「あの日、マンションの地下の駐車場に設置された監視カメラが捉えた映像が、コレです」
彼はそう言って、再生ボタンを押した。
特に動くものがないので、まるで静止画像のようだったが、
「もうすぐ、横切ります」
彼がそう言った直後、画面の真ん中を、何か巨大な生き物が通り過ぎていった。
「…今のは?」
私の問いに、
「ブラキオサウルスかと思われます」
真面目な顔で答える。
「恐竜の?」
「ええ、草食恐竜の」
最近、街のいたるところで、こんな映像が撮られている。
交差点を渡るトリケラトプス。
車道を疾走するヴェロキラプトル。
マンションの屋上で羽を休めるプテラノドン。
どれも、街の監視カメラに記録された映像に残されていた。
直接見たものはまだ誰もいない。
白昼堂々、たくさんの人達の目前に現れているはずなのだが。
「これは…カメラのバグなのか?それとも、トリック映像?」
「カメラに異常はありません。街の監視カメラですから、編集加工するのも難しいかと」
「それじゃあ、あれは何なんだ?街に恐竜がいるのか?」
「いや…実際に見た人はいませんしね。あれは…誰かの記憶なんじゃないかと」
「誰かの記憶?なんでそれが監視カメラに?」
「それは…分かりませんけど、これらを記録したカメラは、無線なので電波を飛ばしています。それと記憶の脳波が偶然干渉したとか…そんなところでしょうか」
「そんなこと…あり得るのか?そもそも、記憶って、誰の記憶なんだ?」
「それも分かりかねますが…いや、もしかすると…」
「なんだ?言ってみろ」
「…これは、地球の記憶なんじゃないでしょうか。恐竜の時代の記憶を持つ人間はいませんからね」
「それはそうだが…」
「あくまで仮説です。でもほら、恐竜は、交差点や車道やマンションの屋上にちゃんと配置されている。壁をすり抜けて走っていったりはしない。何か、作為を感じませんか?誰かが、自分の中にある記憶を重ね合わせて楽しんでいるような…」
「地球が、昔を懐かしんで想い出に浸っているとでも?」
「…あくまで、仮説です」
記憶が記録されてゆく。
今を生きる我々の記憶にはない映像が記録される。
その数は膨大となり、きっとしらみ潰しに探せば、そこには歴史上の人物の姿を見つけることも出来るのではないだろうか。
そうだ。きっとこれは地球の記憶だ。
ではなぜ最近になって、このような映像が記録されるようになったのか。
これが地球の記憶だとして、単に過去を懐かしんでいるだけなら、それでいい。
実際に街に恐竜が現れるわけではないのだから。
だが、これがもし、地球の、走馬灯だとしたら?
終わりを迎えようとしている惑星が、記憶をさかのぼり、過去から順に思い出しているのだとしたら?
先日見つかった映像では、旧日本軍の隊列が行進していた。
我々の生きる現在は、映像の中でもうすぐ訪れるだろう。
その時、何が起きる?
走馬灯の終わりには、いったい何が待っているのか。
…あくまで、仮説だが。
2/26/2025, 1:17:07 PM