七夕か。
結婚記念日だ。…いや、入籍記念日だったか?
それって同じもの?挙式日が先だったよな?
とにかく昔話過ぎて忘れてしまう。
一生に一度しかやってないし、今のところ。
映像やら写真はたくさん残ってるけど、普段は引っ張り出すこともないし、他人を見るような目で見てしまいそうだ。
ホントにこんな日があったのかと。
織姫と彦星は恋人ではなく夫婦とのこと。ネット調べ。
結婚したらイチャイチャして働かなくなったので、嫁の親が怒って二人を引き離した。
そしたら今度は落ち込んで働かなくなったので、年に一回だけ会えるようにしたと。
アホな家族だこと。結婚を何だと思ってんだ。
二人で家庭を築き上げていくことであり、それは二人が自立して親元を離れて…とにかく、年に一回しか会えないんじゃ、家族も作れないじゃないか。
我が家は順調に家族を築き上げた。
いろいろ紆余曲折もあったけど、まあ、今があるんだからうまくやれてるんだろう。
人生に正解なんてないと思うけど、織姫と彦星よりは幸せに暮らせていると思う。
家族の仲を引き裂くようなアホな親もいない。
七夕の短冊には、そんな悲恋を続けている織姫と彦星を励ますようなメッセージを書くべきなのかな。
今日我が家は、新しい子猫を譲り受け、家族がまた増えた。
織姫と彦星にも、この幸せを少し分けてあげたい。
…ああ、今頃は一年振りの逢瀬を楽しんでるのか。
野暮な提案だったな。
今夜は誰よりも幸せな時間を過ごしてるのかもしれない。
明日のことは考えず、心ゆくまでイチャイチャを楽しんで欲しい。
大きなお世話だが。
あの頃、一人じゃ何も出来なかった。
逆に言えば、一人じゃなかったから何でも出来る気がしてた。
大人になって、それが勘違いだと気付くまで。
友達の存在は、きっと毒にも薬にもなり得るだろう。
意気投合すればするほど、自分達は最強なんじゃないかと錯覚する。
神様がベストマッチさせたんじゃないかと。
んな訳はない。
それなりに、お互いが気を遣って接している成果だろう。
人は誰かと仲良くなりたいと思うほど、その人のことを意識するはずだ。
他人でいいなら素通りするだけだろう。
運命の出会いなんかない。
本当の親友に出会えたと思っても、時が過ぎれば当たり前に疎遠になったりする。
向こうが新しい親友を見つけたのかもしれない。
自分の生活環境が一変したのかもしれない。
友だちの思い出。
勘違いして調子に乗ってた。一人じゃ何も出来ないくせに。
ドラマの主役になったような錯覚で、夜通し走り回ってた。
ハメを外すこともあった。
公序良俗に反することだって、自分達なら許されるんじゃないかと思ってた。
バカだった。
イイことも悪いことも、そいつと一緒にいるフィルターで見てた。
だから、いつだって世界が明るく見えた。
だけど、そのフィルターを外して見る世界は、不安だらけで心細かった。
結局、リアルを忘れるためのドラッグみたいなものなのかも、友達なんて。
…いや、違うか。
友達の存在は、毒にも薬にもなり得るんだ。
たとえ意気投合しても、運命の出会いだと思えても、自分の中に越えない一線を持って、それだけは死守するつもりで付き合えばいい。
そんな友だちの思い出を、宝物として残すために。
いずれ、あっけなく他人に戻る日が来るかもしれないんだから。
星空はメルヘンだけど、宇宙の星達は、メルヘンとは程遠く、人類にとって過酷で無骨な地表や大気に覆われていると…「エイリアン」や「アルマゲドン」なんかを観て思った。
実際のところは、行ったことがないから知らんけど。
夜空に浮かぶ星のどれかひとつに飛んでいって、その星から夜空を見上げたら、その無数の星のどれかひとつがこの地球で、探すことも困難かもしれないけど、その星には何よりも大切な人も含め80億を超える人達がいる訳で、でもその時の自分にとっては無数の星達の中のひとつでしかなく、もし目の前でその星が消滅したとしても、「あ、消えた」ぐらいの感覚にしかならない訳で。
「あ、消えた」の瞬間に、この地球ではどんなことが起こっているのか。
まあ、阿鼻叫喚の地獄絵図だろう。
そんなことは、メルヘンチックに星空を見上げていても気付きやしない。
流れ星だってそうだ。
メルヘンチックに願い事をするつもりが、そのまま地球に落下して阿鼻叫喚の地獄絵図となる可能性はある。
ちなみに、メルヘンってドイツ語なんだ。
しかも、メルヘンチックは和製語。
知らんかった。
モノ書いてると勉強になるな。
メンヘルは…まあ、どうでもいいか。
強引に星空の話。
故郷に帰って夜空を見上げると、見える星の数が違う。
恐怖を感じるほどの星空だ。
これを、メルヘンと呼べるのか?って話。
いや、メルヘンとか言い出したのは自分だが…何にせよ、宇宙は神秘であり、脅威であり、ロマンだよなって話。
人類がどれだけ進化しても、文明がどれだけ進歩しても、宇宙のすべてを知ることは不可能だと思う。
まさに、神のみぞ知る、ってやつか。
神様が、記者会見でも開いてくれたらいいのにな。
宇宙人はいるかって?
そりゃいるよ。
君達が存在してることが何よりの証拠でしょ。
いないと思う方がおかしい。
幽霊?
それもいるよ。
死んで終わりじゃ寂しいからね。
後日譚みたいのがあってもいいっしょ。
UMA?
UMAってあの、雪男とか河童とか?
それは作った覚えがないな。
君達が勝手に想像して創造したんじゃない?
運命…?
ああ、君達がコントロールされてるかってこと?
そんなことしてないよ。
メンドくさいから、好き勝手にやらせてる。
ああ、そのせいで地球が大変だって話?
んなこと言われても、自業自得じゃん。
それとも、がんじがらめが良かった?
自由に恋愛も出来ないんだよ?
地球の未来?
さあね、知ってるけど、教えてはあげない。
だってどうなるか知ったら、君達、生きる気力を失くしちゃう…いや、聞かなかったことにして。
嘘嘘、神様もたまには冗談かますんだって。
「この道の先に、ホントに旅館なんてあるの?」
そんな山道だった。
舗装もされておらず、しばらく人の通った形跡もない。
迷い込んでいく感覚しか持てなかった。
果たして、旅館はあった。
歩き疲れて、案内された部屋で大の字に寝転がる。
すぐに夜が来て、夕飯は広い食堂に一人きり。
確かにオフシーズンだけど…秘湯で人気のある宿って…。
その秘湯は最高だった。満足して布団に入る。
深夜、目が覚めて、部屋の天井に張り付いている女を目撃。
蜘蛛のように天井から降りてきて、私に言った。
「イマスグニカエレ」
…いやいや、もう一度くらい秘湯を楽しまないと。
どれだけの思いでここまで来たと思ってんの。
夜は明けない。
朝風呂を期待していたが、昨夜のお風呂が最後の贅沢だったようだ。
そういえば、ここに来る途中で事故にあった。
家族で、車で出掛けたはずの温泉旅行。
助手席の妻と、些細なことで口論になって、イライラしながら運転が雑になって、高速で中央分離帯に突っ込んで。
天井の女は、ずっと部屋の隅でぶら下がっている。
あれは妻の変わり果てた姿だ。
子供達はどこだろう。
部屋の窓に、巨大なナメクジのような生き物が張り付いている。
まさかあれが…いや、考えるのはよそう。
暗闇の中で、妻のような存在に話しかける。
「悪かったな…俺の運転のせいで」
黒い影がモゾモゾと動き、天井からすぅーっと降りてきて、言った。
「ザンネンダケド…シカタナイ」
「つまんないことでムキになって、せっかくの旅行を台無しにして」
「ザンネンダケド…シカタナイ」
「ここの温泉、良かったよ。お前達も…」
「イマスグニカエレ」
「えっ…?」
「イマスグニカエッテ…アナタダケデモ」
目を覚ました。
高速のサービスエリア。
子供達のトイレを待っている間に、車の中で眠ってしまったらしい。
助手席の妻が、
「疲れてるんだね。運転代わろうか?それとも…今回は近場にする?」
と聞いてきた。
帰ろう。
この道の先には、きっと何か、良からぬものが待っている。
そう思いながらも、抗えない何かに操られて、私は言った。
「いやいや、せめて一度は秘湯を楽しまないと。
どれだけの思いでここまで来たと思ってんの。
簡単にやめようとか言ってんじゃねえよ、バカ」