の名前が呼ばれぐわんと身体がゆすられ反射的に私は席を立った。

電車を降りたら、空を埋め尽くす厚い雲が私を責めているようにみえた。整備された道を歩きながら私はいつもと違うものに気づいた。

小鳥がアスファルトで風に飛ばされまいと小さな足で踏ん張っていた。
頬をなでるくらいの風が弱った小鳥に吹き付けると小鳥はぐわんと揺れる。それが、ほっとけなかった。私はコンビニのビニール袋を手にはめて小鳥を優しく包んだ。

家に帰って、段ボールにありったけの毛布を詰めて冬場使っていた湯たんぽをひきづり出して、暖かくした。
小鳥は目をつむっていた。
私はスマホを駆使して小鳥の世話をし続けた。
夜が明ける頃に小鳥はそのつぶらな目を開けた。そうして軽く身震いをし「ピ」と鳴いた。
すっかり回復した小鳥をベランダから外へ離した。小鳥はその小さな翼で大空へ歌いながら飛び出していった。

その歌は今まで聴いたどんな歌より綺麗だった。

「あぁ、負けてらんないな。」
口からふっとそんな言葉が漏れた。

今日は、今日からは上手く歌う。

私は手を握りしめた。



「ありがとうございました!!」
青いエレキギターがキラリとスポットライトに反射した。先輩はキラキラした目で、観客を見ていた。
私もまっすぐ前を向いた。
拍手が私たちの歌にいつまでも降り注いだ。

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