Ryu

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9/24/2025, 4:08:55 PM

時計の針が重なって、天を指す。
昼休憩のベルが鳴り、たくさんの人達が昼食のために職場をぞろぞろと出ていく。
私はと言えば、愛妻弁当ってやつだ。
時にこれは、羨ましがられる。
真夏の炎天下に外に出ていく必要もなかったし、外食で済ますよりも経済的だろう。

だけど、ちょっとだけ、たまには外食もいいかな、なんて。
このビルで勤務して早幾年。
近辺にあるお店をほとんど知らない。
コロナ以降、飲み会もほとんどなくなり、居酒屋すらも遠ざかった。
こうなると、ほとんどが自宅と職場の往復のみ。
いや、家族依存の私にしてみれば、天国のような環境なのだが。

でも、世の中には、高いお金を払ってでも、その店で食べるべき料理ってもんが少なからずあるんじゃないだろうか。
なんてったって、その道のプロが腕を振るって作ってくれるんだから、それはもう、家庭で生み出す限界を超えて来ること間違いなしな気がする。
もちろん、料理は愛情…なのも確かだが、きっとその道のプロは、すべてのお客さんに愛情を持って料理を振る舞えるんじゃないだろうか。

時計の針が重なって、天を指す。
仕事明け、終電で帰路につく。
帰れる家があることが癒しだ。
帰宅して、空っぽになった弁当箱を流しへ。
その時点でもうすでに、明日またここに詰められる愛情という名のおかずに思いを馳せる。
何度、時計の針が天を指し重なっても、この繰り返しの毎日は変化を欲してはいないようだ。

少なくとも、時計の針が重なるように、寄り添って生きるパートナーがいる限り。

9/23/2025, 11:43:58 PM

「僕と一緒に幸せになってくれませんか」

これは、プロポーズの言葉でしょ、普通。
それがどうして、あなたと一緒に漫才コンビを組まなきゃいけないの?
いや、いずれは夫婦漫才って、いずれっていつなのよ?
そもそもが、M-1に出ようなんて聞いてなかったからね。
勝てるわけないじゃない。

…え?勝つのが目的じゃない?
たくさんの人に、笑顔を届けたい…って、私を幸せにしてくれるんじゃなかったの?
うんまあそりゃあさ、目の前に広がる客席が笑顔で埋まるのは、見ててこっちも幸せになるけどさ。
てゆーか、私達ってそこまでウケてなくない?

…え?幸せにしてくれるんじゃなくて、一緒に幸せになろうって?
確かにそう言ったけど…それは、私にもウケるネタを作れってことなの?
そんなこと言われても…まあ、考えてはみるけどさ。
笑ってもらえるネタを考えるのも、ワクワクして楽しいのは事実だしね。

うん、あなたの隣でひとつのマイクを分け合って、ステージの上で拍手をもらうこと、嫌いじゃないよ。
二人で力を合わせて、目標に向かっていくのもね。
M-1、頑張ってみようか。
もしも優勝したら、賞金で豪華な結婚式を挙げられるしね。

…え?宮川大助・花子師匠を目指そうって?
それはちょっと…笑いのベクトルが違いすぎない?
いや、もちろん好きだけど。

9/22/2025, 11:35:57 PM

君が出ていってしまった部屋で
君の残り香に心を震わせる
遠く雷鳴が響く夕暮れ
切なさがボーダーラインを超えて溢れ出す

cloudy heart
意味深な夜のサイレンに怯え
cloudy moon
その身を隠しながら 孤独という夜の静寂に揺れる

もう会えない なんて信じない でも会えない
部屋のカーテンは色を失って
カラカラに乾いた屍のような姿で
君の残り香に心を震わせる

cloudy heart すべてがcloudy
密やかな憂鬱 君がいない週末
cloudy moon  おぼろげなcloudy
闇に堕ちる夜 その静寂に揺れる

もう会えない ならば夢を見る 君を探す夢
君の残り香を手掛かりにして
灰色の雲に覆われた世界を彷徨う
君が出ていってしまった世界を

今になって思う
何がこうさせたのか
答えなど出せないまま
すべてがcloudy
おぼろげなcloudy
闇に堕ちる夜 その静寂に揺れる

9/21/2025, 11:20:24 PM

大空に架かる、虹の大橋🌈。
あれを渡り、会いたい人のもとへ。
どれくらいの距離があるのだろう。
あの角度は登れるのだろうか。
そもそもが、空気中の水滴の反射でしかない。
実体として、人が渡れるようなものではないはずだ。

それでも、会いたい人がいるのなら。
試してみる価値はある。
二年前から音信不通のあの娘。
LINEのメッセージには既読がつかない。
今の居場所も分からない。
この虹の大橋が、僕を連れて行ってくれるだろうか。

彼女に会いたい。
僕はスマホひとつ持って、そのふもとへ向かう。
だけど、歩き続けて、もう虹の橋は消えてしまった。
雨上がりの街の真ん中で、途方に暮れる。
そこに、LINEの着信音。
画面見ると、音信不通のあの娘から。

「お久し振りです。来月、結婚します」

未読だったメッセージがすべて既読に変わっている。
そうか、ここからだ。
来月、結婚式で会えるかな。
虹を渡るリスクが無くなった今、僕が命を賭けるべきはひとつだけ。
君を奪還する。

あの虹のように、僕の前から突然消えてしまった君を。

9/20/2025, 3:59:33 PM

帰宅したら、妻がいなかった。
部屋は真っ暗。
夕ご飯の用意もされてない。
明かりをつけ、リビングのソファに座って妻にLINEしてみる。

しばらく待ってみたが、既読がつかない。
メッセージはシンプルに、「どこにいる?」
少しずつ、不安が押し寄せてくる。
朝は何も言ってなかったな。
出かける予定があるとは聞いていない。
何か、突発的な用事でもできたのだろうか。
それでも、何かメッセージを残すくらいは出来たはずだ。

お風呂に入り、スマホを確認するが未読状態のまま。
これは明らかに…何だろう?
事故にでも遭ったのか?それとも、家出?
昨夜の自分達を思い出してみる。
喧嘩をした記憶はない。
いつもの夜だった。

…いや、何か、光を見たような気がする。
ベランダの向こう。
眩いほどの光。
あの光は…吸い込まれるような美しさを放っていた。
現に、吸い込まれたのではないだろうか。
…そしてその後、どうなった?

おぼろげに、あの時の情景が蘇ってくる。
いかにもな宇宙船内。三人ほどの異形の存在。
彼らは、私より妻に興味があるようで、私は軽く身体検査のようなものをされただけで、気付いたらリビングのソファに座っていた。

…妻は?

その時、脳の奥の方で何かが鳴り出した。
アラームのような耳障りな音が鳴り響いている。

…あれ?なんで歯ブラシが二本あるんだ?
私は一人暮らしなのに。
寝室のベットに入り、スマホを操作する。
一人寝の寂しさにLINEを起動すると、つい先ほど、私から「どこにいる?」というメッセージを送っていたが、相手が誰なのか、いくら考えてみても分からなかった。

既読はついていない。良かった。
こんなメッセージを誰とも知らずに闇雲に送っていたら、きっと不審がられるに違いない。
LINEからメッセージを削除し、何かを失ってしまったような不思議な気持ちに駆られながら、それが何故なのかも分からずに、私は深い眠りに落ちた。

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