星を追いかけて
あの子のようになりたい。あの子のように歌って踊れるようになりたい…。あの人のような優しい人に…あの人のような皆に愛されるような人に…。
皆、誰しも自分にはないものを求める。明るさ、優しさ、話し方、作法などなど求めるものなど様々だ。だが、そんなに思いとは裏腹に世の中の人は、その人を見て吸収しようとしない。努力をしない。だから今も私を見て目を輝かせているだけ。努力もなにもせず、自分たちとはすむ世界が違うなどほざいて何もしない。だから変われないんだ。
ドームのセンターステージで作り笑顔をしてファンの子に手を振りながらこんなことをおもってしまう。いつからこんな思考をするようになったんだろうか。子どもの頃は素直さを先生から褒められるほどだったのに今では、作り笑顔で人々の要望に答える日々。憧れてたあの子もこんな気持ちだったのだろうか…憧れるって苦しいな…こんな事を考えてしまう自分はきっとアイドル失格なんだろうな…そんな事をおもうと自分を嘲笑したくなってしまう。
数年前からアイドル活動を初め、瞬く間に人気になってしまった私。アイドルの私は「明るさ」や「優しさ」「所作」や「話し方」など様々な所を褒められる。
でも、そのすべてが人から吸収したものだと知ったらどんな事を言われるのだろうか…どんな顔をされるのだろうか…。人から明るさを褒められるたび、優しさを褒められるたび、所作を褒められるたび、人との距離の詰め方を褒められるたび、私は観察していたあの子を思い出す。全部私じゃない。全部あの子のものだ。私は奪っただけだ。吸収しただけだ。そんな思いが駆け巡って、褒められるたびに苦しくなる。笑顔を保てているのか怖くなるほどに。
あの子は星のようだった。星そのものだとも思ったことがあった。あの子のようになりたかった。あの子という星をとにかく追いかけた。がむしゃらに追いかけて…いつしか見えなくなった。前に星がない
世界は暗く感じた。苦しい日々だった。いつしか私は悟った。今度は私が星になる番だと。
私は分かった。「私をはやく追いこしてね」は挑戦状ではないことを。私は分かった。「私をはやく追いこしてね」はあの子の紛れもない本心だということを。
私は今日も生意気なうつりにみえる後輩に言う。
「いつか、私を追いこしてね」
7/22/2025, 10:10:53 AM