Ryu

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4/13/2024, 5:17:18 PM

失意の果てで、優しさに出会った。
不器用な優しさだった。
それでも、私のことを心から愛してくれた。
暴力の限りを尽くし、事故であっけなく死んでいった夫とは、まったく別の存在だった。
でもだからこそ、どう接していけばいいのか、慎重になる自分がいた。

ある日彼が、一匹の子犬を連れてきた。
飼ってくれないか、と言う。
私の心を癒やすために、彼は努力を惜しまなかった。
子犬にはすでに名前が付いていて、それは彼の名前によく似ていた。
僕がいない時は、この子を僕だと思って、彼はそう言って笑った。

それから当然のように、彼との交際が始まったが、彼はデートの度に、他の誰かを連れてきた。
二人で会うことはなく、誰かしらを紹介され、三人や四人で食事をしたり、映画を観たり。
それは彼の友達だったり、職場の同僚だったり、同じ人と何度か会うこともあった。

二ヶ月ほど、そんなデートが続いて、最初のうちは「二人きりで会うのが恥ずかしいのかな」などと考えて、紹介されるままに楽しい時間を過ごしていたが、次第に不満が募ってくる。
ある日、彼に電話をして、次は二人きりで会いたいと告げた。

その日は快晴だった。
そして、彼は来なかった。電話にも出ない。
二時間待ち、裏切られた気持ちで家路についた。

慎重に付き合ってきたつもりなのに。
どこで間違えてしまったんだろう。
あの優しさは嘘だったのか。
彼がくれた子犬は、部屋の中を楽しそうに走り回っている。
名前を呼ぶと、切なさがこみ上げてきた。
彼によく似た名前。

夜、彼が以前紹介してくれた彼の友達から電話があった。
今日の午後、彼は病院で息を引き取ったという。
聞けば、私と出会った頃、すでに余命二ヶ月の告知を受けていたらしい。
そして、彼から、「自分がいなくなったら、自分の代わりに彼女を支えてあげて欲しい」と、お願いされていたと。

馬鹿げている。
どうして自分には何も話してくれなかったのか。
パートナーを二度も失う悲劇を、説明するに堪えなかったのか。
だから、自分以外の誰かと会わせて、その人と私が結ばれる未来を勝手に思い描いていたのか。
馬鹿げている。
人を馬鹿にするのも、いい加減にして欲しい。

一晩泣き疲れて、朝方ちょっと眠りに落ちた。
目覚めると、窓の外には昨日と同じ快晴の空。
散歩日和だ。
服を着替えて、彼の名を呼んだ。
彼が連れてきた時より少しだけ大きくなった子犬が、尻尾を振って走ってくる。

「僕がいない時は、この子を僕だと思って」
他人に託しても、一番そばには自分がいたかったのね。
不器用に見えて結構策略家だったのかも、なんて、今さら彼の内面を少しだけ知れたような気がして、泣きながら微笑んだ。

4/13/2024, 7:56:22 AM

遠くの空へ思いを馳せる。
今日も世界は平和であれ。
素晴らしい音楽が生み出され、新しいテクノロジーが人々の生活をレベルアップして。
目まぐるしく変わりゆく世界を、この場所で堪能していたい。

遠くの空の下で起きている出来事が、涙に暮れる悲劇であったとしても、この青空がずっと繋がっているのなら、いつかその場所にも素晴らしい音楽やテクノロジーが届くと信じて、人間らしい生活が守られると信じて、遠くの空へ思いを馳せる。
私はこの場所で生きてゆくから、それくらいしか出来はしないけど、この星の上に立って空を見上げれば、どこまでも繋がっている。同じ星の上にいる。

嬉しいことも悲しいことも、誰もが同じように経験して、強くなって優しくなって、この世界のメンバーになった。
大きな貢献は出来なくても、そこかしこで冗談を飛ばして、小さな笑顔を作ることくらいは出来るよ。
小さな役割を担って働いて、人々の生活をレベルアップする技術を手助けすることも。

大空が繫ぐネットワークで、人々の夢がリンクアップしてゆく。
時代は世界をひとつにしようとしている。
たとえ遠くの空の下での出来事も、きっと他人事じゃない。絵空事でもない。
空の向こう側で思いを馳せる誰かのメッセージを、このネットワークを使って受け取ったら、すべてをSNSで世界に発信して、他人事を自分事に変えてしまおう。絵空事をリアルに変えてしまおう。

この場所にいてもそれが出来る時代。
テクノロジーの進化は世界平和のためにある。
そう感じながら、素晴らしい音楽を聴いて、仕事へ向かう。
他愛ない会話で笑い合い、人々の生活を快適にする技術の手助けをするために。

4/12/2024, 3:31:02 AM

辛い時代があった。
辛かったから、がむしゃらに頑張った。
誰かに寄り添いたくて、がむしゃらに頑張った。
さよならをした人の面影に背を向けて、新たな幸せを求めて前に進もうとしていた。
そして、あなたに出会った。

あなたに会えて、本当に良かった。
嬉しくて、嬉しくて、言葉にできない。

会えたのは奇跡なんかじゃなくて、きっとがむしゃらに頑張ったことと偶然のコラボ。
きっと奇跡は、そこから今までの何十年という年月をあなたと過ごせたこと。
そして、新しい命が生まれたこと。

君達に会えて、本当に良かった。
嬉しくて、嬉しくて、言葉にできない。

この先、言葉にできないほどの喜びに、何度出会うことができるだろう。
濃密な時代は過ぎた。
それでも、思い出せば笑顔がこぼれるような出来事をたくさん持ち合わせてる。
そしてきっとこれからも、心打ち震えるような幸せな瞬間に立ち会えるかもしれない。

この世界に生まれて、本当に良かった。
嬉しくて、嬉しくて、言葉にできない。

…いや、あえて言葉にするなら、ただ一言。
「ありがとう」

4/10/2024, 11:18:54 PM

優しい心に春爛漫。
彩られた世界が心に安らぎをくれる。
昨日職場で怒鳴っていた上司も、今朝は穏やかな朝の光の中で目覚めただろうか。
昨日怒鳴られていた新入りの彼女は、心をリフレッシュして朝の電車に揺られているだろうか。

この季節は短く、咲き誇る花もまもなく散り終える。
熱に浮かされるような次の季節が来る前の、ほんのわずかな春爛漫。
心ゆくまで感じ取って、その心に優しさを残したい。
夏の楽しさ、秋の寂しさ、冬の厳しさ、春の優しさ。
舞い散る桜の花びらが、通勤電車の車窓を流れてゆく。

「どこ行くの?」
「ちょっとそこまで、散歩」
「ちょっと待って、私も行く」
「へー、珍しいね」
「すごく気持ちのイイ天気だよ。家にいるのはもったいない」
「近所を回るだけだよ?」
「春だしね。何かに出会いそう」
「新入生でもないのに?」
「毎年この季節は新入生の気分だよ。世界が生まれ変わってるっていうか」
「ああ、確かに、何かが終わって何かが始まる季節かな」
「ね、だからちょっと遠出して、新しく出来たあそこの店でクレープ食べて…」
「ダイエットは一旦終わったのね」
「そう、来週からまた始めるの」

春爛漫、イイ言葉だね。
そう言って笑う君の笑顔が眩しい。
昨日職場で上司に怒られたと言っていたが、そんなことを微塵とも感じさせない。
来年の春も、僕達はこうして二人で過ごせるのだろうか。
散りゆく桜の花びらを見ながら思う。

4/10/2024, 2:05:51 AM

空は青く、心は重く、一日が始まる。
楽しいことなんて、きっと今日も起こらない。
何となく気分が悪いし、昨夜の頭痛も少し残ってる。
それでも、当たり前のように今日が始まる。

幸せそうに笑い合う人達。
あの空間に自分がいた記憶はない。
生まれた世界が違うのか、まったく別の人種なんだろうか。
ぼっちの昼食や会話のない休み時間。
私は誰よりも、ずっと無意味な時間を生きてる。

今日という一日が当たり前のように始まる。
空は青く澄み渡り、人々は幸せそうに笑い合っている。
どんな風に今日一日を過ごすか、それを決める自由がある。
無意味な時間でもいい、今日を生きることが出来る。

生まれた世界が違えば、人種が異なるだけで存在さえ否定される。
世界から弾かれ、不衛生な環境に置かれ、自分達の言葉は通じない。
きっと今日も不自由で、差別された時間を過ごすのだろう。
それでも彼らは、起こるはずのない楽しみを、自分達の心ひとつで作り出す。
彼らは誰よりも、ずっと幸せで意味のある人生を送っているのかもしれない。

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