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花咲いて

「やった!アサガオ咲いた!」「えっ!まって!私のも咲いてる!」「俺も!」「私も!」
そんな声が私の背後からする。
私が見つめているのは自分の名前が書かれている植木鉢、尚花は咲いていない。
(なんで…なんで…なんで……咲いてくれないの?)
(なにが悪かったの??水のやり方?量?土?)
そんな疑問が私の思考を支配する。
隣の植木鉢はキレイな紫色の花を咲かせている。
立ち上がって周りをみても皆咲いている。
ただ、自分のだけが咲いてくれない。

その日は一日中気分が晴れなかった。
友達と喋っていても、給食を食べていても、好きな教科の授業を受けていても…私の思考のどこかには(なんで咲かないのだろうか。)という疑問があった。誰よりも頑張ってお世話をしていたのに…。
そんな頑張りが踏みにじられた様な気がして余計に気分が悪くなった。

1人で歩く下校道。同じランドセルを背負った人たちの楽しそうな声でさえ、嫌気が差した。
そこら辺にさいている花に関しては踏み潰してやりたい気分になった。ここまで自分が感傷的になったのは初めてで自分の気持ち、思考でさえ、制御出来なかった。早く1人になりたかった。もう、刺激しないで欲しかった。そんなとき目に入った満開のアサガオ。私は我慢の限界だった。
目から溢れてきた涙。気づかれたくなくて、自分が泣いてると思いたくなくて走る。ぼやけた視界で、ただ見慣れた足元だけを目印に、周りの目も気にせず走る、走る。
1秒でも早く目的の場所に行きたくて……
肩で息をしながら顔を上げた先には自分の家の表札とその横には門扉があった。家までの小道を歩く。
ふと視界に入ったのは満開のアサガオ!!ではなく、満開の紫陽花。嫌気はしなかった。走っていたおかげで気持ちに整理がついたのだろうか。そんな時気づいた。あの時の感情は嫉妬と悔しさだったのだろうと。ただ羨ましかったのだけなんだろうと。
いままでのひどい思い込みにおもわず自嘲してしまう。
1番世話をしていた私の花が1番に咲かなかったことへの嫉妬。みんなでどんな色の花が咲いたのか聞きあっているこの空気感。そして、その中で私1人だけ話に入れないの孤立感。
それは、悔しさだったんだと今なら思う。

気分が晴れた。それにこたえるように天気も快晴。朝イチ学校にいってアサガオに話しかける。私の日課だ。
「昨日はごめんね。」「いつでもいいから花咲いてほしいな。」「まぁ咲かなくてもいいけどね。」
意味が分からない上から目線の言葉に自然と笑みが溢れる。

7/24/2024, 9:39:25 AM