Ryu

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8/15/2024, 12:07:31 PM

それは怖い。
夜の海は怖いよ。
彼は言った。

何か、怖い目にあったことがあるの?
私の質問に、彼は遠い目で話し始める。

幼い頃、夜の10時頃かな、父が突然、
「海を見に行こう」
と言い出したんだ。
母は、こんな時間に?と困惑していた。

真っ暗な海辺の道に車を止めて、砂浜を三人で歩いた。
波の音が巨大な生物の咆哮のように、夜の大気を震わせ辺り一帯に響き渡る。
父は、何も言わずに波打ち際まで来ると、静かに海の向こうを指差した。
「…行ってみるか?」
「…え?」

そして父は歩き出す。波に逆らい、海に入ってゆく。
「ちょっと、待って」
父の足に縋りついた。だが、力では勝てない。
手首を掴まれ、振り返ると、母が思わぬ力で私の腕を引いて、海へと引きずり込んでゆく。
「離して、母さん」
深い方へ、暗い方へ。どうすることも出来ない。

その時。
強い力で肩を掴まれ、引っ張られ、砂浜に引き戻された。
「何やってるんだ!」
…見知らぬ男の人。
懐中電灯を持って、私の顔を照らしながら、
「こんな時間にこんな小さな子が…親はいるのか?」
聞かれたが、答えられない。
海はどこまでも暗く、私達二人の他に、人の姿は見えなかった。

「何の…話をしてるの?」
「子供の頃の、夜の海での話」
「あなたの…記憶なの?」
「そうだよ。…母さんは覚えてないの?」

8/14/2024, 12:26:10 PM

自転車に乗って、君の住むアパートへ。
週末が来るたびに通った。
アパートの前の長い坂道も、君に会うためなら苦にならなかった。
雨の日も雪の日も、いや、そんな日だからこそ、君に会ってゆっくり話がしたかった。

時が流れ、僕達は夫婦となり、君はアパートを出て、二人で住む新しいマンションに引っ越した。
そこで新たな生活が始まり、車を買い、子供が生まれ、育ち、私達は年老いた。
子供達は自立して家を出ていき、私達はまた、二人だけで住むアパートに引っ越した。

アパートの部屋の窓から、長い坂道が見えた。
その坂道を、一台の自転車が登ってくる。
「なあ、見てみろよ。あの頃の私みたいな青年がいる」
窓際にやって来た君は、私の隣に立ってしばらく坂道の彼を見つめていた。
「この暑さの中をあんなに必死で…もしかしてこのアパートに彼女でもいるのかな」

君は黙って奥の部屋へ。
「何だ、昨夜の喧嘩で機嫌でも悪いのか?いつまでも引きずってるなら、私も本気で言わせてもらうぞ」
君は、懐かしい服に着替えて出てきた。
あの頃の服だ。まだ持っていたなんて。
「おい、なんでそんな格好…おい、どこへ行くんだよ」

ここ何年も、見ることのなかった君の笑顔。
「あの人が会いに来てくれたから…いつも待っているだけだったから…今日は迎えに行くわ」

「えっ…」
君が部屋を出ていく。幸せそうな顔で。
追いかけることも出来ず、窓の外を見下ろすと、自転車に乗って走ってきた青年に、アパートの玄関から飛び出していった女性が駆け寄っていくのが見えた。
自転車の青年は驚いたような顔で立ち止まる。
二人は、坂道の途中で抱き合い、そして、私の方を振り返った。

あの頃の君と僕が、私を見て、微笑んでいた。
…あれから君は、帰ってこない。

8/13/2024, 11:10:39 AM

心の健康に一番大切なのは、「まっいっか」だと思う。
逆に無くすべきは、執着とか妬みとか嫉みとか。
怒りとか悲しみは、まあ、たまにはあってもいいんじゃない?って感じ。
心の健康だけじゃなく、体の健康にも影響するだろう。

執着とか妬みとか嫉みはストレスの根源だ。
怒りとか悲しみは、時折ならストレス解消にもなる。
思いきり怒鳴って、思いきり泣いて。
メンタルを病まないように、たまには自分を解放して自由を感じよう。

思うんだけど、悪って滅ばないよね。
自分のやりたいことを、我慢せずに自分本位にやり通せる悪は長命だと思う。
逆に、「善人ほど早死にをする」とはよく言ったもので、誰かのために、何かのためにと心すり減らす毎日は、死と隣り合わせってことじゃないかな。

イイ人になんかならなくてもいいじゃない。
自分の思うように生きればいい。
それが難しいのも分かるけど。
人のために何かをしたいならすればいい。
自分のために好き勝手したいならすればいい。

ただ、好き勝手やって他の人の迷惑になるのは、その人の好き勝手やる自由を奪うことになるから、モメてトラブルになるのも当然のこと。
そしたら結局ストレス溜めて、自分の首を絞めることになる。
その辺だけ意識して、やりたいようにやろう。

そだな。
とりあえず、Amazonで新しいウクレレを買ったよ。
しばらく放置してたけど、もう一回やってみたくなった。
この株価暴落時にいろいろと不安だけど、まあ、やりたいことはやろう。
心の健康のために、素敵なメロディを奏でよう。

8/12/2024, 3:16:48 PM

夏が終わる頃、君達が奏でる音楽を聴く。
何よりも、夏の終わりを感じさせる音楽。
カナツクホーシ、カナツクホーシ。
少しは涼しくなるのかな。
エアコンを消してもいいのかな。

酷暑の中のミンミンよりは落ち着いて、リラックスして聴けるミュージック。
厳しい夏を乗り越えた感もあって、感動のフィナーレにも思える。
もしくは、静かに始まる次の季節へのプロローグ。

いずれにせよ、耳に心地良く、ベースが入ったらもっとエモくなるかも。
夏の終わりのハーモニーってやつだ。
今はまだ、その心地良さがイメージ出来ないけど、必ずその日は来る。
それまでは、ジャズでも聴いて心和ませよう。

ミンミンジージー雄叫んで、終いにベランダでひっくり返って死んだフリをするのはやめて欲しい。
次のステージ奏者にバトンを渡して、静かにフェードアウトしてゆくのが粋ってもんでしょ。
夏の終わりのセレモニーってやつだ。

今年の夏も頑張ったね。
来年また会いましょう。
次の世代のアーティスト達に。

8/11/2024, 12:09:17 PM

娘がまだ幼かった頃、親戚一同集まって、馴染みの小さな小料理屋を借り切って新年会をやっていた。
一軒家のようなお店で、その一部屋を使う感じ。
結構広い部屋だったが、子供達は退屈すると部屋を出て、廊下の探索を始めた。
何をやらかすか心配なので、私もついて回る。
廊下もお店の内らしく、机の上に様々な装飾品等が置かれていた。

その中に、麦わら帽子を被ったフランス人形が。
麦わら帽子は、普通に人が被るサイズのもの。
誰かが後から被せたとしか思えない。
帽子のツバで顔が見えないほど前に傾いており、その顔が見たかったのか、娘が麦わら帽子を動かして、人形の顔が見えるように後ろにズラした。
可愛らしい顔をしていた。右目の周りが黒ずんでいたが。

その後、しばらく廊下で遊んで部屋に戻ろうとすると、薄暗がりの廊下で、女性の店員が人形の麦わら帽子を元の位置に戻し顔を見えなくして、そっと手を合わせているのが見えた。
少しゾッとしたが、大事にされてる人形なんだなと無理くり納得して、新年会の続きを楽しんだ。

その帰り道、車の中で娘が、ボタンを押すと音楽が鳴る玩具で遊んでいた。
すると、童謡が流れるはずのその玩具から、聞き覚えのあるクラシックのメロディが。
これは…「亡き王女のためのパヴァーヌ」だ。
「凄い、その玩具、こんな曲も入ってるんだ」
「いや、ないよそんな曲。勝手に鳴ってる」
「えっ…」

来年、また新年会であの店に集まったら、店員さんにあの人形について聞いてみよう、と思っていたのだが、次の年の新年会は何故か予約が取れなくて、他の店でやることになり、それから早二十年近く、あの店には行ってない。

なので、オチのない話になってしまうのだが、見解としては、あの人形には誰かの魂が宿ってて、それを鎮めるために薄暗い廊下で顔を隠して置かれていたものを、娘と見つめ合ったことで意気投合して我が家の車に乗ってきたと。

…とゆーことは、その魂は今どこに?って話になるのだが、家族の誰もがフランスには特に思い入れもなく、K-POPの話で楽しく盛り上がっているので、特に支障はなし。

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