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1/31/2025, 11:03:58 AM

 「なぁ君、どこまで歩くんだい」
 ……どこまで? 考えたこともなかったな。

 「なぁ君、いつまで歩くんだい」
 分からない。疲れるまでかな。もしくは足が、止まるまで。

 「なぁ君、なんで歩くんだい」
 さあ、その答えを探すために歩いているんだろうよ。

 ああ、ああ。
 そう、知りたがるなよ。
 僕らどこまで行ったって、何も分かりやしないんだ。
 一寸先の未来ですら、碌な予測も立ちやしない。全く、いつだって簡単なもんじゃあない。
 けれど君、問うばかりの君、確かな答えはなくたって、悪いもんばかりじゃないって、思うこともあるだろ?

 ならそれでいいじゃないか。

 終わらせたいのならいつでも、けれど、ほんの少しでも、勿体ないと思うのなら、きっと君の足は動くよ。

 肯定も否定もしないよ。僕は君じゃないからね。それにやっぱり、君の未来なんて分かりもしない。もしかしたら今より幸せな瞬間なんて、ないかもしれないね。けれど10年後に、石油王になってるかも。
 分からないならさ、それはどこまでも、確率の話だよ。たらればの話、明日隕石が落ちるかもとかさ、そういう話なんだよ。でもって、何人たりとも、明日隕石が落ちないなんて言えないものな。

 つまりさ。
 僕ら、意味を求めたいように見えるけれど。そんなものはさ、今は絶対、分からないんだよ。でも歩いていたら、ある日唐突にゴールに着いている。その時になって初めて、分かるんだ。きっとね。

 果てのゴールに何があるか?いやいや、決まってなどいないさ。
 だから今は、ただ足が赴くままに。

【旅の途中】

1/26/2025, 6:39:15 PM

 わぁ! 書きかけの原稿が飛んだぞ!!

【わぁ!】






……ブチギレたのはホントだけど流石に流石になのでもうちっと書きます……。









 かの文豪は『トンネルを抜けるとそこは雪国であった』と述べたが、きっと彼の内心は

 「わぁ!ゆきだぁ!!まっしろだぁ!!」

 であったに違いない。風情がない? 趣もない?全く、 直感的な感想にそんなものが付属すると思うのかね。風情も駄勢も、少しばかり心の中の中学生に情けをかけてしまった大人たちがえばってこれを正当化するための、まぁ、あれだ、スマートフォンの後ろに付けるやつみたいなものだよ。
 つまるところあれだ、全人類感動とともにある言葉は

 「ばなな!」

 であると言うことだ。また一つこの世の真理を紐解いてしまった。








 ……しかしながら全く、これがおかしな話ともとれないのだよ。だから困っている。
 少なくとも私は、探しいているわけだ。それこそ、感嘆符しか漏れないような感動に出会ってしまったとき。そいつを完璧に言い表す言葉を。

 もどかしさを感じたことはないか? 息を漏らした経験は? 束の間言葉を忘れてしまいはしないか?

 果たして! 口の先から漏れた、なんとも間抜けな感嘆を、そこに付随する感情を、普く言葉にする術を持っているのなら。

 君、それは何より得難いものだよ。


1/23/2025, 7:19:36 PM

 かつて愛した誰かがいた。きっと、そうだった。

 幸せな日々が無数にあった。あったはずなのに。どうして、無数にあったと、それ以上を思い出せない。今更になって気づいたのか。思い出をいくつ作っておけば良かったのか。

 剣を振るうこと、国を守ること。それが自分の生業だった。そんな自分と接点のあるその人は、ああ、そう、城門付近の花売りだった。
 愛おしかった。貴女の全てが。そう伝えたら、同じ気持ちだったと、頬を赤らめながら、そう言った。夢だと何度も疑った。何度瞼を開けても、覚めることはなかった。
 初めてできた宝物だった。
 守りたかった。何よりも大切にしたがった。

 だから、遊びだと言った。
 襲うつもりだった、そこまで徹底して。けれどついぞ、足はでなかった。
 それでも良かった。彼女は泣きながら深く傷ついたようだったから。そのまま裸体のまま、走って逃げた。適当な理由をつけて、他の騎士を、真面目なやつをあらかじめ近くに呼んであった。彼女は、きっと無事に保護される。

 懲戒処分。当たり前に僻地に、激戦区に飛ばされる。自慢じゃないが、自分は強かった。遅かれ早かれ、ここに来ていた、そう分かっていた。ただ胸に星があるか否かの違いだけ。そうして隣に誰かが、いるかいないかの、違いだけ。 
 この仕事をやめるという考えはなかった。祖国を愛していたから。ほっとした。迷う理由がなくなった。どこまでもいけた、自身の太刀が届くだけ、誰かの為になると思えたから。
 いつか戦友が、そういう奴は怖いと言った。お前は、怖い、鬼のようだ。だが敵さんにも恐れられている。結構じゃないか、と。
 生傷が増えた。これが絶えることはないのだと悟った頃、罪の清算が終わったのか、何時しかの栄誉が漸く回ってきた。任務地は変わらない、予想通り。けれど胸に星を戴けるらしい。だから一度都へ戻れと、そう通達がきた。

 一度は目を疑った。
 かつて愛した誰かがいた。
 幸せそうに、逞しい青年に腕を絡ませて歩いていた。

 心の底から祝福できた、多分、嘘じゃない。
 けれど何故か、僻地に戻れば心なしかの、安息を覚えた。
 
 やれ宣戦布告だとどちらかが言い出せば、益々土煙は激しく立った。鬼の首はいつ何時でも高値がつく、らしい。轟いた悪名の分だけ、押し寄せる数も増えた。一向に構わない、それでも後ろに守るべきものがあるのなら。やることは何一つ、変わらないのだから。

 思い起こすことが増えた。彼女の影を見た。幻だと知っている。
 背中を切られた。唸り声は雄叫びに変えて。痛みも幻だと、知っている。
 思い出したい筈なのに。どうしてこんなに朧げで。目を擦る。視界は未だに拓けている。

 かつて愛した誰かがいた。今は顔も思い出せない、誰かが。
 それだけ。きっと、そうだった。


 一騎当千の栄誉の果てに、幾千万の骸の上に、終に身体は崩れ落ちる。
 友軍の声が聞こえた。ならばもうすぐ戦も終わる。

 なぁ、もう、いいかな。
 疲れたんだ、少しだけ。

 少しだけ、夢の続きを見ることは許されるかな。

 【瞳をとじて】

1/21/2025, 8:54:23 AM

 「進むしかない、というのは、なんて残酷なのだろうな」

 きっと、喪に服しただれかの独り言だった。
 『止まることを許された人間だけが、灰になる権利を有する』
 権利と宣うのはあまりにも不謹慎だろうか。
 だが確かに、彼は打ちひしがれる誰かを見ていた。

 それは当たり前の話。
 誰が消えても。何を成しても。どんな結果が残っても。
 頭上を太陽が一周したら24時間経って。
 今より24時間後は、明日なのだ。
 これは定義の話。言語の話。
 故に自身の意思とは関係なく時間は刻まれる。
 
 ……誰が、歩行だと言ったのだろう。誰が進行だと言ったのだろう。
 僕らは生きているだけで、停滞を許されない生き物であった。

 ああ、それでも。
 打ちひしがれた誰かは、いつかの未来に何かを成すだろう。
 ならば僕らは泣いても喚いても、尻を叩かなければなるまい。
 ならば僕らは、やっぱり進むしかないのだ。 

【明日に向かって歩く、でも】

1/18/2025, 1:11:26 PM

 「ねぇ、人間って、何でもできるんだよ」

 嘘みたいなホント。軽やかに、何事もないように告げた彼女の声色は、僕をからかう時のそれで。だから、どうかな、なんて苦笑しながら返した。
 後から見返せば、それなりの思い出を作ったのに。君の名前と同時に思い返されるのは、いつも決まって、勿論冗談だよとこぼした、君の後ろ姿だった。

 大層な夢を語ることをダサいと思った。思春期の僕はいつだって、ロマンチストを鼻で嗤っていたのだろう。それなりの大学に入って、中堅企業に勤めるよ。つまらないけれどリアルな将来を語ることがカッコいいとすら思っていた。
 その頃の僕は、社会の授業が好きだった。歴史も面白かったけれど、それ以上に政治・経済、なによりも哲学に惹かれた。
 ああ、有り体に言えば、厨二病。17の夏の終わり、先生は期末テストの範囲と称して、僕にニーチェを引き合わせた。ニヒリズム。虚無主義。思春期真っ只中の僕は、都合の良い解釈をした。曰く、今のあることに意味なんて一つもなくて、大成するなにかも運命も宿命もない。嫌な悦。けれども僕は、少なくとも周りより世界を知った気になっていた。鼻を伸ばしたピノキオみたいに。
 僕がこんなにも世界を舐め腐って得意満面であれたのには、勿論理由がある。僕の人生が、うまく行き過ぎていたのだ。部活に打ち込んだ。それなりに心の置ける友人がいた。家族との関係も良好だった。問題らしい問題が、どこにもなかった。そうであるから、クラスで『イケてる』人間でもなかったのに、彼女がいた。
 よくある話だ。同じ委員会に所属していて、なんとなく話す機会が多かった。そうしていくつかイベントが終わる頃に、クラスメートに軒並み「付き合ってるの?」と聞かれただけ。本心がどうだったかは知らないけれど、彼女は悪ノリが好きだったから。そう聞かれる度に、僕の腕をとって「いいでしょ〜」と返した。まもなく僕らの関係は、公認になった。
 実際僕は、否定をしようと思ったのだ。僕と彼女はあまりにも、似ても似つかなかったから。嘘かホントかも分からないこと、くだらない話を彼女は好んだ。ペンギンが空を飛んだら、とか、デロリアンがホントにできたら、とか。『ニヒルな』僕は、その度にツッコミを入れて、彼女はますます上機嫌になる。僕らの会話の大半は、そんな『たられば』な話で埋まっていった。当時の僕は煩わしい、なんて友人に自慢していたけれど、それならば別れればいいじゃん、と言われて何も言えなくなった。
 それなりの思い出を作った。遊園地、水族館、夜の学校のプール、夏祭り。彼女がいたずらの感覚で選ぶ僕らの遊び場は、結果として恋愛小説のテンプレートみたいになった。
 それでも僕らの距離は、縮まらなかった。いつどこで彼女と話しても、どう見ても僕たちは冗談を交わす友人だった、それ以上のなにものでも、なかった。
 
 ……今思えば、虫の良すぎる話だ。鬱陶しいと嘯きながら、この距離感を維持したがった。そう思っていたのは僕だけだったかもしれないのに。



 「ねぇ、人間って、何でもできるんだよ」

 よく、憶えている。高3の、僕が冬服を着た最初の冬の日。面倒くさがって校則で定められるまで夏服だったから、もう木枯らしが吹く頃の、黄昏時。もう何度も一緒に帰れないね、なんて話をしていて唐突に、彼女は言った。
 嘘みたいなホント。軽やかに、何事もないように告げた彼女の声色は、僕をからかう時のそれで。だから、どうかな、なんて苦笑しながら返した。数歩先を歩く彼女が、止まらずに話しかけたから。彼女が僕の顔を見ないで話しかけることが今まで一度も無かった、なんて、僕には気が付かなかったから。
 「……勿論冗談だよ」
 それっきり、彼女は黙った。僕はいつも通りツッコミが欲しいのかと思って、でも誰でも火星に行けるわけじゃないし、誰でも金メダルが取れるわけじゃないでしょう、なんて返した。彼女は返事をしなかったけど、2、3頷いた様に見えたから、それ以上会話を続けることを、しなかった。
 その日はそのまま別れた。数日間、またいつものように他愛もない話をして、気がつけば受験が始まった。僕らが会うこともなくなった。


 そう言えば彼女から進路の話を聞いたことがなかったな、なんてことにようやく気がついたのは、共通テストが終わった後だった。あの後彼女と会ったのは、卒業式の1回きりだった。僕は気になっていたけれど、2次試験の結果が出てない、とか、部活で話がある、とか、ともかく気を使うことが多すぎて、結局彼女に聞くことはできなかった。
 僕らの関係は、そのまま自然消滅した。悔いも未練もなかった。それ以来、彼女と会うこともなくなった。


 彼女の名前を再び耳にしたのは、それから20年以上も後のことだった。
 日本人初の女性飛行士。彼女は火星に行くらしい。今のお気持ちをお伝えいただけますか。無数に炊かれるフラッシュの中で、彼女はインタビュアーにこう言った。

 『誰でもできるんですよ。できたんです』

 大層な夢を語ることをダサいと思っていた。
 その時になって初めて、本当は、大層な夢を語る自分が好きな奴がダサいだけなんだって、気がついた。


【手のひらの宇宙】

長くしようと思って長くしてはいるのですが…
如何せんテーマからブレますね……精進します……

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