聞くことには、人間サイズの生物が空を飛ぶために必要となる翼の大きさは、15mにも及ぶという。そこからさらに翼を支える筋肉や骨格などを考えると、人間が自力で空を飛ぶことは不可能なのだろう。
だが、御伽話の中ではこじんまりとした可愛らしい白い羽が生えた人間が、天使だなんだと華麗に飛び回っている。それを見て、空を自由に飛びたいという夢を目を輝かせて語る子供にそんな事を伝える程、私は空気の読めない人間ではないつもりだ。
では、かの友人は?彼女は子供ではない。何せ共にランドセルを背負って歩いた頃からの仲である。私のような人間ですら大人なのだから、彼女も大人に決まっている。大人は人間が空を飛べないことを知っている。
「飛べるとも」
だのに彼女はおかしな事を言った。私よりも頭も良くて、なんなら高校の時に生物学の成績も私に勝っていて、現実が見えてないなんて言われたこともなさそうな、あの子が。
「鳥人間コンテストの話じゃあないよ?滑空するだけだなんて飛ぶって言わないもの。私達人類は地に足を付けて生きているけれど、でもいつかこの大地からも縛られない時が来る。いつか人間は遥か遠く空すらも開拓していくのでしょう。」
正直何を言ってるのか全然分からなかった。国語の成績だって良かったくせに、全然話すの下手くそじゃん、まるで教祖みたいな喋り方で格好つけて。
そう、それからずっと分からなかった、あの時の言葉。理解もしないまま記憶の深く底で眠っていた。つい今までは。
1人用の小さめのテレビ。そこには膨大な量の煙を撒き散らして天へと舞い上がる円錐形の影。お昼のワイドショーはスタジオで事の解説を始めた。ある星への人類初の有人星間飛行。次にテレビは宇宙服を着た笑顔の女性を映し出した。とても見覚えのある顔。
あの言葉の後、言っていた一言。それが私の頭で再生される。
「私はね、遠いソラへ飛び立ちたいんだ。」
4/12/2023, 1:05:39 PM