河原の土手。
遠くにスカイツリー。
河川敷では、草野球の試合が白熱しているようだ。
それを見下ろしながら、歩く。
「野球、興味あったっけ?」
「いや、別に…暑いのに、よくやるなと思って」
「ひでえ感想だな。少年達が頑張ってんのに」
「俺も、あれくらいの頃は頑張ってたよ」
「…野球、やってないだろ?」
「うん。野球じゃなくて、頑張って生きてた。ボール遊びしてる暇なんてなかったしさ」
「彼らだって、遊びじゃなくて勝負してるんだよ」
「負けても生きていけるだろ。命がけでやるもんでもない」
「お前…どんな少年時代過ごしたんだよ」
「そりゃ、玉や矢羽根の雨あられの中を掻い潜ってだな…」
「ウソつけ」
あながち、嘘ではないのかも。
彼の生きる世界では、こちらの常識は意味を持たない。
「なあ、あのでっかいタワー、登れんのか?」
「スカイツリー?展望台まで登れるよ。俺は登ったことないけど」
「今度来た時は、案内してくれよ。あれに登ったら、昔の俺の家も見つけられるかも」
「無理だって。都内にどんだけビルがあると思ってんだよ」
「空襲で焼けたんじゃなかったのか?」
「いつの話だよ」
鉄橋の下を歩く。
くぐり抜けて、振り返ると彼はいなかった。
自分の世界へ帰ったのだろう。
神出鬼没な彼は、時折こうして俺の散歩中に現れる。
誰なのかも知らない。どこから来たのかも。
別の世界線。
こちらの世界より、少しだけ不遇な状況らしい。
「昔の俺の家…か。まだまだあいつは、謎が多すぎるな」
だけど、深く追求する気にはならない。
こうして、散歩の時の話し相手になってくれるだけで、そして、ちょっと興味深い話を聞かせてくれるだけで、それ以上は知らなくてもいいと思ってる。
たぶん、俺の人生にどこかで関わっている存在なのだろう。
何故かそんな気がする。
河原の土手の上から、遠くに見える東京スカイツリーを眺めた。
あいつの住む街にも、いつかあんなタワーが建って、あいつの思い出を見つけられたらいいな、と思った。
あたかも、夢見る少女のように、その中年のおっさんは、ショーウィンドウの向こうを見つめていた。
新車が並んでいるカーディーラーのショールーム。
それは、汚れや傷ひとつないボディを自慢気に輝かせて、最新モデルであることに誇りさえ感じさせるような佇まいで。
単なる鉄の箱なのにな…いや、走る鉄の箱、か。
…いやいや、走って、いろんな場所に連れて行ってくれて、たくさんの思い出を作る手助けをしてくれる、カッコよく作られた鉄の箱、だ。
これを人は、マイホームの次くらいに高いお金を差し出して、手に入れる。
まさに、夢見る少女が憧れる男性のような、手に入れ難いが諦めることの出来ない、そんな存在が新車だ。
そーいえば昨今、ガソリン代も高騰していて、高額な買い物だけに、消費税の減税の行く末も気になる。
そんな現状に抗ってでも、あの神々しい鉄の箱を我が物にしたい。
いっそのこと、夢は夢で終わらせて、23年乗り続けている今の車が、完全に沈黙するまで付き合っていこうか。
それこそ、いろんな場所に連れて行ってくれて、たくさんの思い出を作る手助けをしてくれた、私の愛車だ。
まだまだ走れるのなら、手放したくはない。
夢見る少女だっていつかは、憧れを憧れのままで終わらせても、現実の暮らしの中で、自分に合ったパートナーを見つけて幸せを手に入れるはずだ。
そのパートナーと、永遠の愛を誓い添い遂げる…そーか、「死が二人を分かつまで」…か。
ならばやはり、今の車が動かなくなるまで、付き合っていくべきか。
その中年のおっさんは、ショーウィンドウの前で夢見た挙句、結局一番現実的な結論へと辿り着いた。
こんなもん、単なる鉄の箱じゃないか。
そりゃ、最新システムの安全性能たるや、今後認知が衰え始めるおっさんには魅力だが…。
もしくは、夢見る少女だって、場合によっては妥協するかもな。
もう少しランクを落として…現実的に手が届くところで交渉する。
いや…現実的といったところですでに夢見てないな。
ああ、もうやめよう。
なんで私は、自分の車選びの苦悩をこんなところに書いているのか。
夜も更けて、帰宅した中年のおっさんは、浅い眠りの中で新車購入の夢など見ながら、就寝。
その寝顔は、まるで夢見る少女のように…。
さあ行こう てっぺんはまだまだ
さあ行こう サボるのはまた今度
さあ行こう 人生は思うより長い
さあ行こう 今は波に乗って Take-Off
さあ行こう うまくやれなくたっていい
気持ちが晴れ渡るような あっけらかんで行こう
さあ飛ぼう 羽が無いなら階段で
天空のビルを駆け上がって 屋上からスカイダイビング
風に乗って 風に流されて
波に乗って 波に流されて
自由気ままに どうとでもなれの気持ちで
ほんの少し舵を取って ゴールだけは見誤らずに
さあ行こう てっぺんはこれから
さあ行こう サボタージュ無しで
さあ行くよ 人生は思うより短い
さあ行くぞ 今は風に乗って Take-Off
行きたくない朝は 少しグズってもいいから
とりあえず一歩 外に足を踏み出す
思いのほか街は優しくて 案ずるより人は穏やかで
だから大丈夫 外に足を踏み出そう
さあ行こう 最高の一日にはならなくても
気持ちが揺れ動くような あっと驚く出会いがあって
さあ行くぞ 最悪な出来事に見舞われても
きっと誰かが支えてくれる きっと自分がそうするように
Let's Go, Towards Our Trivial Daily Lives
さあ行こう 他愛ない日常に向かって
これが僕達の冒険譚 勇気の一歩を踏み出す物語
水たまりに映る空なんて、どうせ濁った灰色だ。
…と思っていたけど、それは澄んだ青色だった。
灰色の空なんか見つめずに、本物の空を見上げなよ、そう励まそうかと思っていたのに、これじゃ俯いたままの君を元気づけることも出来ない。
水たまりに映る空はキラキラ輝いて、風が立てるさざ波に揺れている。
フェイクなんだけどな。ニセモノなんだけどな。
でも君は少し微笑んで、
「こんな道端にも、綺麗な空があるんだね」
そう言って、僕の顔を見上げた。
それは、泣き腫らした後の笑顔だったけど、きっと本当の気持ちを僕に伝えてくれた。
「ツライけど、もう少し頑張ってみるよ。だって、雨は上がって、空は青くて、私はまだココにいるんだから」
その意味はイマイチよく分からなかったけど、君が笑ってくれるんなら別にいいや。
涙はさっきまでの雨が、綺麗に洗い流してくれたんだと思いたい。
君の悩みがそんな簡単なものじゃないことは分かってるけど、雨が上がって、傘を閉じて、君と二人歩く歩道の水たまりに映る空は青く、それを見たら何となく、無理に元気を出して上を向いて歩く必要もないんだな、と思えた。
足元にだって喜びは転がってる。
靴を濡らすだけの水たまりも、時にこうして、俯くことしか出来ない誰かを勇気づける。
「…さて、じゃあ、お腹も空いたし、ご飯でも食べに行こうか」
食欲、あるの?
そうツッコミたかったけど、君の笑顔を曇らせそうで、やめた。
だってほら、足元の水たまりには、今の君の笑顔がキラキラと輝いている。
澄んだ本物の青空を背景にして。
恋か、愛か、それともエロか。
男なら、これじゃないだろうか。
時折思う。
神様がいるのなら、どうして男という生き物をこんな風に作ったのか。
恋や愛に対する興味は同じでも、エロに対する興味は、男と女で差がありすぎはしないか。
だから、いろんな場面でトラブルが発生する。
一方的な独走が悲劇を生む。
その類の犯罪を許せはしないが、個人的な意見としては、「男とは、本能に抗わなければそーゆー生き物だ」と思ってる。
だって、物心ついた時には、そんな感情が芽生えていた。
欲望と言った方が正解か。
それを責められても、その感情を完全に失くすことなど出来はしない。
男って、そーゆー生き物だと思う。
まあ、男女お互いにそーゆー気持ちがなかったら人類は滅亡するし、そう考えれば、エロは人類存続の鍵とも言える。
恋や愛、それだけじゃこの世界は終わりを迎えていたかもしれないのだ。
願わくば、エロを単なる悪者にしないで欲しい。
いや、悪用する者も確かにいるが、純粋なエロは、まともな男である証なんじゃないかと勝手に思い込んでいる。
昨今、エロが過ぎて失脚する男性芸能人が後を絶たない。
本当なら、「仕方ないじゃん、男ってそーゆー生き物なんだから」と言いたいところだが、被害者が存在する限り決してそれは認められない。
秩序が守られなければ、男だ女だ恋だ愛だの問題じゃなくなるから。
合法な範囲で、生まれ持っての性であるエロを楽しもう。
それを咎められる理由はないはずだ。
この世界には、男と女という生き物しかいなくて、お互いが求め合うから人類は存続してきた。
もちろん、いろんな愛の形があることも事実だが、この構図には誰かの意思が絡んでいる気がしてならない。
どっちかと言うと無神論者だが、まあ、うまいこと作ったなーというのが素直な感想だ。
恋か、愛か、それともエロか。
このどれもが、我々の人間たる所以だと思ってる。
恋をして、愛し合って、エロいこと考えて。
…うん、まともな人間だ。