Ryu

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失意の果てで、優しさに出会った。
不器用な優しさだった。
それでも、私のことを心から愛してくれた。
暴力の限りを尽くし、事故であっけなく死んでいった夫とは、まったく別の存在だった。
でもだからこそ、どう接していけばいいのか、慎重になる自分がいた。

ある日彼が、一匹の子犬を連れてきた。
飼ってくれないか、と言う。
私の心を癒やすために、彼は努力を惜しまなかった。
子犬にはすでに名前が付いていて、それは彼の名前によく似ていた。
僕がいない時は、この子を僕だと思って、彼はそう言って笑った。

それから当然のように、彼との交際が始まったが、彼はデートの度に、他の誰かを連れてきた。
二人で会うことはなく、誰かしらを紹介され、三人や四人で食事をしたり、映画を観たり。
それは彼の友達だったり、職場の同僚だったり、同じ人と何度か会うこともあった。

二ヶ月ほど、そんなデートが続いて、最初のうちは「二人きりで会うのが恥ずかしいのかな」などと考えて、紹介されるままに楽しい時間を過ごしていたが、次第に不満が募ってくる。
ある日、彼に電話をして、次は二人きりで会いたいと告げた。

その日は快晴だった。
そして、彼は来なかった。電話にも出ない。
二時間待ち、裏切られた気持ちで家路についた。

慎重に付き合ってきたつもりなのに。
どこで間違えてしまったんだろう。
あの優しさは嘘だったのか。
彼がくれた子犬は、部屋の中を楽しそうに走り回っている。
名前を呼ぶと、切なさがこみ上げてきた。
彼によく似た名前。

夜、彼が以前紹介してくれた彼の友達から電話があった。
今日の午後、彼は病院で息を引き取ったという。
聞けば、私と出会った頃、すでに余命二ヶ月の告知を受けていたらしい。
そして、彼から、「自分がいなくなったら、自分の代わりに彼女を支えてあげて欲しい」と、お願いされていたと。

馬鹿げている。
どうして自分には何も話してくれなかったのか。
パートナーを二度も失う悲劇を、説明するに堪えなかったのか。
だから、自分以外の誰かと会わせて、その人と私が結ばれる未来を勝手に思い描いていたのか。
馬鹿げている。
人を馬鹿にするのも、いい加減にして欲しい。

一晩泣き疲れて、朝方ちょっと眠りに落ちた。
目覚めると、窓の外には昨日と同じ快晴の空。
散歩日和だ。
服を着替えて、彼の名を呼んだ。
彼が連れてきた時より少しだけ大きくなった子犬が、尻尾を振って走ってくる。

「僕がいない時は、この子を僕だと思って」
他人に託しても、一番そばには自分がいたかったのね。
不器用に見えて結構策略家だったのかも、なんて、今さら彼の内面を少しだけ知れたような気がして、泣きながら微笑んだ。

4/13/2024, 5:17:18 PM