「それじゃあ、またね。元気でね」
君が右手を差し出した。
でも、僕の右手はポケットの中。
「またね、とか、またいつか、とかって、もう会うつもりのない相手に使う言葉じゃない?」
仏頂面で僕が言う。
「そんなことないよ。また会いたい、って心から思ってる。それがいつになるかは分からないけど、その気持ちは本当だよ」
君が右手をそっと下ろした。
心がチクリと痛む。
「もう少し、君が大きくなったらね、もっといろんな話が出来るようになったら、また会おうよ」
君は僕を見下ろして、僕の大好きな笑顔を見せてくれる。
でも今は、その笑顔が悲しくて涙があふれそうになる。
「その頃には、今のこの気持ちなんて忘れてるかもね。僕だって大人になるんだ。いつまでも君のことなんて…」
僕の言葉に、君は優しい笑顔のまま頷いて、言う。
「そうだね。君も大人になるんだよね。それが楽しみ。私のことを忘れてしまってもいいよ。きっとその頃には、お互いが違う幸せを見つけてるのかもね」
…そんなことない。
言おうとしたけど、何故だか言葉が出なかった。
電車が、発車のベルを鳴らす。
君が、本当に大好きだった君が、僕の目の前から、消えようとしている。
またね。
もう一度君がそう言って、大きな荷物を抱えて、車両に乗り込んだ。
ドアの向こうに姿を消した君を、僕はいつまでも見つめている。
君は、振り返らない。
いつだって君は、涙を見せない人だった。
走り去った電車を見送って、悲しかったけど、こんなところで悲劇の主人公を気取るのは嫌だった。
君とのたくさんの思い出が頭の中を巡ろうとするのを断ち切って、僕はホームを歩き出す。
だって僕は、大人になるんだから。
大人になって、君の期待に応えられるような大人になって、もしもまた会える日が来るなら、その時の僕にとっての幸せを君に伝えたい。
またね。
心の中で君にそう言って、僕は改札を抜けた。
あなたは風 私はシャボン玉
夕暮れに空を舞い 遠い世界へ運んでくれる
いくつもの泡 次々と生まれ来る
大空を背景に 描いた水玉模様のように
どこかで誰かが泣いているのを見たら
目の前で弾けて驚かせてあげよう
その人がまた新しい泡を作って
大空に舞い上がらせてくれる
泡になりたい あなたという風に包まれて
泡になりたい あなたが行く先を決めてくれる
たとえばどこかの街で 消えてしまうとしても
泡になりたい あなたという風に包まれて
あなたは夢 バブルのように弾けて
あの時代を思い出す 賑やかなりし豊潤な世界
どこかで誰かが踊るその姿は
あの頃を象徴するビジュアルに包まれて
華やかなステージを彩っていた
いつまでも続くと思っていた
泡になりたい あなたという夢に包まれて
泡になりたい 弾ける前の世界に戻りたい
たとえば誰かの嘘で 溶けてしまうとしても
泡になりたい あなたという夢に包まれて
あなたは風 私は流される
根無し草のように この世界を自由気ままにどこまでも
たとえばどこかの街で 消えてしまうとしても
泡のままでいい あなたという風が吹くのなら
ベランダで、アイスを食べていた。
マンションの六階。
街を見下ろす。
今日も暑いな。太陽の熱が半端ない。
食べるより早く、アイスが溶けて消えそうだ。
どうせ溶けるなら、胃の中で溶けてくれ。
昨夜、妻と喧嘩した。
ゴミ出しルールで意見がぶつかって。
今頃はまだ、寝室のベッドで爆睡中だろう。
さて、コーヒーでも淹れて、ご機嫌取りに伺おうか。
今日から僕も妻も夏休みだ。
つまらない意地の張り合いで、せっかくの休日を無駄にしたくない。
「あー勝手にアイス食べてる。どれ食べるか、二人で決めるって言わなかったっけ?」
読みが外れて、起こしに行く前に妻が自力でベッドから脱出してきた。
窓を開けてベランダに出てこようとして、動きを止める。
「無理。こんな暑い中、よく外にいられるね。熱中症になるよ」
…確かに。アイスはすでに溶けきっていた。
今年の夏も暑いな。
今からこんなんじゃ、12月になったらどれほど…熱で頭をやられているようだ。
「ゴミ出し行ってくれた?昨日私が言った通りにやってよね」
はいはい。すべては君の言う通り。
「…何?何か不満?」
そんなことないって。
ただね、アイスがすでにふたつほど減ってたなーって…言わないけどね。
さて、この猛暑の中、今日はどこへ行く?
君と一緒ならどこへでも…言わないけどね。
「えーこの暑いのに出掛けるの?いいじゃん、家でのんびりしてようよ」
そうきたか。まあ想定内。
夏の君の生態も、何となくは把握できてきた。
付き合って三年。結婚して一年。
生活をともにするってこーゆーことなんだな。
昨夜の喧嘩をまるで引きずっていない君も、想定内。
まあとりあえず、減ったアイスの補充はしなくちゃ。
これがないと君の機嫌が悪くなる。
たとえ君がこっそり一人で在庫を減らしてるとしても。
たかがアイスで君と僕の楽しい夏休みが約束されるなら、冷凍庫をハーゲンダッツでいっぱいにするのも悪くない。
そして毎日、君とアイス三昧。
そんな夏休みになりそうだな。
二人が、楽しいと思うことを、楽しもう。
ただいま、夏真っ盛り。
んー、昨日に引き続き、ムズいお題なことで。
何しろ、汎用性がない。
これはさ、タイトルを決めずに物語を綴って、最後にタイトルを考えた時に、内容から浮かぶソレだよね。
このタイトルを決めてから、物語を考える作家はそういないと思う。
かと言って、徒然なる思いを語るテーマとしても、あまりにも青春の1ページを切り取ったような言葉すぎて、おっさんにはよう書けんわ、って感じ。
ぬるい炭酸と無口な君。
炭酸がぬるくなるなら季節は夏。
無口な君は…熱中症を心配してあげないと。
熱中症には炭酸飲料も悪くないらしいけど、ぬるいんじゃ効果は薄い。
他に、急に口数が少なくなった君の理由として浮かぶのは…怒ってる?
飲み物買ってきてあげて渡したら、それがぬるい炭酸だったんで怒ってるとか。
王様か。
もともと無口な性格だった、ってのもあるか。
炭酸水のように弾けることもなくて、シュワシュワしない静かなキャラですよっていう。
なので、ぬるい炭酸と無口な君には相通ずる部分があったりして。
…だからそれがどうした?って話だが、まあそもそもお題が何それ?って感じだから、この辺を糸口にストーリーを紡いでいくことが出来るんじゃないだろうか。
よし、それじゃ、このアプリで身につけた「書く習慣」を活かして、このお題にふさわしい作品を作り上げてみようか。
…と思ったが、もう文字数的に十分かな。
きっと、他に素晴らしい作品がたくさん投稿されていることだろう。
習慣は、無理しちゃ続かない。
自分のペースでのんびりいこう。
まるで、刺激を失ったぬるい炭酸のように。
たまには何も浮かばずに、無口になることもあるよね。
つい先日の津波警報。
波にさらわれたのが子供とかじゃなくてホントに良かった。
手紙くらいなら、流されてもまあ何とかなる。
思い出の手紙だったりするとちょっと厄介だが、まあそれも手紙自体を思い出にしてしまえば。
最近では、メールやSMSの普及で、手紙でのやり取りもかなり減ったんじゃないだろうか。
手書きの紙を送るより手っ取り早くて、瞬時に相手に届く。
手書きの方が心が伝わる、とか言われるけど、それも内容次第、書き方次第じゃないだろうか。
現に、このアプリに投稿している人達の文章は、手書きじゃなくても心が伝わってくる。
思いを込めて文章を描けば、きっとデジタルだってその気持ちは伝わるんだろう。
まあ…フォントくらいはイジるにしても。
お題がムズいとこんな風に逃げの一手になる。
そもそも、そのシチュエーションが浮かばない。
海に手紙を持っていくシチュエーション。
古典の…アレか?瓶に詰めて手紙を送るとか?
自分で海に送り出しといて、波にさらわれた!ってのもな。
それでもきっとこのアプリには、なるほどその手があったか!と思わせるアイデアがあふれている。
手書きじゃなくても、しっかりとその意図は伝わるんだ。
…と、ひとしきり持ち上げたところで、今日もノルマ達成としよう。
あとはのんびり休日を過ごして、次のお題にトライだ。