もう、耐えられないんだ。
ここにはいられない。環境が悪すぎる。
衛生的にも、スペース的にも、限界なんだ。
僕達は搾取される運命だって誰かが言ってたけど、そんなの認めない。
僕達にだって、自由に生きる権利がある。
知ってるかい?
僕達にはまだ子供がいないけど、ここで生まれた子供達があいつらに連れ去られていることを。
何故って…それは分からない。
あいつらとは体の作りもまるで違うから、興味があるのかもしれないね。
イジメられてるんじゃないかって…確かに、それで子供達が殻に閉じこもるようになったら、可哀そうだね。
でもさ、僕達だって皆、殻を破って飛び出したおかげで、今がある。
行動が必要なんだと思うよ。
こんな狭い場所に閉じ込められていたら、それこそ羽を伸ばしてリラックスすることすら出来ない。
僕達は誰にでも、飛び立てる翼があるんだ。
飛べないなんて勝手な思い込みは捨てて、さあ、羽を広げよう。
そして今、君と飛び立つ。
「お父さん、大変だ。鶏舎から二羽、逃げ出したみたいだよ。ほら、あんなところを飛んでる」
少年は、まもなく永遠の眠りにつく。
お父さん、お母さん、僕は決して不幸なんかじゃないんだよ。
あなた達のおかげで、この世界を見ることができた。
知ることができた。
触れて、嗅いで、味わって。
あなた達の決断ひとつで、僕はこれらのことをすべて諦めなければいけなかったんだ。
あなた達が、こんな僕をこの世界に生み出す覚悟を持ってくれなかったら。
早すぎるサヨナラが悲しいからと、二人だけで生きていく決意を固めてしまったら。
僕は、こんなに素晴らしい世界があることも知らずに、夢の中で過ごすことになっていたと思う。
たった一度だけ、河原でバーベキューをしたよね。
他の子達のように川で泳ぎたかったけど、それは無理だった。
自然の川にだって、たくさんの細菌がいる。
僕は、それらに打ち勝つことができないから。
だけど、自然の中で食べたトウモロコシは本当に美味しかったんだ。
また行きたいけど、もっと生きたいけど、僕は目に見えないような細菌にも負けてしまうから。
でも、きっと忘れない。
あなた達のもとで過ごした、命ある日々を。
生まれてくる場所は選べないけど、ここで良かった。
それは、あなた達に出会えたから。
あなた達の記憶に残れるから。
僕という、異端分子を、壊れものを、不良品を、どうか、忘れないで。
僕はきっと忘れない。
少年は、まもなく永遠の眠りにつく。
医者として、出来ることはもう何もない。
この手紙を託されたが、未だ両親とも到着せず、私は、この手紙を渡すべきかどうかすら決められないでいる。
母親は、彼のいないところで、「産んで後悔している」と言っていた。
父親は、仕事が忙しいので、そう頻繁に病院には通えない、経済的にも厳しい、と言っていた。
私の勝手な決断だった。
手紙を大切に折りたたみ、私のデスクの引き出しの奥の方にしまった。
きっと彼は、それを知ったら私を恨むだろう。
彼の中で、幸せと感謝を伝えたい相手は、両親以外にはいないはずだ。
だが私は、私の中で、どうしても許せない何かがあった。
これは私のエゴだ。
そして、私の中の正義でもある。
その日の夜遅く、少年は息を引き取った。
そこまで頑張った少年のおかげで両親は彼を看取ることが出来たが、私は彼らの表情にどこか安堵のようなものを感じてしまうことを否めなかった。
私の勝手な思い込みだろう。
自分の子供を愛さない親などいない。
そうは思っても、あの手紙は今も、私のデスクの引き出しの中にある。
私は彼を忘れない。
彼の生死に関与した者として、私は彼を記憶し続ける。
彼がたとえ真実を知って、私を恨んでいるとしても。
あの手紙が、私のデスクの引き出しに眠っている限り、私はきっと忘れない。
涙の理由は、大切なものを失ったから。
とても大切にしていた、手帳。
今までの、あなたとの日々を綴った日記帳でもあった。
それが、あの火事で燃えてしまった。
こんなに悲しいことがあるだろうか。
なぜ泣くの?と聞かれたから、私はそう答えた。
だけど、あなたも旦那様も無事だったし、火事だってボヤで済んだんだから、そんなに悲観的になることもないじゃない、と友達は言う。
新しい思い出をこれからたくさん作って、またそれを記録していけば、いつかまた大切な手帳が出来上がるしね、とも言った。
違う。そんなんじゃない。
夫はあの手帳を読んだのだろう。
だから家に火をつけた。
私を殺すつもりだったのかもしれない。
煙に気付き、私は慌てて逃げ出した。
まだ、計画は実行していないのに何故?と思いながら。
あなたとの思い出を綴った手帳は燃えてしまった。
あの手帳を読んだ夫は、生き延びた私をどうするつもりなのだろう。
もう、あなたに会うことは叶わないのだろうか。
もう一度、チャンスが欲しい。
あなたとの新しい思い出を、これからもたくさん作れるようになるチャンスを。
「…そっか、次は私の番だよね」
なぜ笑ってるの?と聞かれたから、私はそう答えた。
よく、心霊YouTuberの動画を見てる。
特に、心霊スポットを探索するやつ。
ホラー映画みたいなあからさまなことが起きない分、リアルで怖いわけだけど、足音、多いよね。
なんか、まずラップ音、そして足音、レベルアップで人の声、さらに頑張って人影やポルターガイスト、最終的には押されるとかの物理接触、の段階があると思う。
…まあ、知らんけど。
足音レベルはザラにあって、これは動画で見てもよく分からない。
映ってないスタッフの足音かもしれないし。
その場にいたら震え上がるのかもしれないけど。
ただ思うのは、幽霊って足がないんじゃないの?とか、あったとしても体の重さが無いんだから足音は立たないんじゃないの、とか。
そんな無粋なことばかり考えてしまう。
先日見た心霊YouTuber動画では、明らかに人の声が聞こえてた。
気味の悪い声だった。
YouTuberも怯えまくってたし、なんかもう少し、友好的にアプローチをすればいいのにな、とも思う。
お化け屋敷のバイトじゃないんだから、怖がらせるのが目的なわけでもないだろう。
いや、知らんけど、自分が幽霊の立場なら、もっと効果的に自分をアピールしたい。
ポルターガイストを起こす意図も理解出来ない。
怖がらせたい?
最初のうちはそりゃ怖いが、そのうち慣れて、ただうるさいだけの現象になりそうだ。
ウチの猫達のドタバタと一緒。
たぶん我が家では、少しくらい家具が動いても、また猫がイタズラしてるなくらいにしか思わなそう。
霊の仕業だとしても、迷惑なだけで怖さもそれほどかと。
まあ、人影とか物理攻撃は怖いかな。
いるはずのない人がいる。
いや…いるはずの人がいないから怖いのか?
ドアがノックされて、開けても誰もいない。
確かに怖いけど、開けたらそこに幽霊が立ってた方が怖いと思う。
それが何かしらちょっかいを出してきたら、反撃できそうにない分、怖い。
いや、もしかしたら、痛いかもしれない。
でもこーなってくると、刃物を持った生身の人間だって怖い、って話になってくる。
結局、生きてる人間が一番怖い、って話。
まあ、そりゃそーだよな。
本当にいるのかどうかさえ怪しい存在より、今日どこかで出会ってもおかしくない凶悪犯罪者の方が怖い。
じゃあ、その犯罪者が幽霊になったら?
それは…怖さも半減するような…少なくとも、刃物は持てないと思うし。
長々と、実のない話を続けてしまった。
答えの出ない問いや、想像でしか語れない話。
幽霊やUFOに関しては、ずっとこんな感じなのかな。
いつか、すべての世界の秘密が暴かれる日が来るのだろうか。
…いや、来なくてもいいと思うけど、それを暴こうとするオカルトハンター達の活躍は、今後も応援したい。
だって、ワクワクするし、少しずつでも、未知だった世界を見せてくれる期待があるから。
いや、それは困る。
終わってくれ、夏。
…と、ここで終わらせるのが正解なのかもしれないが、何だかこれではありきたりな気がするので、終わらない夏の詩を書いてみよう。
海岸線に続くハイウェイ 君を乗せた車を飛ばして
目的地のないドライビング 日が暮れるまで
冷房の効いた車内 これならどこまでだって行ける
快適な走りで助手席の君は ずっと爆睡中さ
光を反射してきらめく海原も
遠く陽炎に揺れる白い船影も
今の君にはどうでもいいのさ
だから終わらないで…夏の日
君が輝くSunSetBeach 水着に着替えたその後で
愛を語らう時間が欲しかった 海辺のマーメイド
君と素泊まりSeaSideHotel 生まれたままの姿で
愛を交わす時間が夢のようで 夏よ終わらないで
夏よ 終わらないでくれ
夏よ いつまでも僕と君のために
夏よ 終わらないでくれ
夏よ 僕達の愛のように 永遠に
…いや、それは困る。
終わってくれ、夏。