Ryu

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2/26/2025, 1:17:07 PM

「あの日、マンションの地下の駐車場に設置された監視カメラが捉えた映像が、コレです」
彼はそう言って、再生ボタンを押した。
特に動くものがないので、まるで静止画像のようだったが、
「もうすぐ、横切ります」
彼がそう言った直後、画面の真ん中を、何か巨大な生き物が通り過ぎていった。
「…今のは?」
私の問いに、
「ブラキオサウルスかと思われます」
真面目な顔で答える。
「恐竜の?」
「ええ、草食恐竜の」

最近、街のいたるところで、こんな映像が撮られている。
交差点を渡るトリケラトプス。
車道を疾走するヴェロキラプトル。
マンションの屋上で羽を休めるプテラノドン。
どれも、街の監視カメラに記録された映像に残されていた。
直接見たものはまだ誰もいない。
白昼堂々、たくさんの人達の目前に現れているはずなのだが。

「これは…カメラのバグなのか?それとも、トリック映像?」
「カメラに異常はありません。街の監視カメラですから、編集加工するのも難しいかと」
「それじゃあ、あれは何なんだ?街に恐竜がいるのか?」
「いや…実際に見た人はいませんしね。あれは…誰かの記憶なんじゃないかと」
「誰かの記憶?なんでそれが監視カメラに?」
「それは…分かりませんけど、これらを記録したカメラは、無線なので電波を飛ばしています。それと記憶の脳波が偶然干渉したとか…そんなところでしょうか」
「そんなこと…あり得るのか?そもそも、記憶って、誰の記憶なんだ?」
「それも分かりかねますが…いや、もしかすると…」
「なんだ?言ってみろ」

「…これは、地球の記憶なんじゃないでしょうか。恐竜の時代の記憶を持つ人間はいませんからね」
「それはそうだが…」
「あくまで仮説です。でもほら、恐竜は、交差点や車道やマンションの屋上にちゃんと配置されている。壁をすり抜けて走っていったりはしない。何か、作為を感じませんか?誰かが、自分の中にある記憶を重ね合わせて楽しんでいるような…」
「地球が、昔を懐かしんで想い出に浸っているとでも?」
「…あくまで、仮説です」

記憶が記録されてゆく。
今を生きる我々の記憶にはない映像が記録される。
その数は膨大となり、きっとしらみ潰しに探せば、そこには歴史上の人物の姿を見つけることも出来るのではないだろうか。
そうだ。きっとこれは地球の記憶だ。

ではなぜ最近になって、このような映像が記録されるようになったのか。
これが地球の記憶だとして、単に過去を懐かしんでいるだけなら、それでいい。
実際に街に恐竜が現れるわけではないのだから。
だが、これがもし、地球の、走馬灯だとしたら?
終わりを迎えようとしている惑星が、記憶をさかのぼり、過去から順に思い出しているのだとしたら?

先日見つかった映像では、旧日本軍の隊列が行進していた。
我々の生きる現在は、映像の中でもうすぐ訪れるだろう。
その時、何が起きる?
走馬灯の終わりには、いったい何が待っているのか。

…あくまで、仮説だが。

2/26/2025, 12:46:26 AM

冒険なんかしない。穏やかな人生がいい。
日々、繰り返しのような毎日。
だけど、やるべきことをやって、充実した毎日。
気心の知れた仲間と、まれに初めて巡り合う人達。
ただそれだけで、人生は形作られてゆく。

世界のすべてを知る必要はなく、知ったところで幸せとは限らない。
自分が生きるテリトリーさえ守れれば、きっと安寧は約束される。
ディスプレイの向こうで起きる悲しい現実など、目の当たりにして何になる?
もしくは身の丈に合わない享楽など、一瞬にして夢のように消えてゆくだけ。
刺激を求めるのは人間の性なのかもしれないが、どんな刺激も味わうほど薄れてゆく。

さぁ冒険だと世界に旅立って、たくさんの経験をして、心大きくなって我が家に戻ってくる。
そしてつぶやく。「やっぱり我が家が一番だ」と。
その場所があるからこそ、人は旅に出る。
その場所があるだけで、人は幸せになれる。
ならば、何よりもその場所を大切にしたい。
その場所で人生を形作ってゆきたい。

あえて言うなら、その場所で出来る冒険もあるのだろう。
生きること、そのものが冒険となるならば。
穏やかな冒険だ。だが、かけがえのない冒険だ。
海賊王にはなれなくても、誰かにとっての大切な存在にはなれる。
ずっとそばにいて欲しい存在。
世界に飛び出して、いなくなってなど欲しくない存在。

そんなことを、「Perfect Days」って映画を観て思った。
だからまあ、若いうちは冒険を楽しむのもアリかもしれないけど、別にしなくたってその生き方は間違っていない。
映画やゲームでの疑似体験で満足したって何も悪くない。
それで冒険心が芽生えて実際に外に出るのも悪くない。
生き方は人それぞれ。

ルフィに騙されるな。
インディ・ジョーンズはすでに年老いた。
でも、彼らの冒険は、心の中で今も輝いている。

2/24/2025, 10:53:40 PM

たった一輪で咲く花も、群生する花達も、生命の限り咲き誇ればそれでいい。
どんな風に咲くのかはそれぞれの個性だから、違いがあって当然なんだ。
美しく咲く花、力強く咲く花、可愛らしく咲く花、ひっそりと咲く花、儚げに咲く花。
その姿は多種多様で、みんな違ってみんなイイ。

だから、芽生え、成長して、花を咲かせることだけに一生懸命になって、どんな花を咲かせたとしても、それを自分のスタイルとして自信を持とう。
人はみな、一輪の花。
たとえ群生していても、自分はその中の一輪でしかない。
だから、他人に合わせる必要なんかないんだ。
自分だけの花を、咲き誇れ。

2/24/2025, 2:10:18 AM

休日、昼下がりの公園。
ベンチに座って、ボーっと辺りを眺めている。
キャッチボールする少年達。
ベビーカーを押してお散歩する母親。
レジャーシートを広げてお弁当ランチする家族の姿も見える。

―平和だなあ―
カリ城のルパンみたいなことを思いながら太陽の光に目を細めていると、少年の投げたボールがあらぬ方向に飛んでいくのが見えた。
何となく目で追う。
その先には、ベビーカーを押した母親が歩いていた。
そして、ボールは一直線にベビーカーの赤ちゃんに向かって飛んでいき、あわや直撃!の手前で動きを止め、ボールは地面に落ちた。

―そんな、バカな―
あの勢いで飛んできたボールが、突然動きを止めるなんてあり得ない。
だが、確かにボールは地面に転がっている。
何事もなかったかのように。
あのまま赤ちゃんを直撃していたら、大変なことになっていただろう。
少年達も母親も、ランチの家族もベンチの私も、たった今起きた奇跡を目の当たりにし、唖然として地面に落ちたボールを眺めていた。

誰かの魔法が発動した?そんな考えが頭をよぎる。
公園のどこかに、ダンブルドアのようなおじいちゃんがいないか探してしまう。
ハリーのような眼鏡の少年はいるが、それはボールを投げた張本人だ。
誰よりも驚いている。彼は違うだろう。
―まさか、俺が?―
そんな力があったのだろうか。
無意識で力を発動したのだろうか。
確かに、ボールを止めてくれ!とは念じたが…。

「公園でのボール遊びは禁止のはずだけどな。あれに当たると痛いんだから。やめてほしいな」
不意に、すぐそばで子供のような声がして、俺の座るベンチの隣に、その声の主が座ってきた。
ちょこんと。両手両足を揃えて。
―えっ…?―
薄汚れた、一匹の猫。三毛猫だ。
あれ?こいつ、どこかで…?

「最近はどうだ?サラリーマン。営業はうまくいってんのか?取引先のおっさんとは仲良くやれてんのか?」
去年の9/27。雨宿りの軒下。
俺の仕事の愚痴を聞いてくれた、オスの三毛猫。
瞬時に、あの日のことを思い出した。

「あれから、運が向いてきたんじゃないのか?俺に会えたおかげで」
…いや、特に。営業成績は相変わらず低調だ。
「まあ、そうだろうな。当の俺が、今じゃこんな生活をしてるんだから。ご利益なんてある訳ないわな」
あの豪邸は?追い出されたのか?
「いや、一緒に飼われてた大型犬に脅されてな、思わず外に逃げ出したら、迷子になって帰れなくなっちまった」
それで公園で野良猫か?家に送り届けてやろうか。
「いやいや、野良猫暮らしってのも自由で悪くない。結構気に入ってんだよ。俺にはこの力もあるしな」
…魔法か?今のボールもお前がやったのか?
「そゆこと。猫でも人間でも、赤ちゃんは守るべき存在だ」

三毛猫のオスって、だから貴重なのか。高額だってのは聞いてたけど。
「関係ないよ。俺が特別なだけ。三毛猫のオスは単に個体数が少ないから、希少価値が上がってるんだろ」
まあ…そりゃそーだよな。魔法が使える猫なんて、いくらお金を積まれたって…ウチに来ないか?
「…下心丸見えだな。でもな、俺の力は俺の純粋な願いからしか発動しないんだ。つまり、お前の願いを叶えることは出来ない」
それは…残念だけど、別にいいよ。お前はイイ話し相手になる。それに、単純にお前の魔法をもっと見せて欲しいんだ。
「俺の魔法?そんなの、飯を手に入れたり、敵を追い払ったりにしか使ってないよ。何も面白くない」

いや、今、目の前で奇跡を見せてくれたじゃないか。
あれがなかったら、今頃この公園は大騒ぎになってた。
母親も少年達もあの家族も、もちろん当の赤ちゃんもこの俺も、すごく嫌な思い出を残してしまったはずだ。
それを阻止したのは、お前なんだよ、猫。
俺だけがそれを知っている。
このままお前とお別れするのは忍びないんだ。
分かるだろ?

「なんだか、うまいこと丸め込まれてる気がするけど…まあ、いいか。そろそろ美味い飯とあったかい毛布が恋しくなってきたところだ。俺の力でも、目の前にないものを生み出すことは出来ないからな。世話にならせてもらおうか」
よし、じゃあそろそろ家に帰ろう。歩いて帰るのかったるいから、空を飛んだりとか出来ないのか?テレポーテーションは?
「やっぱりやめようかな…」
冗談だって。のんびり猫と散歩だ。天気もイイしな。
「お前と初めて会った日は、雨降りだったもんな。やっぱり運が向いてきてるのかもな」
天気で一喜一憂してたら身が持たないよ。
まあでも、今日はお前に再会できたから、ラッキーな日に違いない。
…そーだ、名前はあるのか?

「ハリー」
…ん?
「いや、ホントだって」
…まあ、ダンブルドアよりマシか。
「なんなら、好きに呼んでくれ。名前なんかどーでもいい」
よし、じゃあ今日からは、「ニャンコ先生」だ。

「やっぱりやめようかな…」

2/23/2025, 3:39:17 AM

本牧ふ頭でのんびり、釣り糸を垂らしていた。
隣には釣り仲間のお前。
三日前に嫁さんが、子供を連れて家を出ていったと言う。
「だから、好きなだけ釣りが出来るよ」
冗談めかして言うお前は、少しやつれた顔で海を見つめている。
子煩悩で、嫁さんファーストなお前のことだから、強がりにしか聞こえない。
「喧嘩の理由は?」
俺の問いに、少しだけ考えて、
「俺の家族依存が過ぎたかな?」
遠く、船の汽笛が届いて、カモメが空を渡っていくのを見上げながら、お前はつぶやく。

「じゃあ、すぐに帰ってくるよ」
根拠のない俺の言葉に、
「そしたら、釣りが出来なくなっちゃうよ」
顔を伏せて少し寂しそうに答える。
メンドくさい奴だな、もっと余裕かまえていけよ、心の中で叱責しながら、海の彼方を眺めた時、そこに大きな虹がかかっていることに気付いた。
何も遮るもののない水平線の上に、見事な半円形の七色。

「おい、見ろよ。海で見る虹ってこんなに綺麗なんだな」
お前は顔を上げて、青空を横切る七色のラインを見つめる。
「ホントだ。虹の全部が見える。…いや、下半分は見えてないのか?」
「さあな。どっちでもいいよ。とにかく俺達はラッキーだ。ラッキーマンだ。こんなのが見える日に海で釣りしてるんだからな」
少し強がった俺の横顔を見つめるお前の視線に気付いたが、無視した。
「お前は…ポジティブだな。…先月、会社をクビになったって…聞いたけど」

さすがに、心に刺さる。
でも、俺達はラッキーだろ?
こんな光景を見ながら、気の置けない友人とのんびり過ごしている。
そんな今がある。
明日がどうなるかなんて誰にも分からないんだから、今がどうかだけで判断していいじゃないか。
ましてや、過去に起きたことは変えることも出来ない。

「なあ、この虹はさ、海の向こうで降ってる雨が作り出してるのかな」
「さあ…そうなんじゃないか?こっちはこんなに青空だしな」
「そっか…人生いろいろだな」
「なんだそれ。人生なんて皆似たようなもんだよ。いろいろ起こることも含めてな」
「俺は会社クビになってないよ。お前は奥さんとうまくやってるだろ」
「いろいろあって、今は二人で同じ虹を見てるわけだ。まったく釣れない海釣りしながらな」
「帰りに、豪勢に寿司でも食って帰るか」

海の向こうの虹は薄れて消えてゆく。
でもまたいつか、どこかの町で会えるだろう。
それだけで、俺達はラッキーになれる。
たとえどんな絶望の中にいたとしても、だ。
だって、どう頑張ったって俺達にあんな虹は作れない。
それに出会えたのなら、それは幸運に他ならないじゃないか。

俺達がそう思えるんなら、それが答えなんだ、きっと。

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