歌
頭上の電線から小鳥の歌声が聞こえる。
高く跳ねた音から小鳥がごきげんなのが伝わってくる。
小鳥の仲間もさえずって、一つの合唱を奏でている。
名前も知らない鳥を見上げて私はため息をついた。
そして、翼と美しい声を持つ彼らを睨みつけた。
彼らに嫉妬してしまう私が1番嫌いだー。
私は唇を噛み締め、アスファルトを見つめた。
今日こそ上手くー。
「あぁ!もう全然ダメ!あんた、先走りすぎ!」
最後の文化祭まであと3日。じめっと暑い部室。いつまで経っても上手くならない一年生ボーカル。
全部先輩の怒号が飛ぶのに納得する理由だ。
私は目が潤んだのを先輩にバレないようにギュッと目に力を込める。
何度も何度も指摘され繰り返す。
喉がもうー。私は喉を押さえた。
先輩はそんな私をみて、ため息をついた。
「もういい、今日は終わり。早く帰れ。」
先輩が持っている鮮やかな青色のエレキギターが私の罪悪感を掻き立てた。
電車に揺られ、楽譜を眺める。ぐちゃぐちゃと書き込まれたポイントが何の意味もない気がした。
ぐしゃという音も気にせず、私は楽譜を無理にリュックに詰め込んだ。そして、私のまぶたが落ちていった。
いつもの駅の名前が呼ばれぐわんと身体がゆすられ反射的に私は席を立った。
電車を降りたら、空を埋め尽くす厚い雲が私を責めているようにみえた。整備された道を歩きながら私はいつもと違うものに気づいた。
小鳥がアスファルトで風に飛ばされまいと小さな足で踏ん張っていた。
頬をなでるくらいの風が弱った小鳥に吹き付けると小鳥はぐわんと揺れる。それが、ほっとけなかった。私はコンビニのビニール袋を手にはめて小鳥を優しく包んだ。
家に帰って、段ボールにありったけの毛布を詰めて冬場使っていた湯たんぽをひきづり出して、暖かくした。
小鳥は目をつむっていた。
私はスマホを駆使して小鳥の世話をし続けた。
夜が明ける頃に小鳥はそのつぶらな目を開けた。そうして軽く身震いをし「ピ」と鳴いた。
すっかり回復した小鳥をベランダから外へ離した。小鳥はその小さな翼で大空へ歌いながら飛び出していった。
その歌は今まで聴いたどんな歌より綺麗だった。
「あぁ、負けてらんないな。」
口からふっとそんな言葉が漏れた。
今日は、今日からは上手く歌う。
私は手を握りしめた。
「ありがとうございました!!」
青いエレキギターがキラリとスポットライトに反射した。先輩はキラキラした目で、観客を見ていた。
私もまっすぐ前を向いた。
拍手が私たちの歌にいつまでも降り注いだ。
5/24/2025, 5:38:25 PM