Ryu

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娘がまだ幼かった頃、親戚一同集まって、馴染みの小さな小料理屋を借り切って新年会をやっていた。
一軒家のようなお店で、その一部屋を使う感じ。
結構広い部屋だったが、子供達は退屈すると部屋を出て、廊下の探索を始めた。
何をやらかすか心配なので、私もついて回る。
廊下もお店の内らしく、机の上に様々な装飾品等が置かれていた。

その中に、麦わら帽子を被ったフランス人形が。
麦わら帽子は、普通に人が被るサイズのもの。
誰かが後から被せたとしか思えない。
帽子のツバで顔が見えないほど前に傾いており、その顔が見たかったのか、娘が麦わら帽子を動かして、人形の顔が見えるように後ろにズラした。
可愛らしい顔をしていた。右目の周りが黒ずんでいたが。

その後、しばらく廊下で遊んで部屋に戻ろうとすると、薄暗がりの廊下で、女性の店員が人形の麦わら帽子を元の位置に戻し顔を見えなくして、そっと手を合わせているのが見えた。
少しゾッとしたが、大事にされてる人形なんだなと無理くり納得して、新年会の続きを楽しんだ。

その帰り道、車の中で娘が、ボタンを押すと音楽が鳴る玩具で遊んでいた。
すると、童謡が流れるはずのその玩具から、聞き覚えのあるクラシックのメロディが。
これは…「亡き王女のためのパヴァーヌ」だ。
「凄い、その玩具、こんな曲も入ってるんだ」
「いや、ないよそんな曲。勝手に鳴ってる」
「えっ…」

来年、また新年会であの店に集まったら、店員さんにあの人形について聞いてみよう、と思っていたのだが、次の年の新年会は何故か予約が取れなくて、他の店でやることになり、それから早二十年近く、あの店には行ってない。

なので、オチのない話になってしまうのだが、見解としては、あの人形には誰かの魂が宿ってて、それを鎮めるために薄暗い廊下で顔を隠して置かれていたものを、娘と見つめ合ったことで意気投合して我が家の車に乗ってきたと。

…とゆーことは、その魂は今どこに?って話になるのだが、家族の誰もがフランスには特に思い入れもなく、K-POPの話で楽しく盛り上がっているので、特に支障はなし。

8/11/2024, 12:09:17 PM