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4/18/2023, 1:23:28 PM

 めがさめる。
 あたまはなんだかふわふわしていて、ねたままてんじょうをみあげていた。でもしばらくみていたらあきちゃったから、べっとからおきあがってみた。
 ここはどこだろう?まわりをみわたしたら、ちかくのてーぶるにしらないおにいさんがすわっていたので、こえをかけてみることにした。
「だれですか?」
 そうすると、おにいさんはこちらをみてとってもびっくりしていた。そのまましばらくかたまっているので、なんでだろうっておもっていたときに、こんどはおにいさんのほうがはなしかけてきた。
「…別に名前はないよ。あなたの知り合いだったってだけ覚えてくれれば大丈夫」
 こんなしりあいのひといたかなあ。むかし旅をしたときにでも知り合った人かな。いや、そもそも昔の私は、
「ッ!!」
 いたい。あたまがいたい。ないふでもささったようないたみにいっしゅんおそわれた。おもわずうずくまったわたしにおにいさんはたちあがってあわてたようすでこちらにちかづきながら、
「深く考えないで、あなたは記憶を無くしてしまっているから。昔の事を思い出そうとするときっとそうして頭痛が起きてしまうんだ」とはやくちでしゃべっていた。
 きおくをなくした、らしい。どういうことかはよくわかんない。でもそのあとになまえとかねんれいとかきかれたけどそれもよくわかんなかったから、きっとそういうことをいってるのかもしれない。このことをおにいさんにいったらなんだかかなしそうなかおをしていたけど。
 そんなことをしてるうちにちょっときづいたことがあった。めがさめたときからすこしへんだなあっておもってたから、きいてみることにした。
 「なんで、おにいさんもこのへやも、ぜんぶはいいろをしているの?」



 目覚めたとき、あなたは何もかもを失ってしまっていた。自分の過去の記憶も、名前も、そして僕のことも、全て。でも、それだけだったなら、もう一度、まだやり直すことはできると思ったのに。
 あなたは、世界の色すらも無くしてしまった。別に美しいものが特別大好きという人ではなかったけれど、それでも、あの瞳にもう2度と感情豊かな色彩の世界を映す事はなくなった。ああ、壊れてしまった。それを知って、僕は2度とやり直す事すらもできないことに気づいてしまった。もう元には戻れないのだ。戻れなかったのだ。
 気づけば涙が頬を伝っていた。ただただ悲しくて、辛くて、思わず膝をついて、嗚咽をあげて泣いた。そんな僕を不思議そうに、似合わない純粋無垢な表情を浮かべて、あなたはただ見つめていた。

4/16/2023, 5:31:50 AM

 ニンゲンの伝達手段はここ数百年のうちに大きく発展した。家から一歩も出なくとも星の裏側の相手に一瞬でメッセージを送る事は容易であるし、なんなら文章ではなく肉声での会話すら可能となっている。

 素晴らしい技術ですね、と褒めてやりたいところだが、それでも届けられない言葉とやらがあるそうだ。一体どういう事なのか。
 言語の壁だろうか。しかし、翻訳の技術自体も向上しているものだから、意味が伝わらない、なんて事はないはずですけれど。
 それなら、電波が届かないのか。いや、それこそ先程星の裏側まで届くと述べたのは自分でしたね。整備されていない自然の中、という意味なら分かるが、それもあくまで必要が無いからケーブルだのを引いていないわけであって、ニンゲンの技術水準的な意味であれば不可能な事では無いはず。
 やはりよくわからない。連絡先を知らないのかしら、なんて考えて、いやいやそんな馬鹿な話であるかと思い直す。非常に不思議な話だ。

 その後、そうした謎の言葉のことを指す、届かぬ想い、という一つの呼称を知った。
 届かぬというのはそのままの意味でしょうけど。想い、ですか。確かニンゲンの思っていること、とかそういった意味を指す言葉の一つであったはず。でもそれでもやっぱり届けられない道理がない。伝える手段があるのだから、出来ない筈がない。そもそも、伝えたい事があればすぐに伝えられる、その為に技術も発展したんでしょうに。

 そうしてウンウン唸る日々、ある時閃いた。もしかすると、死んだニンゲンに対する想いとやらのことを指すかもしれない。なんだァ、そういうことでしたか、と納得したのも束の間、どうやらこの言葉は生きている人間にも適用されるという事を知り、やっぱりわからなくなった。エェー、どうして。そう叫びたくなった。伝えたいと思うなら伝えるのだから、その条件は流石に有り得ないだろう。本当に不思議なことである。

 ううん、やっぱり理解が難しいですね、ニンゲン。

4/15/2023, 1:44:42 AM

 聞こえていますでしょうか。エエ、私でございます。貴方様の忠実な僕でございます。
 おお、我らが神よ。貴方様にこの声が届いているかどうか、誠に残念ながら私には確認する術がございません。しかしどうかお聞きでございますれば、この哀れな一人の人間の懺悔を聞き届けてくださいませ。

 私は比較的裕福と呼べる家に生まれました。両親が熱心な読書家でありまして、そこには非常に大量の本がまるで小規模の図書館のように連なるほどでございました。かく言う私にもその趣味が遺伝したのか、両親に負けじ劣らず様々な分野の本をひたすらに読み漁っておりました。
 幸いなことに私は頭の出来が良い方であった様で、どんなに難しい内容であろうと内容を理解し、記憶する事が出来たのでした。そんな私を両親は神童と持て囃し、都会の大学に進学させていただいたのです。

 その時点で私には二つの夢がございました。一つは純粋なる知的好奇心、もっと色んな事を学びたいという欲でございます。
 しかし二つ目、こちらの方が私にとってはより重要でした。私は、私自身が不遜にも、貴方様の存在の正しさを証明したかったのです。
 非常に悲しい事に、貴方様の事を信じない者、別の存在を神様だと崇める見当違い甚だしき者というものがこの世には数多くのさばっております。私はそういった人間に負けたくはなかった。いえ、違いますね。正しき神を信仰する私がどうして不敬なる者どもに負ける道理がございましょうか。
 貴方様にとっては迷惑な試みであったのやもしれません。ですがこれが過去の私にとっての信仰心の証明だったのです。これしか持ち合わせていなかったのです。

 大学に進学してからというものの、家の図書館など比にならないほどにそれはそれは多くのことを学ぶことが出来ました。様々な学問分野に手を出してはその手の一流にも比肩するほどまで学び尽くし、新たな成果すらを出す私に対し、ヤレ万能だ、天才だと持て囃す声がございました。それ自体は別に良かったのです。元より私にとって貴方様の存在が全てであって、他の人間の事はどうでも良かったのです。

 しかし、それでも看過できない事態になったのは、私が大学を卒業し、そのまま研究者となってしばらく月日が経った時でした。破竹の勢いで様々な研究成果を生み出していた私に対し、まるで神様のようだと宣う者が現れたのです。こんな不敬な事がございましょうか。神は貴方様一人であり、ましてや私など、どうしてここまで人は節目になれるものかと思っておりました。
 ですが、そうした私の考えとは裏腹に1人、また2人と私の事を現代の現人神の様に考える者が増えていきました。到底許せる事ではございませんでしたから、やめる様にも訴えたのですが、ああ、人間1人とはなんたる無力なのでしょうか、その勢いが収まる事はなかったのです。

 私の夢は貴方様の存在の証明、私という人間の存在を用いてそれを成し遂げたかっただけでした。しかし、私のことを神様などと宣う人間は止まりません。ついに我慢の限界になった私は全てを投げ出して、この懺悔室に漸く辿り着いたのです。

 お願いいたします、神様。私はずっと自己中心的な人間でございました。不遜にも貴方様の役に立ちたいなどと愚かな願いを抱き、そして貴方様に使える僕に過ぎない一人間でありながら、他の人間に神と呼ばれてしまった事。そして今この懺悔の中でさえ、貴方様の手で、私を罰していただきたいとすら考えているのです。ああ、不敬なる私を殺してください。どうか、どうか。いや、貴方様の手を煩わせるなどと、許せない自分もいるのです。
 もう自分でも何をすればいいのか分からないのです。私はどうしたらいいのでしょうか。どうすれば良かったのでしょうか。どうか教えてください。ああ。

 どうして何も仰ってくれないのですか、神様。

4/12/2023, 1:05:39 PM

 聞くことには、人間サイズの生物が空を飛ぶために必要となる翼の大きさは、15mにも及ぶという。そこからさらに翼を支える筋肉や骨格などを考えると、人間が自力で空を飛ぶことは不可能なのだろう。
 だが、御伽話の中ではこじんまりとした可愛らしい白い羽が生えた人間が、天使だなんだと華麗に飛び回っている。それを見て、空を自由に飛びたいという夢を目を輝かせて語る子供にそんな事を伝える程、私は空気の読めない人間ではないつもりだ。
 では、かの友人は?彼女は子供ではない。何せ共にランドセルを背負って歩いた頃からの仲である。私のような人間ですら大人なのだから、彼女も大人に決まっている。大人は人間が空を飛べないことを知っている。

「飛べるとも」

 だのに彼女はおかしな事を言った。私よりも頭も良くて、なんなら高校の時に生物学の成績も私に勝っていて、現実が見えてないなんて言われたこともなさそうな、あの子が。

「鳥人間コンテストの話じゃあないよ?滑空するだけだなんて飛ぶって言わないもの。私達人類は地に足を付けて生きているけれど、でもいつかこの大地からも縛られない時が来る。いつか人間は遥か遠く空すらも開拓していくのでしょう。」

 正直何を言ってるのか全然分からなかった。国語の成績だって良かったくせに、全然話すの下手くそじゃん、まるで教祖みたいな喋り方で格好つけて。
 そう、それからずっと分からなかった、あの時の言葉。理解もしないまま記憶の深く底で眠っていた。つい今までは。

 1人用の小さめのテレビ。そこには膨大な量の煙を撒き散らして天へと舞い上がる円錐形の影。お昼のワイドショーはスタジオで事の解説を始めた。ある星への人類初の有人星間飛行。次にテレビは宇宙服を着た笑顔の女性を映し出した。とても見覚えのある顔。
 あの言葉の後、言っていた一言。それが私の頭で再生される。

「私はね、遠いソラへ飛び立ちたいんだ。」