Noir

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7/24/2024, 9:39:25 AM

花咲いて

「やった!アサガオ咲いた!」「えっ!まって!私のも咲いてる!」「俺も!」「私も!」
そんな声が私の背後からする。
私が見つめているのは自分の名前が書かれている植木鉢、尚花は咲いていない。
(なんで…なんで…なんで……咲いてくれないの?)
(なにが悪かったの??水のやり方?量?土?)
そんな疑問が私の思考を支配する。
隣の植木鉢はキレイな紫色の花を咲かせている。
立ち上がって周りをみても皆咲いている。
ただ、自分のだけが咲いてくれない。

その日は一日中気分が晴れなかった。
友達と喋っていても、給食を食べていても、好きな教科の授業を受けていても…私の思考のどこかには(なんで咲かないのだろうか。)という疑問があった。誰よりも頑張ってお世話をしていたのに…。
そんな頑張りが踏みにじられた様な気がして余計に気分が悪くなった。

1人で歩く下校道。同じランドセルを背負った人たちの楽しそうな声でさえ、嫌気が差した。
そこら辺にさいている花に関しては踏み潰してやりたい気分になった。ここまで自分が感傷的になったのは初めてで自分の気持ち、思考でさえ、制御出来なかった。早く1人になりたかった。もう、刺激しないで欲しかった。そんなとき目に入った満開のアサガオ。私は我慢の限界だった。
目から溢れてきた涙。気づかれたくなくて、自分が泣いてると思いたくなくて走る。ぼやけた視界で、ただ見慣れた足元だけを目印に、周りの目も気にせず走る、走る。
1秒でも早く目的の場所に行きたくて……
肩で息をしながら顔を上げた先には自分の家の表札とその横には門扉があった。家までの小道を歩く。
ふと視界に入ったのは満開のアサガオ!!ではなく、満開の紫陽花。嫌気はしなかった。走っていたおかげで気持ちに整理がついたのだろうか。そんな時気づいた。あの時の感情は嫉妬と悔しさだったのだろうと。ただ羨ましかったのだけなんだろうと。
いままでのひどい思い込みにおもわず自嘲してしまう。
1番世話をしていた私の花が1番に咲かなかったことへの嫉妬。みんなでどんな色の花が咲いたのか聞きあっているこの空気感。そして、その中で私1人だけ話に入れないの孤立感。
それは、悔しさだったんだと今なら思う。

気分が晴れた。それにこたえるように天気も快晴。朝イチ学校にいってアサガオに話しかける。私の日課だ。
「昨日はごめんね。」「いつでもいいから花咲いてほしいな。」「まぁ咲かなくてもいいけどね。」
意味が分からない上から目線の言葉に自然と笑みが溢れる。

7/8/2024, 9:30:40 AM

七夕

七夕に願ってなんになるんだ?そう僕は思う。
織姫と彦星が会うだけで願いが叶うなんて意味が分からん。再会と願いが叶うは全くの別物だ。
なのに町中には笹と短冊、ペンが置かれていた。
(こんな行事をしてなんになんだろうか。)
そんな事を立ち止まって考えている間にもたくさんの人が書きにくる。
ある人は親子で、ある人は1人で、ある人は友達と、書いていた。当たり前のように小さい子から大人までいた。真剣に書いている人や楽しく書いてる人、中にはとても初々しい2人までいた。
皆、書いたあとは満足気でどこか笑顔だった。
(こんなの願っても意味がないって大人は気づいていないのか?)疑いと呆れが混ざった感情にただ考えることしか出来なかった。

7/3/2024, 1:08:18 PM

この道の先に

この道の先にはどんな景色が広がっているだろか…

僕の人生を語ると毎度と言っていいほどその言葉が出てくる。
聞いてる人からすると大袈裟だと思ってしまうかもしれない。だが、嘘はついていない。れっきとした事実である。逆にここにわくわくや期待、どきどきを感じないと、この仕事は続けられないと俺は思う。
この不気味な道の先に待ち受けているのはどんな道、景色だろうか……。
考えるだけで少年心をくすぐられてたまらない。
壮大な海かな…芝生かな…それともお花畑かな…
もしかしたら、もっと不気味な森かな…?
いつもそんな事を思いながら足を進める。
1歩1歩答えに近づくたびに期待値は少しずつ上昇してしまう。最後の1歩までくると視線を下に下げて、期待に胸を踊らせながら、前をむく。
その一瞬にしてくる膨大な感情が(この職業についてよかった)と(これだから冒険者は止められない)と叫んでいる。
よく「Sランクまでいくにはどうすればいいですか?」と聞かれる。その答えがこんな少年じみていたらどんな反応をされるのだろか……?
想像するだけで笑ってしまう。


さぁ、この道の先にどんな景色が広がっているのだろうか。また新しい冒険の始まりだ!

7/1/2024, 9:57:12 AM

赤い糸

「運命って素敵だよねー」
「はぁ、運命?」
「そう!運命!めっちゃ素敵じゃない?」
「そう?そうでもなくない?」
「いやいや、そんなことないって!」
「はいはい、そーですか」
彼女のロマンチストぶりには慣れていたはずだがここまでとは…

彼女とは小学生の頃から一緒で現在(高校生)も仲良くしている。彼女と私は正反対の性格だ。これは先ほどの会話からも読み取れることだ。
真反対だからこそここまで仲良くできたのだろうか……?時々そう思う。

(運命…ね…)
私の性格上運命などというものは基本的に信じない。だが、そんな私にも、1つだけ思いあたる節がある。それは、彼女との出逢いだ。
小学生の頃は冷めきったこの性格のせいでいじめにあっていた。そんなとき助けてくれたのが彼女だ。
彼女の明るい性格は当時冷めきっていた私の心に温もりをあたえてくれた。
彼女と出逢わなかったらもっと冷めた人間になっていたことだろう。彼女には感謝しかない。

その出逢いを運命と呼ぶなら、運命だけは信じてやってもいいと思っている。

fin

6/30/2024, 7:23:57 AM

入道雲

今日はこの季節を象徴するかのような晴れ。
そんな季節とは裏腹に僕のいるところは偽造の悲しみで満ち溢れていた。
鼻をすする音、涙をハンカチで拭う音、悲しいと言い合う人、すべてが嘘で、居るだけで吐き気がするこの空間。
(お前らは何もしらないくせに………)
僕は親族ではない。幼なじみで恋人でもあった。
唯一信頼できる関係性、周りからは親友同士だと思われていた。

世間ではまだ受け入れられていない同性カップルになり、いざこざもたくさんあった。
だが、その時間でさえ、僕たちにとっては嬉しい時間だった。ただ、貴方といられるだけで嬉しかった。だって、相手には病気があったから。
そんなに長くはなかったから。
だから、1分でも長く、1秒でも長く一緒にいたかった。嬉しいことに相手も同じ考えで、僕たちはいつも一緒にいた。

最近では病の進行も緩やかだったのに、なんで、
将来は同棲しようね。って、未来を語り合ったのになんで、なんで、なんで、
「先にいっちまったんだよ。」そんな本心が口から出た。誰も僕のことは気にかけない。そりゃそうだ。
向こうの家系からしたら、病弱が亡くなっただけ。
むしろ、メリットなんだろう。
香水臭いおばさんたちが遠くで雑談。おじさんたちは軽く商談の話。
ほら、誰もあいつを気にかけたことがない。
昔からそうだった。あいつを気にかけるやつなんていなかった。

空を見上げればいまだ成長している入道雲。
そんな入道雲は僕の悲しみと怒りを表しているようだった。

fin

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