ニンゲンの伝達手段はここ数百年のうちに大きく発展した。家から一歩も出なくとも星の裏側の相手に一瞬でメッセージを送る事は容易であるし、なんなら文章ではなく肉声での会話すら可能となっている。
素晴らしい技術ですね、と褒めてやりたいところだが、それでも届けられない言葉とやらがあるそうだ。一体どういう事なのか。
言語の壁だろうか。しかし、翻訳の技術自体も向上しているものだから、意味が伝わらない、なんて事はないはずですけれど。
それなら、電波が届かないのか。いや、それこそ先程星の裏側まで届くと述べたのは自分でしたね。整備されていない自然の中、という意味なら分かるが、それもあくまで必要が無いからケーブルだのを引いていないわけであって、ニンゲンの技術水準的な意味であれば不可能な事では無いはず。
やはりよくわからない。連絡先を知らないのかしら、なんて考えて、いやいやそんな馬鹿な話であるかと思い直す。非常に不思議な話だ。
その後、そうした謎の言葉のことを指す、届かぬ想い、という一つの呼称を知った。
届かぬというのはそのままの意味でしょうけど。想い、ですか。確かニンゲンの思っていること、とかそういった意味を指す言葉の一つであったはず。でもそれでもやっぱり届けられない道理がない。伝える手段があるのだから、出来ない筈がない。そもそも、伝えたい事があればすぐに伝えられる、その為に技術も発展したんでしょうに。
そうしてウンウン唸る日々、ある時閃いた。もしかすると、死んだニンゲンに対する想いとやらのことを指すかもしれない。なんだァ、そういうことでしたか、と納得したのも束の間、どうやらこの言葉は生きている人間にも適用されるという事を知り、やっぱりわからなくなった。エェー、どうして。そう叫びたくなった。伝えたいと思うなら伝えるのだから、その条件は流石に有り得ないだろう。本当に不思議なことである。
ううん、やっぱり理解が難しいですね、ニンゲン。
4/16/2023, 5:31:50 AM